レヴvs九番

「う…。くらくらするぅー。……だから使いたくなかったのよねぇ。」


 レヴは左手で頭を抑えながら足がもたつく。レヴはどこかに腰を掛けて少し休もうとしたが周囲は焼け焦げ、瓦礫も粉々になって灰と化しているため腰を掛ける場所がなかった。


「終わっ…-。」


 レヴは顔を上げマスターにクエスト完了の報告をしようとしたその時、目線を下げ前を見ると、オークに残りがいるのが見えた。レヴは顔をしかめる。


「はぁー…。………あんたらもいるのね。。」


 魔王軍第1夜戦大隊。レヴのいた遊撃隊と何かと絡むことが多い。当然向こうもレヴのことを知っている。


「よおぉ、レヴ。おめぇ…。今は奴隷なのか?」


「…………ええ。そういうあんた達は魔王様から離れて野に戻ったの?」


「けっ。言ってくれるじゃねえかレヴ。…そういやぁ、おめぇの強さを知ってはいるがぁ、おめぇと本気でり合ったこたぁねぇなぁ。」


「ふふ、そうね。お互いの強さを知っているけどどちらかが死ぬまでっていうのはないわね。」


 『九番』は残り『5匹』、無傷で体力も魔力も消費していない。一方レヴは無傷ではあるが体力を消耗して魔力も大きく消費している。そして何より『血』の消費量が多すぎる。


「今、魔王軍は混乱している。なら、立て直すまで俺達は好き勝手生きる。魔王様もシェルも許してくれるだろうさ。…なぁ、レヴ。おめぇもそう思うだろう?」


 『九番』がレヴにぞろぞろと歩み寄って来る。レヴと会話している『隊長』を先頭にあまり横には広がらず、隊列を成して、しかし武器は構えず手に持ったままか或いは納刀状態のまま。


 『九番』とレヴとの距離がレヴの影と『隊長』の足が重なるの距離になる。そこで『九番』が立ち止まり、『隊長』が口を開く。


「っと、そうだった。レヴ、おめぇに会ったらこれを渡そうと思ってたんだ…んんぅ?どこやったっけなぁ。」


「隊長!こちらではなかったでしょうか!」


「ぬぅ、おお!これだ、これだ。」


 『隊長』の真後ろのオークが『隊長』に何かを手渡す。レヴは位置取り的に何を手渡しているのか見えない。『隊長』は完全にレヴに背を向けている。






















 音速を超えたの矢がレヴの頭に向かってレヴの死角から飛んで来る。こんなこともあろうかとレヴは範囲魔法を放った時の『血』を空気中に漂わせて、センサー替わりにしていた。


 レヴは視線だけを後ろに向け、上半身を前に倒してかわす。だが、もう一射別の角度から矢が放たれていた。足元に。


 不恰好な体勢になりながらも両足をジャンプしてこれも避ける。とっさに左腕を地面に突き出し、着地しようとした。背後。ここで言う背後はレヴが攻撃を受ける前のレヴの背後。その背後の地面からオークが飛び出してきて、メイスでレヴの腹をカチ上げた。


「ほれ、おめぇに渡したかった物はこれだ。」


 『隊長』の声が聞こえた。声の方を見ている余裕は無い。矢が飛んでくるのが見えたからだ。ご丁寧に最初の矢が通った所を正確に通して来る。矢の通った『線』は『血』がその線上に無い。そのため、視界で捉えていなかったら気付けなかった。


 レヴは左腕を犠牲にするため、矢に向かって手を突き出す。手を出す前、苦痛ではあるが体を無理矢理よじって体勢を変える。その時に空が見えた。


 

 視界いっぱいに広がる『水銀』の空が。

 


 右手で顔をおおい、左手で矢を受け、軌道をずらす。左手は手首から千切れ飛び、矢を受けた反動で体が空中で仰向け状態になる。そして『水銀』を正面から全身浴びる。


「仕舞いだ。」


 『隊長』の淡々とした声がした。レヴの視界の端に捉えた『隊長』の姿は『銀の剣』を振りかざしている瞬間だった。




















 レヴの頭と体が両断された。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る