第110話 手紙?



 二人が朝の運動と、風呂での運動を終えた時には、すでに昼近くになっていた。


「もうこんな時間ですね……」

「そうだな、時間が過ぎるのは早いものだ」


 せっかく王都に旅行に来たのに、二日目の午前中は公園に行き、風呂で過ごしただけだった。

 もったいないとは思いつつも、特にやらないといけないことはないので、別にいいだろう。


 逆に王都には一ヶ月くらいは滞在しようとしているのだ。

 毎日毎日街に出て、観光なんてしていたら疲れてしまうだろう。


 こんな旅行日も、たまにはあってもいいはずだ。


「この魔道具、ドライヤー……って名前でしたっけ? やっぱりいいですね」

「そうだな、買って正解だ」


 今は風呂から出て、テオがヘルヴィの髪をドライヤーで乾かしているところだ。

 すでにテオの髪はヘルヴィが同じように乾かしており、交代していた。


 高いものを買ったので、温風を出している時に音もあまり鳴らない。

 二人ともこの魔道具は、お気に入りだった。


 やってもらうのも、やるのも。

 どちらも二人とも楽しんでいた。


「はい、終わりました」

「ああ、ありがとう。気持ちよかったぞ」

「僕も気持ちよかったです!」


 テオの髪とヘルヴィの髪、もちろん時間がかかるのは髪が長いヘルヴィである。

 ヘルヴィの綺麗な純白の髪を触るのが、テオはとても楽しみだった。


 今後も風呂から出る度に、やりたいと思っていた。



 そして脱衣所から出て、部屋のリビングに戻る。


「お昼ご飯はどうしますか? 外で食べますか?」

「宿屋の者に頼んで、部屋にご飯を持ってきてもらうのもありかもな」

「あっ、それもいいですね」


 部屋に戻り一息つこうと椅子に座ろうとした時、ヘルヴィが気づく。


「ん? あれはなんだ?」

「えっ?」


 部屋の入り口、ドアの下の隙間のところに、紙が落ちているのを見つける。

 ヘルヴィはそれを拾った。


「……紙、いや、手紙のようだな」

「誰からですか?」

「差出人の名は、封には書いてないな」


 ヘルヴィは封を開け、中を開いて手紙を読む。

 テオは手紙をヘルヴィに任せて、部屋の冷蔵庫を開いて飲み物を二人分取り出そうとしていた。


「……っ!」


 ヘルヴィは手紙を読み進めるにあたって、驚いたように目を見開いた。

 そしてすぐに部屋に飾ってある時計を見た。


「……間に合うか」


 とても不機嫌そうに一言そう呟き、鋭い目で手紙を見下ろす。


「テオ、これは私宛の手紙のようだ」

「そうなんですか? 誰からでした?」

「……服屋の、ルナの母親からだ。どうやら私が頼んでいた服を、作り終えたようでな」

「あっ、そうだったんですね! じゃあ後で取りに行きますか?」

「いや、私が一人で取りに行こう。テオが頼んだ服を見るのは、いつか私が着てからだ」


 ヘルヴィは部屋のドアを開け、宿屋の廊下に出ようとする。


「すぐに戻ると思うが、テオは少しの間一人で過ごしていてくれ」

「わ、わかりました。じゃあ適当に散歩でもしてますね」

「ああ、後で合流する」


 ヘルヴィはテオに笑顔を見せてから、部屋のドアを閉める。


 一人部屋に残ったテオは、ヘルヴィの様子が少しおかしかったのに気づいていた。


「……何かあったのかな?」


 あの手紙を読んでから、すぐに部屋を出て行ってしまった。

 確か、ルナの母親からの手紙と言っていた。


「一緒に服を取りに行くぐらい、大丈夫なんじゃ……あっ!」


 そこでテオは、気づいた。


(もしかしたら……今日の朝見たような、え、えっちな下着を、頼んでいたんじゃ……!)


 いつもだったら一緒に服屋に行っていたはずだ。

 だけどテオを置いて服屋に服を取りに行くということは、そういうことだとしか考えられない。


 今朝に見た、ヘルヴィの下着姿。

 何度も裸は見たはずなのに、どうして下着姿の方がドキドキするのだろうか。


 おそらくヘルヴィの反応が、とても可愛らしかったというのがあるだろう。


(また、見たいなぁ……それに、何個も買ってたみたいだし、他にも……はっ、僕、何を考えて……!)


 そう考えてテオは顔を真っ赤にする。

 すぐに考え事を払うように頭を横に何度も振るう。


「お、落ち着け、僕……! だけど、ううぅ……!」


 朝に見た、ヘルヴィの下着姿が忘れられないテオ。


 ほんの数十分前に二人で情事をいたしたばかりなのに、またそんなことを一人で考えてしまうテオであった。




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