第54話 一つ目の山頂
双子山の一角の山頂。
ヘルヴィ達は昼過ぎぐらいに、そこへと着いた。
「おー、いい景色だねー。ここはあまり木がないから、見渡し最高だねー」
ジーナが周りを見渡し、山頂からの景色を楽しんでいる。
「もうお昼だしさ、ここで食べようよ。こんな良いところで食べたら気持ち良さそうだしね」
「そうね、薬草探しの前に休憩しましょうか。探すのも大変そう」
セリアは山頂の地面を見渡しながらそう言った。
一面に咲いている花や草。
木がないだけにとても綺麗な花畑なのだが、ここから薬草を探すと考えるとそうも言ってられない。
セリアには薬草の知識があるだけに、この中から探すのがとても困難だということがわかってしまう。
一応セリアも今回の薬草を資料としては見てきたが、全くその薬草は見当たらない。
似ているものもあるが、だからこそ見分けが難しい。
希少な薬草だし、見つからない可能性もある。
(まあそんなに広くないから、テオと私が端から見ていけば一時間ぐらいで終わりそうね。いや、だけど私だと見落としがあるかもしれないから、テオ一人に任せた方が……)
そんなことを考えながら軽く見渡していたセリアだが、
「あっ、見つけました」
「もう見つけたのか。さすがだな、テオ」
「……えっ?」
テオが足元にあった薬草を指差し、セリアの考えていたことは杞憂に終わった。
その後も昼ご飯を食べようと見晴らしのいい場所へと移動したときに一本、昼ご飯を作っている間にもう一本見つかった。
薬草を見る限り、セリアには似ているものと見分けがほとんどつかなかった。
よく注視すれば色合いや形が違うのだが、何か作業をしながら見つけられるとは到底思えない。
テオの圧倒的な薬草採取の才能と運によって、こちら側の山頂での依頼は終わった。
「……さすがね、テオ」
「ありがとうございます、簡単に見つかってよかったです」
気合いを入れて山頂に来たテオとしては少し拍子抜けだが、セリアとしては凄すぎて言葉も出なかった。
テオの作ったお昼ご飯を食べながら、休憩をしている四人。
「テオ君、疲れてない? 毎回料理作ってもらって、大変でしょ?」
「任せっきりで悪いわ。次のご飯は私たちが作った方がいいかしら?」
「い、いえいえ! 僕の仕事はこれくらいしかないですし、お二人は戦いで疲れていると思うので大丈夫です!」
テオとしては盗賊との戦いや、他にも道中で魔物と戦っている二人には休んでもらいたいし、自分も役に立ちたいと思って戦闘以外を頑張っている。
しかし二人としては盗賊や魔物との戦いはそこまで疲れるものでもなく、本気を出そうとしたボスとの戦いもヘルヴィがやってしまったので、特に疲れているわけではない。
「うーん、テオ君がそう言うなら任せるけど……実際、私たちと比べ物ならないくらい料理美味しいし」
「大変だったら言ってね、手伝うから」
「はい、ありがとうございます。だけどヘルヴィさんも手伝ってくれてますから、大丈夫ですよ」
「ふむ、妻としては当然のことだ」
隣でヘルヴィの発言を聞いて、「あ、ありがとうございます……」と頬赤く染めながら礼を言うテオ。
いまだにこういう発言で照れるテオだが、慣れる日は来るのだろうか。
その照れる姿を見たいので、ヘルヴィとしてはその日は来てほしくない。
「ヘルヴィさんも疲れてたら言ってくださいね。お、奥さんを……癒すのも、夫の役目です……!」
「……ああ、ありがとう」
さらに顔を真っ赤にさせながらも、そう言ったテオ。
ヘルヴィは顔には出さないが、心の中は乱れていた。
(ふ、ふむ、奥さん……良い響きだ。前にも言ってくれたが、なんか、うん……良いな)
二人は顔を合わせずにお互いに照れているのを、彼氏居ない歴が年齢と等しい二人が面白くなさそうに見ていた。
可愛いテオの姿を見るのは好きだが、夫婦のイチャイチャを見るのは面白くない。
仏頂面でその様子を見ていたジーナだが、何か思いついたかのようにニヤッとする。
「それじゃあさテオ君、ヘルヴィさんにマッサージでもしてあげれば?」
「なっ……!」
「えっ? マ、マッサージですか……?」
「そうそう、テオ君ってマッサージ得意じゃん」
昨日の夜発覚した、ヘルヴィの弱点。
マッサージをしてもらっているだけなのに、くすぐったくて声を出すほどの敏感な体質。
テオは気づいてなかったが、ジーナとセリアはその場にいたのでその弱点を知っている。
だからこそヘルヴィを癒すためと言っておきながら、テオにはバレずに少し意地悪なことを提案できた。
「そ、その……」
「あら、ジーナにしては良い考えね。ヘルヴィさん、テオはとてもマッサージが上手いからやってもらうといいわ」
ジーナの考えていることを察知したセリアが、良い笑顔で援護射撃をする。
心では二人とも悪い笑顔をしているが。
(お、お前ら……!)
もちろんヘルヴィには、心で悪い笑顔をしているのが見える。
(おっ、入ってきた。ほらほらヘルヴィさん、また気持ちよくしてもらえば?)
(まあヘルヴィさんとしては、気持ちいいのかくすぐったいのかどっちかわからないと思うけど)
(……この旅が終わったら、お前らにはお仕置きをしてやろう。昨日の分も含めてな、覚悟していろよ)
テオの前ではお仕置きという名の地獄をまだ味わせないが、絶対に仕返してやると決めるヘルヴィ。
その恐ろしさを知らない二人は、今は調子に乗ってからかうことが出来る。
「お、お二人は知らないと思いますが、ヘルヴィさんはマッサージされるのが苦手みたいで……」
テオは昨日の夜のことを思い出して、顔を赤くさせながらそう言った。
初めて見るヘルヴィの姿に、少し変な気持ちになったので恥ずかしいのだ。
「あっ、そうなんだー。ヘルヴィさんマッサージ苦手だったんだー」
「意外だわ、ヘルヴィさんにも苦手なことがあったのね」
二人はヘルヴィのことを見ながら、抑揚のない声でニヤニヤしながらそう言った。
やり返されることを知らない二人は、今だけヘルヴィに勝った気がして少し良い気分になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます