第48話 罠
「めんどくさいなぁ……!」
ジーナが迫り来る丸太を避け、イラつきながらそう呟いた。
木にくくりつけているので、一定のところでブランコのように行ったり来たりをする大きな丸太。
盗賊が仕掛けた罠で、身体に当たれば骨の一本や二本は軽く折れそうだ。
「ちょっとジーナ、避けないで壊してよ。あなたが避けると後ろの私たちも避けないといけないでしょ」
「ごめんごめん、反射的につい避けちゃうんだよね」
ほぼ真後ろにいるセリアはギリギリで避ける。
その後ろにいるテオはそこまでの反射神経はなく、そのままでは当たってしまう……が、その前にヘルヴィが丸太をいとも容易く破壊した。
人がドアを軽くノックするような仕草で、人を簡単に吹っ飛ばすほどの丸太を粉砕してしまう。
「あ、ありがとうございます!」
「これくらい造作もない」
四人が山頂に近づくにつれ、盗賊の罠が出てくるようになった。
巧妙に隠していて、発動するまではジーナとセリアですら気づかない。
しかし発動しても簡単に避けられるので、それほど切羽詰まってはいない。
テオはほとんど全ての罠は避けれないが、ヘルヴィが隣にいる。
どういう罠かも発動する前にわかるので、的確に破壊してテオを守っていた。
「隣にいろ、テオ」
「は、はい……!」
ヘルヴィがテオの腰に腕を回し、離れないようにくっつく。
テオは真面目に守ってもらっているから、そういう感情になっちゃいけない……と思いつつも、ヘルヴィの豊満な身体がくっついてドキドキしていた。
ヘルヴィが心を覗かなくても、テオの真っ赤な顔を見ればどう感じているのかがわかる。
(うむ、可愛い。やはり私は責める方が性に合っている。この可愛い姿を、余裕を持って見て、感じたい……)
ヘルヴィはそう思うが、昨日の感覚も忘れられない。
(……まあいつか、そうだな。テオからも責められたら、いいかもな)
そんなことを考えながら、落とし穴に落ちそうになったテオを抱きかかえる。
テオを横抱きにしていて、いわゆる「お姫様抱っこ」というものだ。
この場合、「王子様抱っこ」というべきか。
「あっ、その……ありがとう、ございます。は、恥ずかしいので、下ろしてください……!」
「ふふっ、このまま山頂に行くのもいいかもな。こちらの方が守りやすい」
「っ! そ、その、やめていただけると助かります……!」
この体勢になると必然的に顔と顔が近づく。
テオは顔が真っ赤になっているのを感じて、至近距離で見られて恥ずかしいので隠すために両手で顔を覆った。
「うわー、もうテオ君、本当に可愛いなぁ……!」
「いいわね……普通なら男女の立場が逆だと思うけど、あの二人だったらあれが完璧ね」
前を歩いていた二人だが、後ろで良い雰囲気になっているのを見て羨ましがって、そして癒されていた。
「さすがにテオ君をお姫様抱っこはしたことないなぁ。私もしたいけど、絶対に許してくれないよね」
「そりゃそうでしょ、あのヘルヴィさんよ……あっ、ジーナ」
「そうだよね……ん? なに?」
「丸太」
「えっ? うぼぉ!?」
ジーナの横っ腹に、いつの間にか発動していた丸太の罠が炸裂した。
不意打ちだったので耐えきれず、そのまま吹っ飛んだ。
「いったぁ……!」
「だっさい声ね、『うぼぉ』って。女が出していい声じゃなかったわ」
「それよりも、私の身体のこと心配してくれない……?」
「あなた鋼鉄魔法使ってるから、別に大丈夫でしょ?」
「そうだけど、痛いものは痛いんだからね」
自分を吹っ飛ばした丸太がブランコのように戻ってきたので、「こなくそぉ!」と言いながら殴って破壊した。
「というか今の私の声、テオ君に聞かれてないよね?」
「大丈夫よ、あの二人、あなたが吹っ飛んだことさえ気づいてないわ」
「それはそれで傷つくんだけど……」
そうこうしながら、四人は山頂を目指していく。
テオはさすがに恥ずかしいので、下ろしてもらってから。
「というかさ、ここまで来ても盗賊が一人も見当たらないね」
罠を壊しながら、ジーナはそう言った。
これだけ多くの罠が仕掛けられているのにもかかわらず、盗賊が一人もいない、出てこない。
「どっかで待ち伏せでもしてるんでしょ」
「あー、そうかもね。弱ったところを叩く、てきな」
「こちらは全く弱ってないけどね、一人油断してた人がいたけど」
「う、うるさいなぁ!」
「えっ、ジーナさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ!」
心配されたことは嬉しいが、やはり見られてなかったと知って残念に思う。
「しかしそうだな、お前らの言う通りみたいだ」
「えっ?」
「この先に待ち構えているぞ。そろそろ罠も無くなるようだ」
「あ、そうなんだ。ん? ヘルヴィさん、もしかして罠がどこにあるかわかってたの?」
「もちろんだ」
「なら私たちに言ってよ! もしくは先頭を歩いてよ!」
これから罠もなくなるところで先頭を代わっても意味がないので、そのまま進む。
すると……ヘルヴィが呟いた。
「ほら、お出迎えだ」
次の瞬間、先程までの罠が一気に発動したかのように、丸太や槍。
そして人間が撃ったであろう、火や地の魔法が全方向から四人に襲いかかってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます