第47話 二日目の朝
四人にとっては少し長い夜になった、旅の一日目。
そしてようやく夜は明け、二日目の朝。
また役割分担をして、夫婦は朝飯の準備を、他の二人はテントの片付けをした。
そして片付けが終わり、テオの美味しい朝ご飯を食べ終わる。
荷物はまた、ヘルヴィが上空へ浮かび上がらせる。
もう他の三人は大きな荷物が空に消えていく光景を見ても、驚かなかった。
「さて、お腹いっぱいにもなったし、行こっか!」
ジーナの元気な一声で、四人は山頂を目指して歩き出した。
「いやー、旅であんなに快適に寝たのは初めてだなぁ」
「そうね、ヘルヴィさんの魔法のお陰ね」
あれだけ夜に動揺していても、テントの周りに張った結界は全く乱れていなかった。
虫も入ってこれないので、何も心配をせずに四人は寝れた。
「僕もぐっすり眠れました、ありがとうございます、ヘルヴィさん」
「ん、ああ、それは良かった」
寝るときにテオは緊張していたが、疲れからかすぐに眠ってしまった。
むしろヘルヴィはマッサージで身体が火照ってしまい、テオが寝返りを打つ度にドキドキしていた。
テオは少し寝相が悪いのか、時々ヘルヴィの身体を触ってきたり、一回抱きついてきたりもした。
完全に寝ていて無意識なのが、余計にタチが悪い。
襲わなかった自分を褒めたい……いや、むしろなんで襲わなかったのか、自分でもわからない。
しかしまあ……抱きついてきたお陰で、ナニをしたとは言わないが、身体の火照りは少し収まったのは良かった。
(襲ってはいないぞ……少し首筋を舐めたり、触ったりはしたが……下は触っていない)
誰に言い訳するでもなく、そんなことを考えるヘルヴィ。
山頂に向かって歩き出したのだが、テオ以外の三人はすぐに異変に気づく。
(ヘルヴィさん、聞こえる? それにわかってる?)
(ああ、聞こえているし、わかっている)
(地面がなだらかすぎるわ。まるで何か、証拠を隠したかみたいに……)
これだけの森の中で地面に起伏がなく、なだらかなのは不自然である。
おそらくこれは自分たち以外の誰かがここを通り、足跡を消すためにやったことだ。
(おそらく今日、どこかで仕掛けにくるだろう)
ヘルヴィは頭の中でそう伝え、二人は同意するように頷いた。
◇ ◇ ◇
「おいおい、もう日が昇っちまったじゃねえか」
一人の男が、舌打ちをしながらイラついたように言った。
少し古びた大きな椅子に座り、机に両足を乗っけている。
周りにいる男たちは、そいつの機嫌が悪いことに怯えていた。
「す、すいません」
「なんであんな目立つことしている相手を、一晩かけて探せねえんだ?」
男たちに指示したのは、この山に入ってきた奴らを捕まえ、男だったら殺し、女だったら連れ帰ってこいということ。
大きな山なので、入ってきたことを知るのはいつもならもう少し後になっていたはずだ。
しかし今回すぐに入ってきた者がいるとわかったのは、その者が目立つことをしているから。
そいつらの荷物か何かが、上空へと浮かび、そして落ちていくのが見えた。
自分たち盗賊に、発見してくれと言っていると同然だった。
だから夜のうちにそいつらを発見し、こちらが先制攻撃を仕掛けようとしたのだが……。
男たちが十数人がかりで探しても、全く見つからなかった。
足跡を見る限り、そいつらは四人いる。
足の大きさもあまり大きくないので、全員が女か、身長が低い少年が混じっているか。
それらの情報がわかっているのに、どこにいるかがわからなかった。
「そんなに無能だったか? お前ら」
「そ、それは……すいません」
イラつく男に、謝ることしかできない。
盗賊団の中で一番強く、ボス的な存在。
ここにいるボス以外の十数人で一斉に戦っても、ボスには敵わないだろう。
「……はぁ、まあいい。お前らは弱いが、使えないわけではない。それは知っている」
ボスはため息をついて、机から足を下ろし、今度は肘をついて考える。
「この人数で一晩かけて探し回って、見つからないのはさすがに不自然だ。位置をほぼ把握しているのもかかわらず。つまり今回の相手には、高位な隠蔽魔法を使える奴がいる」
ボスの一言に、部下の中の数人がハッとする。
今気づいた、というように反応した奴らを、ボスは一睨みした。
「余程の馬鹿じゃなければわかるだろ」
「す、すいません」
その数人を除いて他の奴らはわかっていたようだ。
「それに気づいても探せなかったのか……なかなか手強い相手のようだな、今回の相手は」
「はい、ボスの力をお借りしたいと思います」
周りの男たちも決して弱くはない。
そこらの傭兵よりも強い者も多くいる。
それなのに全員で戦ってもボスには勝てないということは、それだけボスの強さが桁違いということ。
「久々に俺が、本気を出せる相手がいるか……ははっ! 楽しみだ」
ボスは立ち上がり、不敵に笑った。
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