第46話 くすぐり
「あ、あの、やめますか……?」
テオとしては普通にマッサージをしているだけなのに、どう見てもくすぐったそうにしているヘルヴィ。
筋肉はほぐれるかもしれないが、疲れは取れない、むしろ過剰に反応して疲れてしまうだろう。
「い、いや、大丈夫だ。引き続き頼む」
しかしヘルヴィは続けてもらうことを選択する。
テオに触られる機会などほとんどなく、これを逃す手はない。
(私が我慢すればいいだけの話だ……! こんなもの、私だったら簡単に……!)
少しでも抵抗するために、まずテオの思考を読む。
どこを次に触ってくるかを知ることで、身構えることができる。
次は肩甲骨の辺りを触ってくるようだ。
そして……。
「んっ……はぁ……!」
先程よりは我慢できるが、声が抑えられるほどではない。
むしろ我慢しているからこそ、より色っぽい声色になってしまっている。
これにはテオだけじゃなく、外にいるジーナとセリアも赤面する。
(へ、ヘルヴィさーん? 大丈夫? やってないんだよね? マッサージを受けてるだけだよね?)
(テオのときよりもなんか生々しい声が聞こえるのだけど……)
(だ、大丈夫に決まっているだろう。私は……くうぅ……!)
頭の中で話すのも少し難しくなってきている。
テオは的確にマッサージをしているのだが、逆にそれがヘルヴィの弱点を的確についていた。
特にヘルヴィがくすぐったそうにしているのは、脇腹付近だった。
テオもそれはわかったので極力触らないようにしているのだが、背中をマッサージしていると少しは指が当たってしまう。
そしてそれは意図せずに当たってしまうわけだから、ヘルヴィがどれだけテオの思考を読んでも予測はできず。
「あんっ……うぅんっ……! はぁ、はぁ……!」
そんな声が度々出てしまい、息が乱れる。
(な、なんだか、ヘルヴィさんの声を聞いてると、変な気分になってきちゃう……)
そういった行為を全く意識したことがないテオですら、興奮させてしまう色っぽい姿と声。
テオが興奮しているのを心を覗いているから知ってしまい、さらに身体が敏感になって熱くなってくるヘルヴィ。
そのような循環があり、ヘルヴィがこのマッサージで声を我慢できるのは不可能だった。
数十分後、ようやくマッサージを終えて一息つく。
一息ついたのはテントの中の二人と、外の二人だ。
(いやー、良いものを聞かしてもらったよ)
(そうね、ヘルヴィさんのお陰で、私も満足できたわ)
先程の欲求不満を、今のヘルヴィのマッサージの時間で発散したセリア。
それほどヘルヴィの声は、外で聞いていても興奮させてくれるものだった。
(お前ら……明日覚えてろよ)
(うわー、怖いなぁ。じゃあ、おやすみヘルヴィさん、マッサージもほどほどにね)
(おやすみなさい。テオにもよろしくね。ふぅ、まず着替えないと……)
頭の中でそんな会話をして、ヘルヴィは二人の心を覗くのを止める。
テオにもよろしく、と言われたが、覗かれていたことを話すわけがない。
「ヘルヴィさん、大丈夫でしたか?」
「あ、ああ、もちろん。気持ちよかったぞ、テオ、ありがとう」
「そ、それは良かったです……」
テオは昔にジーナやセリア、それに受付嬢のフィオレにもマッサージをしたことがある。
そのときにも「気持ちよかった、ありがとう」と言われたが……。
三人の「気持ちよかった」と、ヘルヴィの「気持ちよかった」が何か違うとテオは少し感じた。
前者は単純に、身体が楽になった、心地良かったという意味だというのはわかる。
しかし後者、ヘルヴィのはなんだか違う。
テオにはその違いがしっかりと理解できないけど、三人の「気持ちよかった」とは違うと感じた。
それを考えると、テオの身体は熱くなってきて……。
「テオ、そろそろ寝るか」
「っ! は、はい!」
変な気分になりそうなところで、ヘルヴィから声がかかって思考を止める。
自分が少し変なことを考えていたと思い、恥ずかしがり顔が赤くなってしまう。
それを見てヘルヴィはなぜ顔が赤くなったのかを不思議に思う……ことはなかった。
(くっ……は、恥ずかしさのあまり、止めてしまった……! あのまま思考させていれば、もしかしたらあんなことやこんなことができたかもしれないのに……!)
心を読んでいたので、テオの考えていたことは全部わかっていた。
だからこそ、自分の恥ずかしい姿を思い出しているのを止めたのだ。
テオが自分の姿で興奮してくれるのは嬉しいが、今回のはさすがに恥ずかし過ぎた。
(こ、こんなにも恥ずかしいものなのか……! やはり私は、責められるより、責める方が性に合っている! テオに責められてこんな恥ずかしい思いをするのであれば、私からした方が……!)
そう決めつけて、二人はテントの狭い中で寝ることにした。
しかし今日のことから、二人が初めてを迎えるまでの間。
寝るときには毎回、テオから責められることを考えて、寝つきが悪くなってしまうヘルヴィだった。
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