第43話 テントの中?
辺りは完全に暗闇になり、ジーナとセリアの目ですらほとんど見えなくなった頃。
四人はそれぞれコンビ同士、そして夫婦同士で別れてテントに入ることになった。
普通ならこういう場合、誰か一人が見張りとして起きていて、交代していく。
しかしヘルヴィがテントの周りに結界を張ったので、絶対的に安全な状態になったので見張りはいらない。
「テオ君、ヘルヴィさん、おやすみー」
「良い夢を、お二人とも」
「ああ、そちらもな」
「お、おやすみなさい……」
最後の挨拶をし、それぞれのテントに入っていく。
ジーナとセリアは慣れたように、狭いテントの中でお互いのスペースを分けて寝転がる。
「んー、今日は久しぶりのテオ君との旅で、楽しかったなぁ」
ジーナは伸びをしながら、今日の出来事を思い出してそう言った。
「そうね、料理もやっぱり美味しかったわ。思い出補正が入ってると思ってたけど、それ以上にね」
テオの料理を最後に食べたのは一年前以上。
あのときに食べた素晴らしく美味しいもの、という印象が強く、自分たちが過大に評価して期待していたと思っていた。
しかしそれにしっかりと応え、それ以上に美味しいものを食べさせてくれた。
王都から帰ってきて、テオに会いに来た甲斐があったというものだ。
二人は今日の思い出を話しながら、服を着替える。
さすがに二人でも戦闘服で寝ることはない。
「あなたはいいわよね、テオに褒められて」
「セリアだって褒められるじゃん」
「あなたほど褒められないわよ」
確かにテオはジーナの戦闘を褒めることが多い。
それは単純に、ジーナの戦いがテオの好みだから。
ジーナの戦い方は徒手で、ただただ力で圧倒するというもの。
魔法で自分の身体を強くしているが、それでも力押し。
テオとしてはそれがカッコいいと感じているのだ。
男なら憧れるであろう、純粋な戦闘力。
だからテオはジーナの戦いに興奮し、褒める。
セリアの魔法もカッコよくて好きなのだが、ジーナの方がテオは好きということだ。
「そういうところも可愛いよね、テオ君って。純粋に憧れてくれてる感じが、私もすごい嬉しいし」
「私ももう少し派手な魔法をやった方がいいかしら?」
重力魔法は本来ならとても派手なのだが、テオは何回も見てしまっている。
最初こそ驚いてとても褒めてくれたが、人は慣れるもの。
重力魔法では褒めることはほとんどなくなってしまった。
しかも前にヘルヴィには重力魔法で敗れ、そしてその魔法ですら上を行かれた。
「テオのために魔法を開発しないと……」
「あはは、いいね。なんか爆発するやつとかだったら派手だと思うなー」
そんなことを二人は話して……話が途切れる。
辺りは森で、とても静か。
虫の鳴き声が時々聞こえてくるぐらいだ。
「……二人はもう寝てるのかな?」
隣のテントにいるはずのテオとヘルヴィの声が、全くしない。
「そうかもね。今日は結構歩いたし、テオは結構疲れていると思うわ。ヘルヴィさんは……これくらいで疲れているとは思えないわね」
「まあそうだね。ヘルヴィさん、息の一つも乱れてなかったもんね」
二人でも汗をかいて深呼吸をしながら登っていたのにもかかわらず、ヘルヴィは汗もかいていなかった。
「……セリア、覗かない?」
好奇心が旺盛なジーナは、無謀にもそんな提案をした。
「……ジーナ、死にたいの?」
「いやいや、さすがに殺されないでしょ……多分」
「ほら、可能性はあるじゃない。あなたさっき殺されかけてたでしょ」
テオのことになるとおふざけが通じないヘルヴィ。
「いや、覗くぐらいなら大丈夫じゃない? ヘルヴィさん、テオ君を奪うみたいな冗談は通じないけど、覗かれるぐらいならさ」
「……そうかもしれないけど」
「覗くのは無理かもだけど、声ぐらいは確認してみない? ほら、やってたらさ……声でわかるでしょ?」
「……」
ということで二人は、挑むことになった。
口ではなんだかんだ言っても、セリアも気になるのだ。
こっそりと自分たちのテントを出て、隣のテントに近づいていく。
今まで培ってきた経験をフルに活かして、気配を殺す。
とても無駄な使い方である。
テントの近くに来て、耳を澄ませる。
先程まで音は聞こえなかったが、ここまで近づいたら中の音が聞こえてきた。
「あっ、ヘルヴィさん……んっ、気持ちいいです……」
「――っ!?」
その瞬間、二人は息を飲んだ。
お互いに目を見合わせ、唾を飲み込む。
このテントの中で、何が行われているか。
さらに気になる二人だった。
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