パパと共に・・・
勝利だギューちゃん
第1話
今、僕は病院に入院している。
もう、かなり長い。
最初の頃は来てくれていた友達も、構ってられなくなったのか、
だんだんと、来なくなった。
友達から知り合いへ、そして、赤の他人へと戻った・・・
病室の窓から見える景色、それだけが、全てだった。
虫の知らせか・・・
もう長くないのを、本能で感じ取っていた。
「れいくん、何かいるものある?」
担当の看護師さんが、気を使ってくれる。
「じゃあ、スケッチブックと、ボールペンと色鉛筆を、用意してください」
「画材ね。わかった」
すぐに看護師さんは、用意してくれた。
今、僕には友達がいない。
いないのなら、作ればいい。
でも、現状ではリアルな友達は無理。
なら描こう。
スケッチブックに・・・
普通の友達なら、つまらない。
せっかくなので、この世にいない架空の生物を描こう。
そうだ、蝶がいい。
蝶は、死者の魂と言われている。
もしかしたら、僕を誘ってくれるかもしれない。
僕は、蝶をモチーフに、キャラクターを描いた。
名前は・・・パピがいい。
パピヨンのパピだ。
女の子・・・
「紙から出てきたりして・・・なーんてね」
「あら、かわいいわね」
看護師さんが覗く。
「れいくんが、描いたの?」
「まあ・・・」
何だか照れくさい。
「でも、今日はもう、休みなさい。」
「はーい」
僕は、スケッチブックをベット脇に置いた。
その夜・・・
「パパ。起きて」
「スースー」
「パパ、起きて」
眼を開ける。
「パパ。お早う・・・も、変かな?」
ベット脇には、僕が描いたパピがいる。
「パピ?どうして・・・君は・・・」
「パパがね。魂を込めて私を描いてくれたから、神様が命を与えてくれたんだ」
「そうなのか・・・」
夢だな。
「パパ、行こうか?」
「どこへ?」
「私の世界へ」
パピに腕を掴まれる。
でも、パピは蝶・・・小さい・・・
「平気よ、パパ」
「どうして?」
「これは、パパの夢だもん」
パピに掴まれて、空を飛ぶ。
夢の中なら、自由に飛べるはず、
でも、それは出来ない。
「パピ、どこへ?」
「もう少しだよ、パパ」
長い時間だったのか、短い時間だったのか・・・
わからない・・・
「パパ、着いたよ」
「パピ、ここは?」
「パパの心の世界だよ」
僕の心の中。
まさしくそれを具現化した世界が、そこにはあった。
自然豊かな場所。
小川はとても住んでいて、飲み水に出来る。
動物や鳥たちが、仲良く遊んでいる。
弱肉強食もない、小さな犯罪もない。
区別はあるが、差別のない世界。
まさに、理想郷だ・・・
でも・・・
「パパ、どう?」
「パピ?」
「パパの描いた世界は?」
自分で言うのもなんだが、とても素敵だ・・・
「でもね、パパ」
「何?」
「ここは、パパ以外の人は住めない」
「どうして?」
自分の中で、その事はわかっている。
でも、パピの口から聞いてみたい。
「今、パパは幸せよね?」
「ああ」
「でもね、他の人を住まわせるとなると、ここを壊さないといけない」
「たしかにそうだね」
「パパも、わかってるんだね」
頷いた。
他の人を住まわせるためには、この自然を壊さないといけない。
家を建てて、ビルを建てて、道路や鉄道を作り、
人が生きていく上で必要なものを、作るためには、仕方のない事だ。
そのために、美しい自然を壊す。
それが、幸せと言えるのか?
「パパ」
「何?」
「パパは私たちとここで暮らす?それとも・・・」
「決まっているだろ?君たちがいれば、他はいらないよ」
その瞬間、僕の体は軽くなった。
「パパ、ようこそ・・・も、変かな?」
パピたちと、笑い合った。
翌日
遺体となった僕の器を、担当の看護師さんがみつけた。
遺体のそばには、たくさんの鱗粉が、あったらしい・・・
そして、スケッチブックの中には、パピの絵と一緒に、僕の姿があった・・・
パパと共に・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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