第58話 急報と目的地急転
いつもより早いくらいの時間に門の前につき、俺たちは開門を待っていた。
「なんでしょうね、今回は予定通りのお散歩で収まらない気がしています。冒険者の勘というやつで」
苦笑したランサーの声で、俺は後ろのウダヌスをみた。
ウダヌスは一瞬だけ笑みを浮かべ、あとは済ました顔をして座っていた。
「……当たりだ。なんかあるぜ」
小声で呟き、俺は苦笑した。
しばらくそのままでいると、宿の兄ちゃんがすっ飛んできた。
「ランサー当ての深夜急行便だ。急ぎの用事だと思うぞ!!」
兄ちゃんから封筒を受け取り、ランサーは中の紙を読んだ。
「……国王様からです。ドラキュリート王国の大掃除が終わった、大至急第一王女リュカ殿をドラキュリート王都まで連れてくるように。これは、全てに優先する王令だと解釈して欲しい……だそうです。散歩から旅に変わりましたね」
「わ、私の国へ……遠いですよ!?」
「分かっています。急いでも、ルピ王国国境まで一週間はかかるでしょうね。そこから、ひたすら縦長のリュピ王国を縦断し、ドラキュリート王国に入るまでに一ヶ月は掛かるでしょう。しかし、これは冒険者として正式に依頼された……というより命じられた任務です。断れませんよ」
ランサーは笑みを浮かべ、後ろを振り向いた。
「地図はあるでしょう。コースを出して下さい」
「あいよ、こういうのも久々だね」
ケニーと相棒が地図を漁った。
「うん、北進街道をひたすら北に走るだけだね。でも、このコースだとメンレゲの前を通るよ。寄ってく?」
「いいだろ、別に。元々、二度と帰らないつもりで出てきたんだ。急ぎだし通過で」
俺は苦笑した。
「分かった、そうだね。寄ってる場合じゃないか。別になにがあるわけじゃないし」
「うーん、私としては鉱山が気になるところですが、こまめに手紙のやりとりをしていますし、これまた今はそれどころじゃないですね」
ランサーがいったとき、開門時間を迎えて巨大な門扉が開けられた。
「では、行きますよ」
ランサーは勢いよく馬車を走らせた。
街道をいく馬車は、順調に距離を稼いでいた。
「ごめんなさい、私のためにこんな……国に着いたら相応のお礼を考えていますので」
これで何度目か分からない、リュカのため息が聞こえた。
「いいんだって。ここらで、旅らしい旅をしたかったからな」
俺がいうと、ランサーが笑みを浮かべた。
「その通りです。こんな機会でもないとドラキュリート王国には入れませんし、今から楽しみなんですよ」
「ちなみに、マックドライバーの地図では『吸血鬼しかいない』ってだけ書いてあるよ。いった事はあるみたい」
相棒が笑った。
「あのジジイはどこでもいくな。吸血鬼しかいねぇって、当たり前だろ」
俺も笑って行く先をみた。
辺りは草原で、真っ直ぐ伸びる道に障害物は見当たらなかった。
「相棒、ちゃんと見てるな?」
「うん、もちろん。こんな感じ」
相棒が俺の額に手を当てた。
周辺探査魔法を使うと、相棒のそれとシンクロしてかなりの広範囲を明確に探る事ができた。
「……凝りねぇな。はいはい」
俺は杖をホルダーから取り出し、呪文を唱えた。
「食らえ!!」
俺の呪文と共に、やや遠くで網を張っていた盗賊の群れに向かって、赤い火柱が飛んだ。
「あれ、力加減間違えたな。もうちょっと先で、いきなり起きた爆発で大混乱の盗賊の群れがいるぜ、全部吹っ飛ばすつもりだったんだがな」
俺は笑みを浮かべた。
「もう、わざと残して!!」
ランサーが笑った。
「コーベットがやらないでいい気遣いをしてくれました。総員、下車戦闘準備」
気遣いというより、単に長旅向けに魔力をケチっただけなのだが、結果として面倒になった。
程なく、情けなくギャーギャーいっているむさい男の集団に出遭うと、ランサーは馬車を急停車させた。
「では、いきますよ」
馬車から飛び下り、背中の斧を外して手にしたランサーが、先陣を切って男どもの中に突っ込んだ。
「あーあ、危ないなぁ」
ケニーが剣を抜いて馬車から飛び下り、コリーとリュカも馬車を降りた。
「ねぇ、僕たちは?」
「この乱戦だ。降りてもやる事ねぇよ。お前は回復魔法の準備しておけ」
俺は苦笑した。
結局、数分でパニクった盗賊をなぎ倒した俺たちは、全員怪我らしい怪我もなく、再び馬車の旅を再開した。
「これなら順調ですね。今後の方針ですが、猫OKの店を探す手間を考えると村や街では食材の購入に留め、食事や宿泊は野宿にしようと思います。その方が、開閉門時間を気にしなくていいという利点があります。危険ではありますが、そこも自由な方がいいでしょう」
「これは、俺や相棒はなにもいえないな。みんなどうだ?」
俺は後ろを見た。
「いいじゃん、旅っぽい!!」
ケニーが笑った。
他に特に意見らしい意見は出なかったので、俺はランサーをみた。
「それでいいってよ。俺と相棒がネックだからな」
「それは仕方ありません。経験上、ちゃんと見張りを立てれば、なんとかなるものです」
ランサーが笑った。
「まあ、これで村や街を気にしないで、勝手に休めるね。そういう意味では楽だよ。
地図を眺めながら、相棒がいった。
「よし、そうと決まればガンガンいこうぜ!!」
俺は叫び、笑みを浮かべたのだった。
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