第48話 未然に防ぐ

「えっ、なんで国王様が魔王の事を知ったかですか?」

 宿に戻った俺は、まずランサーに疑問に思っていた事を聞いた。

「そうだ、馬車の中だったし、あまりにも早すぎたからな」

 俺は小さく頷いた。

「そうですね。これは皆さんにお話しておくべきでしょうね。コーベットとムスタなら『伝声』の魔法というのをご存じでしょう。念じる事で、遠く離れた相手と会話出来るものとお考えください」

「ああ、もちろん知っているけどよ。距離制限がキツくてあまり実用的じゃないぜ」

 俺と相棒が頷くと、ランサーは小さく笑みを浮かべた。

「そう、その通話距離を伸ばすにはどうするか。私の主人と国王様が自ら研究をした結果、呪縛といっていいか分かりませんが、それを応用してせめて王都内では自由に会話できるという段階にきたところで、主人が亡くなってしまったのです。私の体には呪縛紋が刻まれていますがこのためのものですので、ご安心下さい。なにかあった時に困りますからね」

「そりゃすげぇな。せいぜい、扉の向こうと話せるくらいなのによ」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「じゃあ、あの時国王を呼んだんだな。そのつもりがなくたって。強く思えば通じちまうからな。また不便な事しやがって!!」

「不便どころじゃないよ。まず、呪縛まで使って維持しているだけで、体にかなりの負荷が掛かっているよ」

 相棒が声を上げた。

「分かっています。でも、これは引き継がなくては。かなり苦労したと聞いてますので」

 ランサーが微かに頷いた。

「まあ、これで分かったけどな、この宿に泊まると国王がくる理由がな。そうでもなきゃ、おかしいって思うぜ」

 俺は小さく笑った。

「なるほど、今回はランサーがビックリして勝手に国王様に繋がっちゃったんだね。あまりに早いから驚いたよ」

 相棒が笑みを浮かべた。

「そんなところですか。さて、また部屋に戻りましょうか。

 俺たちは、また六人部屋に戻った。


「いえ、あそこでコーベットがあんな目に遭うとは、未確定だったのです。あの魔王が転移してきた段階で、全てのルートが完成しました。あとはそこから外れないように誘導したのです。これも一つの作業なのですが、理解して頂くのは難しいかもしれません」

 部屋に戻り、ケニーとコリーに全ては狙った事かと問われ、ウダヌスは小さく息を吐いてから答えた。

「いや、私なりに理解はしてるつもりだよ。こんなの始終やってるんじゃ、堪ったもんじゃないね」

 コリーが笑みを浮かべた。

「私は小難しい事はどうでもいい。最初から分かっていて、そのままそうしたんわけじゃないって分かってホッとしたよ」

 ケニーが苦笑した。

「例えば、嵐で沈みそうな船があったとします。『我らの運命は神のみぞ知る!!』なんていわれますが、神も知らないのです。なにか決定的な人なり物事が起きれば初めて見えるのですが、これも予測不能です。今回はコーベットと見せかけて、最重要な存在はムスタだったのです。ここに収束出来なければ、話にならないですからね」

「ぼ、僕だったのか……コーベットに勝った」

 相棒が嫌らしい笑みを浮かべた。

「馬鹿野郎、俺がいないところでやれ」

 俺は相棒の後頭部に猫パンチをかました。

「さて、これで話はついたでしょう。一泊余計に掛かってしまいましたが、どうやら大きな仕事をしたようですので、よしとしましょう」

 ランサーが纏めた。

 あとは平和そのもので、俺たちは部屋で好きに過ごしていた。

「しっかし、さすが相棒だぜ。俺のあの状態をどうにかしちまったんだからよ」

 猫箱で座っていた俺に相棒がくっついた。

「勘弁してっていうのが本音だよ。あんなの、もう嫌だからね」

 相棒が笑みを浮かべた。

「まあ、覚えておいて損はなし。これ、魔法の真理なり……だっけか?」

「ああ、メンレゲの魔法学校にそんな垂れ幕がったね。たまには当たるものだね」

 相棒が小さく笑った。

「怖すぎて俺には使えねぇよ。そういや、見せちまったな。国王と常時接続のランサーがなにも思ってなきゃいいけどな」

 俺が呟いた時、そのランサーが近寄ってきた。

「なにが起きたか分かっていませんので、そこは問題ありません。いわないで下さいよ」

「話したくても話せないよ。あれは秘密だから」

 相棒が苦笑した。

「それにしても『器もれ』とか『器割れ』はきになりますね。でも、聞いてはいけない気がしますので、あえて聞きません」

 ランサーが離れていくと、俺たちはため息を吐いた。

「……うっかりいえねぇよな『器もれ』が魂が抜けた状態で、『器割れ』がそれを元に戻せる状態じゃないって。モロにバレちまぜ」

「……なんでもいいけど、器もれって酷いよね。いくら隠すためとはいえ」

 俺と相棒は小さく笑った。


 肉体から魂が抜ける事を、一般的には死という。

 俺の場合半分くらい抜けた程度なので、仮死状態ともいえた。

 しかし、そこから戻す術を持つ者は少なく、半端に残すよりはと魂切りをしてしまう場合がほとんどだった。

「……しっかし、初経験だったけどよ。なんか気も悪かったぜ」

「……それでいいんだよ。妙な癖になられても困るからね」

 ヒソヒソ会話を続けていた俺たちだったが、寝ているように見せかける為に細目にしていた目を開けた。

「さてと、散歩でもしてくるか」

 一声言い残し、俺は猫用出入り口から部屋をでた。

 階段を降りて宿の外に出ると、隣の空き地に駐めてある馬車の荷台に飛び乗った。

「やっぱりな、あの程度で簡単にどうにかなるとは思ってなかったぜ」

 荷台に残された魔王の血液が、ボコボコと泡を立てていた。

「俺の読みが正しければ、まずは魂の再生からだろ。ってっことは、こういう事も出来る……魂切り!!」

 一瞬馬車の荷台に光りが走り、血液の泡が止まった。

「理屈でいえば、これで完全に復活出来なくなったわけだな。浄化の魔法より優しいだろ」

 俺が荷台から飛び下りようとすると、全員揃って笑みを浮かべて揃っていた。

「格好付けていないで、ちゃんといってください。ウダヌスがいわなかったら分かりませんでしたよ」

「バレちまったか、どうも引っかかっていてな」

「はい、どいて。掃除だ掃除!!」

「まあ、気色わるいしね」

 ケニーとコリーがモップとバケツを持って笑みを浮かべた。

「宿のを借りたか。やっといて、損はないな」

 俺は馬車から飛び下りた。

 入れ替わりで馬車に飛び乗り、せっせと掃除を始めた二人の様子をみて、俺はもう起きるなよと、心の中で呟いたのだった。

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