第47話 まさかの

 部屋に帰ると、お互いの武勇伝で盛り上がっていた。

「やっぱりランサーのはズルいな。離れていても攻撃できるもん」

 ケニーが部屋に入ってきた俺に目をやった。

「剣は刀身が体に近いから、慣れるまでが命がけなんだ。自分の剣で丸焦げになったヤツの話なら大量にストックがあるが、よかったら聞かせようか?」

「いや、いい……」

 ケニーが嫌そうに手を振った。

 何気なく相棒をみると、微かな笑みを浮かべたので、俺も笑みを返しておいた。

「でも、私は逆にコーベットの魔法がいかに有り難いか分かりましたけどね。さすがに、囲まれると無傷というわけには行きませんからね。

「あれは酷かったよ。十体以上はいたよね。まあ、無事に切り抜けたからいいけど、なぜかコーベットを集中攻撃だもんね。全部避けたのは、さすが猫だけど」

 コリーが小さく笑った。

「そりゃ猫だぜ。避けるとか逃げるのは得意だ!!」

 俺は無駄に胸を張った。

「それしても、なんでコーベットだったんだろ。なんか出てるのかな?」

 相棒は呟き、俺の口をかばっと開いた。

「なんだ、なにもないや。つまらないの」

 相棒ががっかりしたようにいった。

「テメェ、ケンカ売ってるのか?」

「コーベットとケンカしても、全く意味ないじゃん。単なる好奇心だよ」

 相棒が笑みを浮かべた。

「好奇心でいきなり人の口の中をみるな!!」

「いいじゃん、減るものじゃないし。さて、僕は疲れたから寝るよ」

 相棒はさっさと空きベッドに乗り、丸くなった。

「こ、この野郎……って、今回はなにもいえねぇ。全く役に立ってないからな」

 俺は相棒の隣に寝転がった。

「そんなことないですよ。喧嘩番長」

 ランサーの声が聞こえ、俺は笑みで答えた。


 翌朝の朝メシ時になって、気がついたら一人増えていた。

「こ、国王様!?」

 ランサーが声を上げた。

「油断しすぎだな。まあ、いい。昨日はご苦労であった。お陰で書庫が安全に使えるようになった。あの魔物はなんなのだ?」

 国王が俺をみた。

「簡単にいえば、本に低級霊が憑依しちまうとああなる。珍しい魔物だから、あんなに固まっているのは珍しいんだ」

「なるほどな。やはり、あの魔王だろうか?」

「そこは、本人に聞くしかねけどな。なんどでも魔王のせいにするのは、誤判断の元だぜ」

 俺の言葉に、国王は頷いた。

「それもそうだな。よし、原因究明は城の魔法使いに任せるとしよう。彼らにも仕事を与えねばな」

 国王は笑った。

「よし、話したい事は以上だ。邪魔したな」

 国王は宿に横付けしている豪華な馬車に乗り込み、そのまま去っていった。

「あ、あの馬車に気がつかないなんて……」

 ランサーが苦笑した。

「俺も気が付かなかったぜ。違和感半端ねぇのによ!!」

 俺が笑った時、ちょうど朝メシの出前が届いた。

「さて、朝ご飯です。今日中にグレイス・シティに戻りますので、しっかり食べておいて下さいね」

 ランサーが笑みを浮かべた。


 朝メシが終わり、そろそろ帰ろうかと馬車に乗った時、いきなり荷台に光りが弾け、魔王が出現した。

「この……いい加減殺すなら殺せ!!」

 半ば涙目で、魔法は俺を乱暴に掴み上げて怒鳴った。

「や、やあ、何かあったのかい?」

 俺はそれとなくウダヌスをみたが、彼女はどっか遠くをみたままだった。

「こ、この、やっておきながらその手はないだろう。なんの恨みかケツばかう狙いやがって。おかげで部下のように使っていたグレーターデーモンやデーモンどもに、指を指して笑われて逃げられるし、ロクな目に遭ってない。まさか。この手でくるとはな!!」

 掴んだままの俺をぶん回し。魔王はもうヤケクソでわめき散らした。

 そのとき、派手な稲光と共に、稲妻が魔王を直撃した。

「ええい、もう慣れたわ。どちくしょう!!」

 回転力そのままに俺を床に叩き付けて腹を踏みつけ、魔王が吠えた。

「はい、そこまでです。コーベットが死んでしまいます」

 魔王の首にランサーが斧の刃を押し当て、ケニーが剣を押し当てていた。

「ふん、お前らの武器など利かぬ。ぎゃあ!?」

  再び稲妻が魔王を捉え、動いた拍子にランサーの斧とケニーの剣に挟まれていた魔王の首が、冗談みたいにあっさり斬って墜とされた。

「あ。あれ?」

「う、嘘……」

「あの稲妻は。単に打撃を与えていたわけではありません。強力な各種結界を排除していたのです。それより、コーベットが先です。ムスタの様子をみて、何か思いませんか?」

「こ、これって……」

 相棒は俺の体をみて絶句していた。

 その俺は、宙に浮かんで暢気にやっていた。

「ったく、ついに経験しちまったよ。魔王の野郎、猫になにしやがるんだよ!!」

 そう、度重なる衝撃で、俺の魂は肉体から飛び出てしまったのだ。

 燃え尽きてどこの誰だかも分からなくなってしまった低級霊とは違い、相棒の回復魔法で簡単に還れるはずだった。

「まずいよ。これって……『器もれ』と『器割れ』を同時に起こしてる。器のダメージが大きすぎて、このままじゃ……」

 半ばパニック状態の相棒の首筋に、ランサーが斧の刃をあてた。

「直して、動かすのよ……というところでしょうか。あなたしかいないのです。相棒なんでしょ、こういう時こそ落ち着いてですね」

 ランサーは斧を引っ込めた。

「……これからやる魔法は、僕と相棒だけの秘密なんだ。間違っても、誰にも話さないでね」

 ランサーとケニー、コリーが頷いた。

「ありがとう。じゃあ行くよ、高位回復プラス蘇生の法!!」

 相棒の声と共に俺の意識が一瞬飛び、静かに目を開けた。

「ったく、なんだよいきなり。上でみていたが、アホだか魔王だかしらねぇヤツの首を取りやがったな。さっそく国王に報告だぜ」

「そ、そんなのどうだっていいよ。いっておくけど、人並みの回復術士だったらお手上げで魂切りだからね」

 相棒が俺に抱きついた。

「誰がいつ人並みだっていったよ。だから、俺には相棒がいればいいってば。ってかよ、ランサーの『直して、動かすのよ』って酷ぇな!!」

「あら、役に立ちましたよ。あれで、相棒さんが正気に戻ったのですから」

 ランサーは笑い。ウダヌスをみた。

「手を出さなかったという事は、どっちでもよかったという事ですか?」

「いえ、とんでもない。ここでコーベットを犠牲にしてでも魔王を熱くさせないと、当然首を撥ねる流れには繋がらなかったですよね。倒すタイミングは今日のここで、まさにあの時しかなかったです。これを逃すと私でも手に負えない化け物に進化してしまう可能性が高かったのです。全てはこの世界の住人で方を付ける。大事な事なので、私は誘導するだけです」

「神の基本か……面倒だねぇ」

 俺は苦笑した。

「……いいたことはありますが、当のコーベットが不満なさそうなのでいいでしょう」

 ランサーが苦笑した。

「うん、ここでなにも言わないって事は、これで終いだっていってるしね」

  相棒は小さなため息を吐いた。

「私はなにも見てないって思う事にしてるよ」

  コリーが苦笑。

「……これを我慢するのか。いいけど!!」

 最後にケニーが不機嫌そうにいった。

「さて、そんな頭と胴体が離れてる野郎を、いつまでも乗せていたくはないだろ。城だろうな、やっぱり」

「そうですね。色々と許可が必要なのですが、頑張るだけ頑張ってみましょうか」

 ランサーがいったとき、一台の荷馬車が宿に横付けした。

「何度も済まんな。あの魔王を打ち倒したと聞いてな、まさかと思ったがやはりお主たちだっか。どれ、様子をみさせてもらおう」

 馬車から降りてきたのは国王と連れが何名かだった。

 さっそく、魔王の様子を国王たちが調べ始めた。

「顔形は間違いなく魔王と連れの兵士が太鼓判を押したぞ。私はこれが魔王だとここに宣言する。ご苦労だった。報酬は後ほど持ってくる。その魔王だったものは回収していくじぞ

 魔王の死体が詰まれた荷馬車がどこかに行くと、ランサーが苦笑した。

「これはもう一泊ですね。みなさん、宿に戻りましょう

 ランサーが苦笑して。真っ先に馬車から降りると、すぐ隣の宿に飛び込んでいったのだった。

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