第30話 次の旅は……

 晩メシを食って、いつも通りランサーは酒を飲み始め、俺たちはそれぞれの部屋に帰った。

「そういや、どっかいきたいところはみつかったか?」

「それがねぇ、改めて考えるとなかなかなくてさ。今日もこれから検討会だよ」

 俺の問いに相棒が苦笑した。

「まあ、ゆっくりやってくれや。急ぐもんじゃない」

「そうだよね。それじゃ、いってくるよ」

 相棒が猫用出入り口から廊下に出ていった。

「そんなに気合入れなくてもな。まあ、いいけど」

 俺は笑みを浮かべ、小さく笑った。


 特にやることもなければ、誰もいないとなれば、俺のやることは寝る事しかなかった。

 ベッドの上で丸くなりウトウトしていると、ノックの後に扉が開き俺は目を開けた。

「あっ、寝てた。ごめんね」

 コリーがベッドに座り、俺の背を撫でた。

「なんだ、暇すぎて寂しくなっちまったか。俺よりランサーの方だろ」

「うん、もうすぐくるよ。今日は早めに切り上げるっていってた」

 コリーが笑みを浮かべた。

「まあ、目の前でな……。俺と相棒でやったことは、ごく当たり前だってのは分かるが、それで、はいそうですかとはならないもんな」

「ああ、その辺りの事はちゃんと消化してるよ。あれがベストだっていってたしね」

「ならいいが。魂切りはやる方も結構心にくるものがあってな。でも、嫌だろ。大事な野郎が変な死体とくっついてゾンビになっちまったりとかな。だから、メンレゲの魔法使いはみんな使えるんだ。魔法使い自体少ねぇ村だからな」

 俺は苦笑した。

「へぇ……。魔法使いが司祭みたいな事やってるんだね。エルフの集落だと、こういうのは司祭が担当するんだよ」

「司祭か、聞いたことねぇな。また妙な役割を持ったヤツもいるもんだな」

 俺は笑みを浮かべた。

「まあ、そういうもんだから。高位になると蘇生っていって、死者を生き返らせるとんでもなく型破りな人もいるらしいよ。噂だけどね。

 コリーが苦笑した。

「そりゃ反則だな。ゾッとしないねぇ」

「私もだよ」

 コリーが笑った時、開けっぱなしだった出入り口から、ランサーが入ってきた。

「エルフの高位司祭は生死すら操れるというのが、もっぱらの定説ですよ。私は頼もうとも思わなかったですけれどね。エルフとドワーフは仲がいいとはいえないですし、それ以前に生きたり死んだりまで操られたら嫌ですしね。今日やって頂いた事がベストな選択です」

 ランサーは室内の椅子に座った。

「それならいいがな。魂切りをしたって事は、もう二度と現世には戻ってこられねぇからな」

「それでいいのです。さて、いつまでも拘っていたら意味がありません。違う話をしましょう」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「そういえば、メンレゲってどういう村?」

 コリーが問いかけてきた。

「そうだな……本気でなにもねぇぞ。行きてぇんだったら、やめとけといっておく。時間の無駄だぜ」

「そういわれると、逆に気になるものですよ。これでも、冒険者なので」

 ランサーが笑った。

「ここからどれくらい掛かるかしらねぇけど、やめた方がいいぜ。昔は金が採れたっていわれていて、その時代は流行ったみたいだけどな」

 俺がいうと、ランサーが眉を跳ね上げた。

「金鉱ですか、気になりますね。ドワーフにそういう話をしたら、タダじゃ済みませんよ」

 ランサーが笑みを浮かべた。

「おいおい、何年前かしらねぇけど、とっくに廃れて崩れそうな坑道痕がいくつか山肌に開いてるだけだぞ。危ねぇから入れねぇしな」

「またいいことを聞いてしまいました。ドワーフの採掘技術を甘くみないでくださいね。 坑道が残っているなら、探ってみる価値はありそうです。まずは、現物を見たいですね。明日、メンレゲに向かって出発しましょう」

「うげっ、マジかよ……」

 俺は小さな息を吐いた。

「いっておくけどな、他種族を歓迎するような村じゃねぇぞ。俺と相棒にしてみたら、いい思い出より悪い思い出の方が多いんじゃねぇか。いくならついていくけどよ、俺や相棒はなにも出来ないと思ってくれ」

 俺がいうと、ランサーは笑みを浮かべた。

「では、やめておきましょう。その代わり、私のつてでまずはドワーフの調査隊を送り込みます。経験上、人間が手放した鉱山は、まだまだ使える場所が多いのです。もし、金が出れば、またメンレゲは潤いますよ」

「いや、それは止めねぇけどよ。ケンカだけはしないでくれよ」

 俺は苦笑した。

「ところで、大分路銀も貯まったので、そろそろ旅に出られそうです。あとは。ケニーとムスタ次第ですね」

「そうだな、かなり悩んでるみてぇだけどよ。そんな気合い入れなくてもよ」

 俺は苦笑した。

 しばらくランサーとコリー相手に雑談していると、夜の時間もかなり深くなった。

「さて、私はそろそろ休みます。あまり夜更かししないようにしてくださいね」

 ランサーが笑みを浮かべ、部屋から出ていった。

「私も寝るよ。また明日」

 コリーも扉を締めて出ていった。

「……焦ったぜ。メンレゲに戻っちまうかと思ったぞ」

 俺は苦笑した。

「まさか、鉱山痕に反応されるとはな。まあ、いいや。相棒は徹夜か?」

 この時間でも帰ってこないところをみると、熱心に検討してるかそのまま寝たかのどちらかだろう。

 再びベッドの上で丸くなっていると、猫用出入り口から相棒が入ってきた。

「なに、メンレゲの話でもしてたの。ランサーがいつか行こうだって」

 俺の隣で丸くなった相棒が笑った。

「いや、なんか知らないけど、昔は金を掘ってたって話したらかなり食いつかれてな。まあ、なんとか話を変えたけどよ。やっぱりいったか」

 俺は苦笑した。

「うん、さすがに嫌だっていっておいたけどね。メンレゲが嫌で飛び出したようなもんだし、戻っちゃったら意味がないってね」

「そういうこった!!」

 俺は丸くなったまま、目を閉じた。

「おい、寝るぞ。疲れちまったぜ」

「うん、おやすみ」

 相棒も目を閉じ、すぐに寝息を立てはじめた。

「ホント、寝るの早いよな。羨ましいぜ!!」

 俺はやれやれとため息交じりに苦笑した。


 翌朝、相棒と朝メシを食べに階下に降りるとすでに全員揃っていて、眠そうな目を擦りながら、地図を片手にケニーがなにか喋っていた。

「おお、いいところにきた。ムスタ、ここでいいんだよね。玉泉洞」

「うん、そこでいいと思うよ。近いし」

 相棒が笑みを浮かべた。

「なんだ、そこ?」

「うん、なんか鍾乳洞とかいう変わった洞窟らしいんだけど、みて損はないってあのマックドライバーの地図に書いてあったからさ。ただ、中にある玉泉の魔法石には触れないことだって」

「ますます謎だな。大丈夫なのかよ」

 どうにもヤバい空気しか感じなかったが、ここで反論するだけの根拠がなかった。

「まあ、いけば分かります。洞窟なら、私が得意ですし」

 ランサーが笑った。

「分かった。コリーが嫌じゃなきゃ決定だな」

「うん、私もコーベットと同じで大丈夫なのって感じだけど、楽しそうだからいいよ」

 ランサーが頷いた。

「確かに、場所はここから近いちょっとした山の中腹にあるようです。街から出れば、数時間で到着するでしょう。そんな場所があったのか……という感じで、さすがです」

「よし、みんなでメシ食ったらいくぞ。数時間なら、ほんのお散歩程度だな」

 俺は笑った。

「うん、今はそれがいいよ。遠出したくなったら、また場所を考えるから」

 相棒が小さく笑ったのだった。

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