第28話 仕事へ

 相棒と寝られない夜を過ごしていると、部屋のドアがノックされた。

「なんだ、寝られないヤツがまだいたか。どうせ鍵は開いてるだろ。遠慮してねぇで入れ」

 俺が声を上げると、ソッと扉が開いた。

「……」

「……」

「なんだ、そんな目を丸くして。初対面ではなかろう」

 部屋に入ってきて不思議そうな顔をしたのは、他でもないあの魔王だった。

「ば、馬鹿野郎。涼しい顔してるんじゃねぇ!!」

「うん、どうしていいか分からないね……」

 俺はどうしていいか大変困った。

「いやなに、なぜ私が魔王と名乗っているか。ちゃんと根拠があると、お前たちには話しておきたかったのだ。よくよく考えると、勝手にいってるだけのお調子者みたいだからな」

 魔法は笑みを浮かべた。

「いいよ、そんなの!!」

「いや、誤解は解かねばな。まだ出遭った事はないかもしれぬが、魔物という中に紛れて魔族という、他とは一線を画した連中がいてな。それを、束ねて統べる存在という意味で、魔王というのが分かりやすいだろうと思ったのだ。まあ、人間式に種族名を呼べば我々は悪魔だ。ロクなものではないぞ」

 魔法は小さく笑った。

「悪魔ね……なんか聞き覚えがある程度だぜ。魔法を習ってる時に聞いたな」

「まあ、その程度でいい。ついでだから教えてやる。魔族にも格みたいなものがあってな。一番下で数が多いのがただのデーモンで、もうちょっとイケてる感じになるとグレーターデーモンとなる。デーモンは素直なのだが、グレーターデーモンどもはただではいう事を聞かなくてな。全く手間が掛かるのだ」

 魔王は笑みを浮かべた。

「さて、邪魔したな。これだけは強調しておきたかったのだ。私はなにも調子こいた阿呆ではないということをな」

 魔王は最後に小さく笑い、部屋の扉を閉めて去っていった。

「な、なんだよ、どうでもいいことだろうが!!」

「よ、よく平気で喋っていたね。僕なんか動けなかったよ!!」

 相棒がベッドの上で丸くなった。

「なんだ、アイツ。実はいいヤツとかいわねぇよな」

 俺は閉ざされた扉をみて、俺は苦笑した。


「ええ、あの魔王がわざわざですか!?」

 翌朝、朝メシの場で夜の珍事を話すと、ランサーが素っ頓狂な声を上げた。

 ケニーとコリーはポカンと口を開け、玉子焼きを皿に落とした。

「ああ、その魔王だ。いきなりきて、ついでに魔族とかいうのを軽く説明していったぜ。暇なんじゃねぇの?」

 俺は笑った。

「なんでコーベットが平然としてるのか。僕も分からないけど……威圧されたわけじゃないからかな」

 相棒が小首をかしげた。

「あのな、あれのどこに脅威を感じたよ。そりゃ、いきなり出やがってビックリしたが、だからって敵視する理由はなかったぜ」

 俺は苦笑した。

「なんだか……あの魔王が普通にノックして入ってきた段階で、私だったら騒ぐぐらいはしますよ。なんで普通なんですか?」

「いや、なんか普通に友人ノリできたからよ。俺も普通に返してやったんだがな」

 目頭を押さえるランサーに、俺は答えて笑った。

「よ、よく今まで無事だったね」

 ようやくコリーが苦笑した。

「うん、相棒。なにやってるの!!」

 続いてケニーが相棒を怒鳴った。

「い、いや、あれはなにも出来ないって!!」

 相棒がなぜか俺に抱きついた。

「まあ、俺もなにも出来なかったぜ。あそこで敵意を持ってこられたたら、さすがに勝ち目はなかったな」

 俺は笑った。

「……笑ってますね」

「うん、笑ってるね」

「この図太さは見習わないと」

 ランサー、ケリー、コリーの順に呟くようにいって、あとは黙々とメシを食った。

「な、なに、俺って変か?」

「控えめにいっても、変わり者ですね。変な敗北感を感じます」

 ランサーがなにか諦めたかのようにため息を吐き、苦笑した。


 朝メシも終わり、ランサーは仕事を探しにどこぞへ出かけ、相棒はケニーと次の旅先探しをしているため、俺は一人で部屋のベッドの上で丸くなっていた。

 しばらく窓から差し込む日差しを浴びていたが、ふと扉の向こうに気配を感じた。

「ノックはいらん、入ってこい」

 俺が声を掛けると、扉を開けてコリーが入ってきた。

「夜にあんな事があって、一人きりなんて危ないからさ。まあ、私がいても意味ないけどね」

 コリーが苦笑した。

「何人束になったところで、アイツには勝てねぇよ。あんなの手に負えねぇって」

 俺が笑うと、コリーがため息を吐いた。

「弓には自信があったんだけどね。当たっても効かないんじゃ、どうにもならないよ」

「俺もだ。決め技を余裕で吸収なんて、馬鹿野郎な能力を見せつけやがってよ!!」

 俺とコリーが同時に苦笑した。

「はぁ、もう遭わないと思っていたら、向こうからきやがったぜ。仲間にしろとかいわねぇよな」

「そんな事されたら、神経がもたないよ」

 俺の言葉に、コリーが笑った。

「全くだ。さて、まだ旅か仕事かも決まってねぇな。どっちでもいいが、そろそろどっかいきたいぜ」

「私もそうだよ。じっとしてるのもいいんだけどね」

 コリーが笑みを浮かべた。

「まあ、いいや。下でお茶しよう。暇つぶしはこれに限るよ」

「そうだね、いこうぜ」

 俺はベッドから飛び降りて、コリーと部屋を出た。


「ああ、ちょうどよかったです。隣の村まで、商隊護衛の仕事が入りました。さっそく準備しましょう」

 ちょうど戻ってきたランサーと出会い、にこやかに俺たちに向かっていった。

「よし、仕事だったな!!」

「そうだね。準備しないと」

 俺たちはきた階段をそのままUターンして部屋に戻った。

「ケニーとムスタは相変わらずですね。私が直接伝えます。

 ランサーがケニーの部屋に入った。

「さてと、俺の用意なんて、猫缶が入ったバックパックだけだがな」

 床に転がしてあるバックパックを、猫用出入り口に向かって引っ張っていると。慌てた様子で相棒が帰ってきた。

「仕事だってね。僕が向こうでバックパックを受け取るよ」

「分かった、重てぇから気をつけろよ」

 俺は笑みを浮かべ、再び外に出た相棒に向かって、猫用出入り口に向かってバックパックを引っ張り、廊下に向かって押し込んだ。

「よし、これでいいな」

 バックパックを二つ部屋の外に出し、最後に俺が廊下に出た。

「さてと、今度はなにが起きるかねぇ」

「護衛でしょ。なにもないのが一番だよ」

 相棒が小さく笑った。

「それじゃ、コイツを背負って一階の食堂にいこうぜ」

 馬車に乗ればすぐ下ろしてしまうのだが、こうしないと重くて困るのだ。

 俺と相棒はバックパックを背負い、階段を降りて一階で全員が降りてくるのを待った。

 準備といっても身軽なもので、程なく全員が揃った。

「では、私は馬車をここまで回します。すぐに出歩けるようにしておいて下さい」

 ランサーが笑みを浮かべ、宿の外へと出ていった。

「さてと、仕事だが楽しもうぜ」

  俺は玄関の先をみて、笑みを浮かべたのだった。

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