第4話 猫な故の苦労

「……ん?」

 交代で寝ていた俺の神経に、何かが触れた。

「おい、起きろ」

「……どうした?」

 半分寝ている目の相棒に、俺は背中から外した杖を見せた。

「えっ、どこ!?」

 相棒が目を見開いた時、いきなり馬車が急停車した。

「ほらきた!!」

 馬車から降りたところで、新月の今日はなにも見えないだろう。

 御者が剣を片手に何かとやり合っていた。

「……明かりよ」

 相棒が無数の光球を撃ち出し、辺りは真昼並の明るさに照らされた。

「おい、タイミング考えろ。今度は眩しくてなにも見えなくなったぞ……よし、問題ねぇ。ビビってなにかまで逃げちまったみたいだぞ。御者のおっちゃんが、苦笑して戻ってきた」

「逃げちゃったならいいね。見てないけど、簡単には倒せる相手じゃなかったよ。だから、コーベットのアンテナに掛かって起きたんだもん。これは、僕の勝手な分析だけどね。

 再び馬車に御者が戻り、馬車がゆっくり走り始めた。

「よし、ついでだ。交代しようか?」

「いや、僕も起きてるよ。もうすぐ着くでしょ。寝ぼけて動きたくないから」

 相棒が丁寧に体を嘗めてグルーミングを始めた。

「確かに空が明るいな。もうすぐ到着か。これは楽でいいぜ」

「そうだね、遠距離移動にはもってこいだよ。今度から移動手段の一つにしよう」

 俺と相棒を乗せた馬車は、ゆっくり速度を落とし始めた。

 そのまま村の門を抜けゴトリと振動を残して停車した。

 扉が外から開けられ、俺と相棒は外に出た。

「王都に行くんだってな。このまま西方街道を進んで北進街道に当たったら、あとは北に向かって真っ直ぐだ。北進街道なら、腐るほど乗り合い馬車が走ってるから、それに乗るのもいいな。気をつけていけよ」

「……おい、今の分かったか?」

「当然。要するに、北進街道を真っ直ぐ北に行けば、王都に着くって事だよ。

 相棒はどことなく嬉しそうで、俺は思わず笑った。

「そういってくれよな!!」

「いや、すまん。職業病でな。ここで朝メシ食ってから行くのも手だぞ。食堂なんて一件しかないからすぐ分かる」

「分かった、時間があればな」

 俺たちは乗り合い馬車から離れ、村の広場みたいになっている場所に移動した。


「次はこの街なんだけど……。ここが川になってるでしょ。『ドランの渡し』って有名らしいんだけど、要するに船で川を渡るって事。ここを越えればドランの街はすぐだよ」

「船か……。乗った事がないな。これは面白くなってきたぜ」

 俺は思わず声を上げた。

「距離的には大した事がないから。御者のお兄さんがいってた食堂で朝ご飯にしようか」

「そうだな、腹もへったしな」

 俺たちは村の中を歩き回ってみた。

「ああ、ここだね。こんな早朝からやってるとは」

 相棒がいったとおり、食堂の看板を出している建物には明かりが点き、美味そうな匂いが漂っていた。

「よし、入るぞ。もう腹減って死にそうだ」

「僕もだよ、入ろう」

 扉を開けっぱなしにしている店に入ると、中のオバチャンが少しビックリしたような顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。

「はい、いらっしゃい。珍しくお客がいたって、馬車の兄ちゃんがいってたから、くるかなって待ってたんだよ。あんた、お客だよ!!」

 店の奥で動いていたおっちゃんが、軽く手を上げて挨拶してきた。

「さて、席はどうしようかな。テーブルの上に乗るしかないか」

「迷惑じゃなければなんでもいいぜ」

 俺がいった途端、オバチャンが目を丸くした。

「ホントだ、喋ったよ。ならオーダーも出来るね。なんでもいってみて」

「いや、普段は猫缶でな。いきなりここで、人間用の料理を頼むにしても、どういうものかさっぱり分からん。お前は?」

「一応調べてある範囲なら分かるよ。物は試しでいってみよう」

 とまあ、怪しい注文だったが、オバチャンはちゃんと理解してくれた。

「食材がなくて代用になるものもあるけど、オリジナルと大差ないから」

 待っている間、俺たちは地図を見てなんとなくの計画を立てていた。

「はい、まずは一番簡単な料理ね。それにしても、なんで豆料理ばかりなの?」

「な、なんだと!?」

 俺は慌てた相棒をみた。

「い、嫌がらせじゃない。ごめん!!」

「ったく、しょうがねぇな!!」

 あの特有のニオイが嫌いで豆は嫌な俺だが、相棒がいる以上食うしかないと心決めた。

「よし、一品目」

 なにか気合いを入れてテーブルの上に乗り、皿に顔を突っ込むようにして一口食ってみた」

「なんだ、豆のニオイがしないぞ。忘れたか?」

「まさか、豆が主役の料理で忘れたりしませんよ。これから先は企業秘密って事で」

 オバチャンは笑みを残し、再び奥に引っ込んだ。

「おい、相棒。なんか、すげぇ店見つけたかもしれぞ!!」

「うん、これは美味しいよ」

 相棒が笑みを浮かべた。

 それから、次々に運ばれてくる料理を食べると、食後の水を飲んだ。

 そう、熱いのは苦手なのだ。

「美味かったな」

「うん、ここいいね。だけど……お会計お願いします」

 相棒が笑みを浮かべた。


「あれだけ食べてこの値段とは。ますます気に入ったよ」

「相棒よ、俺は人間の金銭感覚が分からん。まあ、安かったとだけ思っておく」

 俺たちは、村を出て街道を真っ直ぐ歩いていた。

「しかも、杖の置き場所まで作ってくれたしね。バックパックじゃなくて腰に剣の鞘みたいにやるとは」

「ああ、俺も思いつかなかったぜ。やっぱり、相談してみる価値はあったな」

 俺は自分の杖をみて思わず笑った。

「よし、いい事があったあとだ。ガンガン進もうぜ!!」

「うん、ガンガン行こう」

 こうして、俺たちは街道をひたすら歩いたのだった。

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