第33話 国王にただ愛されるだけの回。
ヴィゼル様に手を引かれて廊下を歩く。
「あのっ……きゃっ」
彼、いつもより歩くのが速い。付いていけずに何度かバランスを崩す。
すると彼は振り向いた。くんっと腕を引っ張られて、私はヴィゼル様の身体に収まる。
「に゛ゃっ」
「品のない声だ」
「……」
言いますか、それぇ?
「それより何か用か?」
「え、あ、その、もう少しゆっくり歩いて頂けますか……?」
「断る」
何となく予想はしてたけど、ヴィゼル様は私の脚に腕を回して、そのまま抱き上げた。
「こうすれば良いだろう?」
さらっとお姫様抱っこしてくれる所がほんとに王様。白馬に乗って欲しい。
「……良いんですか、ここ人来ますよ」
「関係ない。自慢してやりたいくらいだ」
いつも通りだ。
「……その服、貴様に似合ってるな」
「⁈」
不意打ちで服を褒められた。紳士!?
「う……ヴィゼル様に買っていただいたものですから」
「そうだな」
身体に回された腕が頼もしい。どうしようもなく安心してしまう。
そして、私たちは部屋に帰ってきた。
「ん……っ」
帰ってきた途端に唇を塞がれる。
ゆっくりと舌が絡む。
「……っ、ぁ……」
彼は溢れた唾液を舐め取って、やっと唇を離した。
「──私が何故こんなにも貴様に惹かれているのか、分かった気がする」
「え……っ?」
「貴様は逃げるからだ。色んな奴に攫われているだろう」
頭の中で私がウサギか猫に変換された。ぴょん。
「貴様が私から逃げる程、追いかけたくなるのだとようやく気付いた」
「わ……私は、逃げませんよ」
「本当にそうか?」
突然、スルリと太腿を指で撫でられて反射的に身を引いた。
「ほら、逃げた」
「……ッ」
頭に血が上って、ぷしゅうとパンクした。
「だ、だ、だってそんなのずるいです、はんしゃです、わるいのはせきずいなんですからぁっ!!!」
「……やはり前言撤回しようか」
「え??」
彼は楽しそうに私を見つめた。
「私が貴様に惹かれるのは……意地悪したときの反応が可愛過ぎるからだ」
多分、これも意地悪。
でも分かっていても、対処法なんて知らないもん!!!
「~~~~!」
「本当に期待を裏切らないな」
ばかっ……もうっ……
…………好きっ!!
ヴィゼル様はふっと笑って私を抱き上げ、ソファに座った。
すっかりおなじみの姿勢だけど、いろんなところが当たってドキドキする。
「梨花、来てくれてありがとう。お陰で執務が減った」
「それは、何よりです……」
「あと私の疲れも飛んだ。一瞬幻覚かと思ったくらいだからな」
私はぎゅっと彼に抱き着いた。
「私はちゃんと存在してますよ。そうでもなきゃ、こうしてヴィゼル様を抱きしめることなんて出来ないですから」
「そうだな」
返事もうやむやに、ヴィゼル様はそのまま器用に姿勢を変えて、ソファに私を押し倒した。
「…………」
呆気に取られている私を無視して、彼は服を剥す。
「あのっ……」
「何だ?」
王族の衣服に身を包んで、執務だからかは知らないが白い手袋を嵌めている彼はどこか違う人みたいだった。
しかしヴィゼル様は顔を近づけて囁く。
「私に抱かれるのは嫌か?」
「い……嫌じゃ、ないけど……ないですけど……!!」
そうだよね。もうおもちゃだからとか、捨てられるとか、考えなくても大丈夫なんだ。
つまり、恥ずかしいからの他に理由がなくなってしまったわけだ。
「そうか。ならば大人しくしていろ。でないと縛って無理矢理するからな?」
きゅーん。
無理。好き。大好き。
この人私がMだって知ってて言ってる。絶対そう。意地悪だ。
「はー……。ヴィゼル様、好きっ」
ついつい言ってしまった。もう後の祭りである。
「それは何だ? 煽っているのか? 良い度胸だ」
ふにっと唇を指で押される。
「んっ」
手袋の感触がくすぐったい。
「可愛い」
ゆっくりとなぞられるとくすぐったくて。
「んぅ、ん……~~!」
ヴィゼル様に凝視される。恥ずかしいよ…!
「貴様はいつまでたっても初心だな」
私は腹いせに彼の手袋をぱくりと噛んだ。
「……何をしている」
そのままきゅ、と引っ張る。
「布を咥える貴様もなかなか見物だが……生憎とそれはシルクの一級品なんだ。オーダーメイドだから返してくれないか」
おう。手袋高かった。
「駄目です」
私はスルりと手袋を引っこ抜き、手にしっかりと握る。
「私も意地悪しますよ」
ヴィゼル様はきょとんとした後、ふっと表情を崩した。
「全く……困った仔猫だ」
「ぁっ」
彼はそのままキスをした。
「この際手袋などどうでもいいが……面白い、貴様の意地悪に乗ってやろう」
超至近距離でヴィゼル様は言ってくる。
「梨花、賭けをしよう。貴様が私の辱めに耐えられれば、その手袋は諦める。だが耐えられなかった時は──」
ギラりと獰猛に光った蒼い瞳に、ただ見惚れた。
「貴様ごと、その全てを貰うからな」
♦
結局、賭けには完敗した。
「造作もない……と言いたい所だが」
最早疲労困憊して息も絶え絶えな
「可愛過ぎる……。貴様はどうして日を追う事に可愛くなるんだ?」
「そんなの……知らないです……」
ゼェハァ息を吐きながら抵抗する。
「貴様を可愛くしているのは私だ、そうだろう」
有無を言わさない口調にただ頷くしかない。
「貴方以外……誰がいるんですか……」
彼は満足そうに微笑んだ。
「ふ、そうか」
いちいちかっこよすぎるんだよこの国王。
「そうだ。ヴィゼル様、私今日厨房に行ってきました」
「許可は取れたか?」
「夕食は無理でしたけど、厨房の一角をお貸しして下さるそうです。今度また何か作りますね」
「それは良かった。私も手伝おうか」
「え」
厨房って国王が入るものなの……?
「嫌か?」
私は微笑んで首を横に振った。
「いえ、嬉しいです」
「ん、そうか」
再び深いキスを受ける。
するとヴィゼル様が思い出したように言った。
「……ああ、梨花、明日は暇か?」
「明日ですか? 暇ですよ」
というか毎日暇。
そんな引きこもりに、彼は提案した。
「明日は工場の視察に行くのだが……一緒に来るか?」
工場?
ヴィゼル様となら例え地の果てまででも一緒に行くけど……。
「はい、大丈夫です。でも、何の工場ですか?」
彼は少し辛そうな表情をして、静かに言った。
「……強制労働者の工場だ」
「それって……」
不意に、過去の景色がフラッシュバックする。
沢山の人が、兵士に連れていかれた場面。
「ああ。エストラル人もいる」
やっぱり、そうなんだ。
しかしヴィゼル様はこう続けた。
「だが環境はそこまで劣悪ではない。というより……本音を言うと、少しでも貴様と一緒に居たい。──私と来てくれないか?」
ずっきゅーん。
ハートを撃ち抜かれました。
「勿論お供します♡」
こうして私は工場見学をすることになりました。
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