第29話 国王陛下に休みなんてないのだ。

その夜。

流石は王宮、私とヴィゼル様は勝手に用意された夕食を食べた。

もうね、食べる為の部屋が広いの。シャンデリアが沢山あるよ~!


「梨花の作った料理が食べたい」


「我儘言わないでください、嬉しいですけど」


料理する身としてはかなり嬉しいよね。王宮の超豪華フルコースに勝ったよ私。

そうそう、ヴィゼル様はあれから王族の服に着替えた。ベルベット調ですごくずっしりしてそうだ。かっこいい。


「でも素朴な味わいも良いですよね。私はこんなに豪華なお料理は慣れてないので新鮮だし、美味しいです」


「そうだな。……梨花の作った料理が食べたい……」


「えっと……明日、許可でも貰いに行きましょうか」


「私が許可すれば良いだけの話だろう?」


そう言えばこの人が一番偉いんだった。みえなー。


「でもどの道お料理人さんたちに言わないとです」


「……」


ヴィゼル様は無言で料理を食べ始めた。

こんな事言ってるけど、宮廷料理めちゃくちゃ美味しいよ。


                   ♦


「はぁ~、ご馳走様でしたー。美味しかったー」


デザートのタルトがとっても美味しかった。

私あんまりお菓子は作らないから、今度挑戦してみようかな。


彼はというと、また呟いていた。陰湿っ


「まあ美味いんだが……美味いのだがな……」


「いつまで引き摺っているんですか……」


「──あ、思い出した」


どうやらただ単に考え事をしていたらしい。ヴィゼル様は立ち上がると私を見て言った。


「梨花、部屋に戻るぞ」


「? はい」


何か用事でもあるのかな。


部屋に戻るとヴィゼル様は一度寝室に引っ込んだ後、再びこちらに来た。


「梨花、ここのバルコニーからの眺めはなかなかだ。ホテルに敵うかは知らんが」


そう言われたので窓を開けてバルコニーに出てみると、ホテルのとはまた違った幻想的な夜景が広がっていた。


「すごい……綺麗……」


「梨花、目を閉じろ」


「えっ」


一瞬で頬がかぁあっと熱くなる。


「はやく」


心の準備も出来ないままに目を閉じる。


「左手を貸してくれないか」


「はい……」


ゆっくりと左手を差し出す。

すると、ヴィゼル様は私の手を優しく握った。


勝手に鼓動が速くなる。


指に何かが通る感覚がして、その後に柔らかいものが甲に触れた。


「もう目を開いていいぞ」


「……え……?」


ゆっくりと目を開いて手を見てみる。

そこには綺麗なダイアモンドの指輪が嵌めてあった。


「⁈ ……ええっ⁈」


「今日、貴様と街を歩いているときに見つけた。やる」


「え、え、でも、ゆ、指輪って……え?」


指輪に意味はあるの?

勝手に期待してしまう気持ちを抑えられない。

火照る頬を夜風が撫でてゆくけれど一向に熱は冷めない。


「そこには気付くのだな。変な奴だ」


未だに頭がパンク状態の私に向かって、ヴィゼル様は跪いた。


「梨花、改めて言おう。私のものになってくれ」


「──!!」


「尚、貴様に拒否権はない」


なんだそれ。

私は思わずクスッと笑ってしまった。


「でしたら私に選択の余地はないじゃないですか」


「そうだな。でも私は貴様の肯定が欲しい」


「もう私は梨花が居ないと耐えられないんだ……頼む、私の婚約者になってくれ」


私は大きくうなずいた。


「はい、喜んで」


「ありがとう」


ヴィゼル様は満足そうに微笑んで私の頬を両手で包んだ。


今度はちゃんと受け入れられる。


「──」


私は彼と唇を重ねた。


                     ♦


翌日。


「はー……嫌だ、離れたくない」


「ヴィゼル様、いってらっしゃいませ」


「嫌だ」


「行ってらっしゃいませっ!!!」


もう何十回もこのやり取りを繰り返した。


「今日は大事な会議なんでしょう⁈ もう遅刻ですよ!!」


「別に私が居なくたって大丈夫だろう……」


「駄目ですよ!! 貴方国王兼陸軍大将でしょ⁈」


流石軍人、物凄い腕力で抱きしめられると、私がもがいてもびくともしない。

傍から見たら朝からベッドの上でいちゃついているただのバカップルな訳だけど、実際にはこの国の未来がかかっている。


「梨花、一緒に行こう」


「何でですか」


「好きだから」


昇天。

慣れてないよーこれーほんと無理ー!!


それにちょっとこれは私が彼を駄目にしているような気がして焦る。


「会議ってそんなに長くかかるんですか?」


「いや、そんなにはかからないだろうな」


なんやねんこの人。子供?


「じゃあ尚更行ってらっしゃいませ……」


「少しの間でも貴様と離れたくない」


まるでしょげた子犬のようだ(実際は血気盛んな狼だけど)。


「そ、それは私もですけど……」


駄目だ、この国の未来が危ない。

しかしヴィゼル様はふっと笑うとようやく身体を離した。


「仕方ないな。行ってくるよ。貴様を困らせたくはないからな」


「流石ヴィゼル様です~」


実際一時間程こうしていたわけだけど。


「一緒に来ないか?」


「駄目ですよ。……それに、私行けませんし」


「ああそうだったな。私が抱き潰したのだった」


そうなのだ。昨日そんなこんなで朝まで離してくれなかった。


「~~~っ、早く行ってくださいませ!」


「ああ」


当然のようにキスが落ちる。


ようやく扉が閉まっても、私はどうしようもない恥ずかしさを発散するので精一杯だった。


絶対私早死にするよ。朝から心臓フル稼働だもの。


「ああああああああああ……あああ」


ベッドの上ではコハクがすやすやと寝ていたのだった。


♦ヨシュアside♦


「ま~~~~た遅刻ですか。一体何回注意されれば気が済むんです?」


「……すまない」


「まあどうせ昨晩はお楽しみだったんでしょうね。その分、ちゃんと仕事もしてもらいますからねッ」


「分かったよ」


俺はまた朝から遅刻をかましたヴィゼル様を怒る。

梨花さんのおかげで遅刻しなくなったかと思いきや、前よりも遅くなった。


彼は椅子に座るとおもむろに言った。


「さて、ではこれから会議を行おうか」


「はいっ、先輩!」


「あー、いつものメンツじゃ締まんねーな」


彼の執務室で行われるプチ会議は、俺たち三人とケイが参加した。

思えばケイも短い期間で大分力をつけたようだ。


「えー、まず目的。目的はあいつをぶっ潰す、以上」


「あのー大将? 目的変わってねぇか?」


ルーカスが遠慮がちに言う。


「そうだったか?」


「ええ。当初は『敵国ダルゼルム連合軍を壊滅させる』でしたよ」


ヴィゼル様はすまし顔で言う。


「その為にはあいつを殺す必要がある。同じだろう」


「違うっつーの。まいいけどよー」


相変わらずグッダグダな話し合いを纏めるのはいつも俺の役割だ。


「じゃあこれで良いのでは? 『アデラールを殺し、敵連合軍を壊滅させる』」


「流石先輩」


おお、と一同から声が上がる。


「よし次だ。その為の手段だが……今回は陸海空全て出動させる方向で良いか」


「異論なーし」


「あと、こちらの同盟軍からも援軍が来るんですよね」


「そうでしたね」


俺は資料のページをめくる。


「えーと……陸軍はゲルティナ王国から十五万、空軍はパルミス国から十三万うち戦闘機四万……といったところですかね」


「あれ、海軍の援助はねぇんだな」


「忘れたか……? 海軍はここロステアゼルムが世界最強だぞ……?」


そう陸軍大将はぼやく。


「そーいやそーだったな。あいつら余計に自信家で自慢ばっかりしやがるから忘れてたわ」


「まあ海軍はあのクソ生意気将校にでも任せておけば良い。後は今までに潰した国から労働力を駆り出す、それで良いな」


「意義なーし」


「では次。作戦についてだが……」


こうして俺たちは会議を進めた。


                      ♦


三時間後。


「こんなもので良いだろう」


「っはぁー、やっと終わったぁー」


「あとはダルムの動きをうかがってからですね」


「ああ」


「ありがとうございました。凄く勉強になりました」


ケイがにこにこして言うので俺は少し申し訳なくなる。


「いやぁ俺たちなんて参考にしないでくださいね……。本当はもっとちゃんとしないとなんですから」


「あー、疲れたー」


「ヨシュア、水くれ」


「あ、オレもー」


「……この人達は……」


俺は頭を押さえて立ち上がった。


「ああ、ケイ。貴方に一つだけ教えましょう」


「はい」


そこに二人の催促が入る。


「はやくしろ」


「ヨシュアー」


俺は呆れながらも返事をして、ケイに言った。


「──あの二人がグダグダしているうちは、我が国は平和です」

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