第59話 ミクドナルドに場を移して

悪い予想ほど、当たるものである。





「ふん、こいつらがヒーロークラスから派遣されたガキどもか」





 嫌みったらしい口調で、中年の男が言葉をぶつけてきた。





「こんなガキに頼らざるを得ないなんて、芙士ふじ警察署もおちたものだな……せいぜい足を引っ張らないように教育してやってくれ」





 吐き捨てるように言うと、とっととその場を去っていく。


 あまりの出来事に、反論をする暇すらなかった。





「あいつが室井むろいだ……すまん。嫌な思いをさせたな」


 石塚いしづかが僕たちに謝罪を告げた。





「いや、気にしていない。悪いのはあいつであって、石塚さんが謝るのは筋違いだろう」


 久朗くろうが僕たちの気持ちをまとめて、石塚をカバーする。





「ここにいるとまた、口を挟まれる可能性があるからな……残りの話は、近くにあるミクドナルドでやろうぜ!」


 小早川こばやかわが意見を出す。





「そんなところで、重要な話をするつもりなのですか!?」


 中村なかむらが即座に否定的な意見を出した。





「いや……意外とその方がいいかもしれないな。ラウンドツーのミックでいいか?」





 永瀬ながせが小早川の意見に賛同する。


 中村は信じられないような顔をするが……なんとなく、理由が分かるような気がする。





「じゃあ、外出の手続きをしてきます」


 新島にいじまが書類を書いて、受付に出しに行った。





 芙士警察署の近くには、ラウンドツーという名前のアミューズメント施設がある。


 ボーリング場を中心として、ゲームセンター、商業施設としてアニメショップにドッキホーテ、そして食事ができる施設として竹屋とミクドナルドが集まっているのだ。





「一人一セットくらいならば、おごってもいいぞ……話によるとそれではとても足りないという子がいるらしいが、それで勘弁してくれ」


 どうやら永瀬が僕たちに、おごってくれるようだ。





「では遠慮なく、グランミックのセット、ポテトとドリンクLに変更で」


 久朗が早速、注文する。





「久朗、いくら何でもそれは……」


 少したしなめるものの、「子供はそのくらい遠慮がないほうがいいぞ」という永瀬の言葉に、甘えることにする。





「僕はてりやきのセットをお願いします」


 どちらかというと和風の味が欲しかったので、これを注文することにした。





「にゃ、グランミック、ポテトとドリンクはL、あとは自腹でナゲット12ピースも!」





 みかんちゃんは相変わらずのようで……一セットにとどめた永瀬さんの選択は、正しいと思う。


 もし遠慮なくといっていたら、間違いなく二セット注文していたであろう。





「俺はタッタのセットで」


 あきらの注文も多少和風なので、悩んだのだが……少しでも安く上げようと思い、僕はてりやきを選択したのである。





「わたくしはドリンクと、アップルパイだけでいいです……みかんの食べている姿を見ていると、食欲が失せますので……」


 れんが少しげんなりした表情で、注文した。





 ほかの面々も、それぞれ注文する。





「で、ここに場を移した理由だが……久朗あたりには察しがついているのだろう?」


 永瀬が久朗に声をかける。





「ここで話すほうが、内通者がいる警察の中で話すよりはまだましだからな」


 久朗があっさりと、それに答えた。





「間違いなく情報が洩れているだろう。対策をとったとしても、内通者がいつそれを突破するか分からないからな」


 どうやら久朗の推測は、正しかったようである。





「なるほど。それで皆さん、私服で来たのですね」





 漣の指摘通り、全員私服に着替えている。


 ぱっと見では警察官だと分からない服装だ。





「といっても、これ以上話を詰める部分があるのでしょうか?」


 中村が永瀬に問いかける。





「まあ、話をだしにして、単に昼食をとるだけでもいいんだけれどもな。オレは」


 小早川が茶々を入れるが……大事なところがまだ、決まっていない。





「ライセンスを持っているのは、久朗とみかんの二人だな。そうなると、ネットの方はそちらに任せることになる」


 そう、ネットワークとリアルで、どう防御を割り振るかという問題だ。





 ネットワークを支配されてしまうと、リアルの方で何をされても手出しできない状況に陥る。


 警察署の場合、外部からのアクセスに対しては比較的強固なセキュリティーを有するとはいえ、今回は相手が相手だけにネットワーク側にも防衛用の戦力を配置する必要があるのだ。





「結城、寂しいだろうが晶と漣、二人とともにリアルの方を守ってくれ……って、両手に花でそれはそれでいいのかも?」





 久朗がおどけるが……いつも一緒に戦っていた久朗と離れるのは、久しぶりである。


 この三人の連携を高めて、明後日の防衛任務に臨まないといけないのだ。


 しっかり練習して、久朗がいないことによるミスが出ないようにしないと! 





 また、警察署ではできない、侵入者防止用のトラップについての話もできた。


 もし警察内部に教団の賛同者がいたとしても、これで大丈夫。


 こんなところで話すことではあるが、ゲームのような感覚の話にしているため、不審に思う人もいないようで……これでうまくいくと、いいのだけれども。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る