第36話 オベリウスとローレライ

 今日の授業は、音楽だ。


 ヒーロークラスであっても、こういう通常のカリキュラムは同時進行で行われるため、結構忙しい。





「歌か……僕たちもそれなりには自信があるけれども、ちょっと恥ずかしいかも」


「まあ、まい先生のあの歌の後だとな」





 僕たちは談笑しながら、音楽室に向かった。





「それでは、授業を始めます……あら? 私は英語だけではなく、音楽も担当するわよ」





 音楽室にいたのは、舞先生だ。


 ますます歌うのが、恥ずかしくなってしまう。





「いや、それにしてもあの歌、滅茶苦茶うまかったな……『ローレライ』は伊達ではないという事か!」


 あきらも舞先生の歌に関しては、絶賛するしかないようだ。





「それではまずは、ヒーロークラスらしく……バグと戦う上での歌の優位性について、簡単に触れるわね」


 舞先生の講義が始まった。





「ヒーローの歌には、様々な力を籠めることができるの。私の『ルカルカ☆ナイトフィーバー』は、戦意の高揚という効果があるわけ」


 あの時の戦いで、僕たちも全力を出せたのはこの歌のおかげだ。





「そして、バグには歌が効かないの。なので味方だけ、歌の恩恵を受けられるというわけ」


 そのため『ローレライ』や、『オベリウス』といったタイプのヒーローが、十分活躍できるのである。





「まあ、バグの中には一部、歌に近い支援効果を行うタイプもいるけれどもね……スズムシみたいな相手には、注意したほうがいいわよ」





 それは初耳だった。


 バグの音だと、おそらく僕たちには効果がないだろうし……お互いに影響がないという事なのだと思う。





「そういうわけで、歌えるヒーローは需要が大きいのよ。なので、みんなに一曲ずつ歌ってもらって、どのくらい適性があるのか判断する必要があるというわけ」





 それも初耳だ! 


 カラオケボックスで歌うのならばともかく、音楽室でクラスのみんなの前で歌う……少し緊張してきた。





「まずは、あいうえお順で芥川あくたがわさんから」





 準備不足もあってか、少しぎこちない歌い方だ。





「緊張しないで。自分の好きなタイプの歌でいいのだから、気楽に歌ってちょうだい」





 舞先生のアドバイスで、スローテンポの和風の曲に変わる。


 今度はうまくいったようで、のびやかな声に変化した。





「扇子を持って、舞うようにして歌いながら戦えると、かなりいい感じになるかも」


 かなり高評価である。





「次は久朗くろうくん」


 久朗は本番に強いので、おそらく問題ないだろう。





 選んだのは……『Pane dhiria』という、かなり難易度の高い曲だ。


 外国語のパートも含めて、完璧に歌いこなしている。





「すごいじゃない! これならば即、オベリウスになれるわよ!」





 舞先生が絶賛する。





「久朗くんには、音楽の練習もカリキュラムに加えさせてもらうわね。この才能を見逃すのは、私自身が許せないから」


 どうやら久朗にとっては、自分で自分の首を絞める結果になったようである。





「次は晶さん」


 久朗の後だと、やりにくいだろうな……。





 と思っていたら、思いっきり方向性を変えてきた。


 歌った曲は、『ダンシング☆サムライ』だ! 


 本来男性が歌う曲なのだが、晶さんには完ぺきに合っており、軽快な感じで久朗とは別の良さがある。





「晶さんも、素質十分っと。なぜかローレライではなくて、オベリウスの素質だけれどもね」


 舞先生が少し首をかしげながら、手帳に書き込んだ。





「じゃあ、次は結城ゆうきくん」





 いよいよ僕の番だ!


 みんなに負けないように、僕も歌わないと。





 選んだ曲は、『パラジクロロベンゼン』だ。


 ちょっとアップテンポの曲だけれども、歌いなれているのでこれならば大丈夫という自信がある。





「結城くんもすごい! 即、オベリウス候補ね」


 高評価を勝ち取ったようで、ホッとしている。





「最後にみかんちゃん」





 みかんちゃんは……声自体は悪くないのだけれども、致命的に音痴であった。


 ほかのみんながレベルが高すぎるという事もあるが、これはいくら何でも……。





「残念ながら、みかんちゃんにはローレライの資格はなし、と」


 舞先生が苦笑しながら、みかんちゃんに告げた。





「みゅ。歌うこと自体は好きだけれども、音痴なのは自覚している」


 みかんちゃん自身も、自覚があったようだ。





「さて、というわけでみかんちゃん以外には、ヒーロー科目の授業の一部を割いて、音楽に充ててもらうわね。歌えて戦えるヒーローとなれば、引く手あまただから」





 更に大変になるようだけれども、これも立派なヒーローになるための道。


 精一杯頑張ろうと思う。

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