第13話 めあの機体

 入学式の時から数日が経ったある日のこと。


 その日の放課後に僕たちはまた、めあと出会った。





結城ゆうき久朗くろう。お久しぶりなの!」


 めあが元気に挨拶する。





「久しぶり。めあ、元気だった?」


 僕も、挨拶を交わした。





「久しぶりといっても、数日程度ではあるがな」


 久朗が笑いながら、そう付け加えた。





「めあ、二人に見せたいものがあるの」


 めあがワクワクしながら、懐から何かを取り出した。





「これは……アイアンのヒーロー証明書?」


「ということは、準ヒーローとして認められたということか!」





 少し驚きながら、僕たちが答えた。





 準ヒーローは、比較的幼年であってもなることができる。


 ただし正規のヒーローとしての資格は、高校入学が前提条件となっているのだ。





「あと、向こうの公園にきてほしいの。めあの機体を見せるの」





 機体って……まあ、子供にとっては『アプレンティス』であっても、十分迫力があるもののはずだし。


 ちょっとほほえましい感覚になりながら、僕たちは公園に向かった。





 学校の近くの公園にたどり着く。


 以前めあと出会った公園とは異なり、やや広めに作られている。


 小学生くらいの子供が遊具で遊んでいたりして、平和な雰囲気が漂っている。





「この砂浜のあたりで出すの!」


 めあが、待ちきれないという感じでこちらに告げた。





「いいよ。どんな機体なのか、見せてちょうだい」


 僕もそれに答える。





「じゃあいくの。――『フェイズシフト』――!」





 めあの掛け声とともに、機体が召喚される。


 あれ? なんだかフォルムが、アプレンティスとは異なるような……? 





「これが、めあの機体『イリュジオン』なの!」


 めあが自慢そうに、こちらに声をかけた。





 アプレンティスと同じ、白くて少し丸みのあるフォルムではあるのだが……所々に銀色やクリスタルカラーが施されており、明らかに強そうに見える。


 僕たちの機体と比べても、そん色ないくらいカッコいい機体だ。





「まさか、準ヒーローなのにパーソナライズされた機体を有しているとはな」





 久朗が声を出した。


 表情にもかなり、驚きが混じっている。


 僕も同感だ。





「この機体は、どこで手に入れたの?」


 僕が聞いてみた。


 準ヒーローに与えられるのは、基本的にアプレンティスのはずなのに……。





「あのね、少し長い話になるの」


「いいよ。順番に教えてちょうだい」





 めあの話をまとめると、こういうことらしい。





 まず、めあたちは学校の授業で、静丘市葵区にある「る・くるる」という施設に行ったらしい。


 館内は科学の展示がされており、特設コーナーでアプレンティスの搭乗を体験できるブースが存在していたようだ。





 そして、めあがアプレンティスに乗り込み、機動準備を行ったときに事件が起きたらしい。


 なんとアプレンティスを『パーソナライズ最適化してしまった』というのだ。





「そんなことが、有りうるのか……?」


 久朗が呆然とした口調で、そうつぶやいた。





 前にも述べたようにパーソナライズするためには、『プラーナコンバーター』という回路が必要とされている。


 それがないアプレンティスは、あくまでも「練習用」といった位置づけになっており、通常のタクティカルフレームとはそこが大きく異なる部分なのだ。


 その前提が大きく覆されたということになる。





「あと、能力の測定も同時に行われたの」


 いったい、どんな結果が出たんだろう? 





「結果は……わからない、だったの」


「分からない?」





 久朗が不思議そうな顔をする。


 僕も同じような顔をしていると思う。





「能力のふれはば? が大きすぎて、正しい値が出せなかったらしいの」


「それはまた……かなりまれなケースだな。一体どのくらい幅があったんだ?」


 久朗の質問と僕の疑問が、完全に一致していた。





「えっと……上はLEレジェンドリーっていうところを超えていて、下はRレアっていうところだったの」





 !?





 能力測定器では「上限」として、LEが設定されている。


 それを「超えた」というのは、まさに「ありえない事態」としか言いようがない。





「なんだか、とんでもない事になっているようだね……」


 僕の口から思わず、言葉が漏れた。





「最低でもレア以上なんて即、正規のヒーローとしてスカウトされてもおかしくない事態だぞ」


 久朗もため息をつきながら、そう漏らした。





「これって普通は、主人公たちの立ち位置なの?」


 めあが少し、不思議そうな顔をする。


 僕のスーパーレアが、かすんでしまいそうだ……。





 気を取り直して、近くにあるパン屋でおやつを購入する。


 めあが「少しおなかがすいたの」と言っていたので、おごってあげることにした。





 購入したのは「のっぽパン」だ。


 これは静丘しずおか限定のパンで、長さが30センチ以上あるコッペパンにクリームを挟んだ、バンデロール社の独特な商品。


 いろんな味が販売されていて、静丘県民の間では広く親しまれている。





「めあ、これがいいの!」


 選んだのはアニメのキャラクターがプリントされた、ティラミス味だ。





「私はこれにしよう」


 久朗が選んだのは、クラウンメロン味。





「僕は普通のクリームにするよ」


 スタンダードなクリーム味もまた、甘くて美味しいのが特徴だ。





 三人でかぶりつく。


 横にカットされたパンの中に、滑らかなクリームがしっかり入っていて……うん、この味は癖になる。





「めあ、もう守られるだけの存在じゃないの」


 彼女が胸を張りながら、そう言った。


 ちょっと誇らしげなのが、逆にかわいらしさを強調している。





「そういえば、めあの家ってどこだっけ?」


 気になったので、僕が聞いてみた。





「めあ、芙士ふじこどもの家にいるの」





 ……無神経な質問だったと、反省した。





 芙士こどもの家というのは、いわゆる「孤児院」の一つだ。


 バグの被害によって孤児になってしまう子供は結構いて、社会問題になっている。


 めあもその一人だったのか……。





「でも、大丈夫なの。お友達もたくさんいるの」





 だから心配しないでという心を込めながら、めあがそう付け足した。


 その表情に曇りはなく、施設に入ってはいるものの大切に育てられているのだろうな、と感じた。

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