第8話 能力測定

 能力評価のための機器が、保健室に設置されている。

 この機器はヒーローとしての能力を測定するだけではなく、与えられた「ギフト」や「ギアス」についても測定してくれるという優れモノだ。


「セッティングを済ませるから、少し待っていてね」

 舞が機器を操作する。

 ポーンという軽快な音とともに、グラフィカルな画面が表示された。


「この機器で測れるのは、あくまでも現在の値だからあまり気にしないでね」


 ヒーローの力の指数は、かなり細分化されている。

 能力なしの「Nノーマル」を除くと最も低い「Cコモン」から、「UCアンコモン」「Rレア」「HRハイレア」「SRスーパーレア」「SPスペシャル」「EPエピック」「URウルトラレア」、そして最上位の「LEレジェンドリー」だ。

 Nを0としたうえで、1~9の段階に分かれていることになる。


「どう考えても、スマホのガチャがモチーフだよな」

 久朗くろうがそうツッコむ。


「確か開発したのは、冬花廣政ふゆばなひろまさだったはずだけれども」

 日本でもトップクラスの企業の社長なのに、まい同様ユニークなところがあるようだ。


「とりあえず、誰からでもいいけれども……今度は逆順で、みかんちゃんから」

「みゅ。分かった」


 彼女が機器の上に乗り、分析が始まる。

 体脂肪率を測れる体重計と、手に持つ二本のスティックを組み合わされたような形状だ。


「能力は……レアね」

「そこそこの結果」


 準ヒーローはコモン、アンコモンレベルの人間が多い。

 正規のヒーローでもたまにアンコモンレベルの人間がいたりするが、一般的にはレアレベル以上の人間でないとバグとの戦いにおいて、不利だとされている。


「そして、ギフトとギアスの書かれた紙は、こちらよ」

 舞がレシートのようなものを手渡す。


「ギフト」とは、突出した能力や技術、祝福などのプラスのものを指す。

 対になる「ギアス」は逆に足かせになったり、不利益に働くものである。


 ただしこれは流動的なものであり、ギアスであったものがのちにギフトになったり、ギフトに甘んじていたものがギアスに変化したりといったケースも存在する。

 ちなみにそれらについては個人の「弱点」になりうるため、よほど親しい相手以外には見せないのが一般的だ。


「次は御門みかど君」


 僕は緊張しながら、機器に乗る。

 ゲージがどんどん上がっていって……これは! 


「すごい、スーパーレアじゃない!」


 社会人のヒーローであってもハイレア止まりというのが、ざらにあるのだ。

 まだ高校生活が始まったばかりであることを考慮すると、突出した能力であるといえる。


「そして、こちらがギフトとギアスの紙ね」

 渡されたものを見てみると……? 


 ギフト:折れない剣

 ギアス:女顔


「あの……これ、ギャグで出ているのではないんですよね……?」

 あまりにも怪訝けげんな顔をしていたため、舞が紙に目を通す。


「あらら……でも、ギアスにしては制約が少ないから、むしろ当たりの方だと思うけれど?」

 舞は軽い口調でそういうけれど、とんでもない! 


「電車の中で、痴漢された経験が何度もあるんだ……神様、僕を呪っているの?」


 ぼやかずにはいられない。

 横から来た久朗がその紙を見て、大笑いしながら口にする。

「まあギアスはともかく、ギフトの方はなかなか有効そうではないか」


 気を取り直して読んでみると、ギフトに関する詳細な説明が後ろに記載されていた。

 それによるとこのギフトは、持っている剣は心が折れてしまわない限り、決して破壊されないという能力らしい。

 確かに剣士にとっては、かなりありがたい力だといえる。


「次は俺だな!」

 あきらが測定すると……みかんと同じく、レア判定であった。


「くそう~。結城の後だと、しょぼい結果に見える」

「何度も言うように、これからどんどん伸びていくのだから、気にしちゃだめよ」

 舞がフォローを入れる。


「さて、私はどうかな?」

 今度は久朗の番だ。

 もし変な能力だったら、こちらも笑ってやろうと思う。


 能力評価:ハイレア

 ギフト:クロックアップ

 ギアス:自閉症スペクトラム、ADHD


「これはまた……どう解釈したらいいのやら、だな」

「っていうか、ADHDって何?」


 隣から覗き込んだ僕も、キョトンとしてしまった。

 自閉症スペクトラムというのも、よく分からないし……。


「これは……少し、面白い結果が出たわね」

 舞が興味を示す。


「どちらも精神を判定するときに用いられる基準で、生まれつきの脳の性質に由来しているものよ。コミュニケーションに支障があったり、注意力が持続しなかったり、うっかりが多かったりするの」


 言われてみれば、面接のときに訓練用の弾を抜き忘れていたようだし……非常に納得できる結果だ。


「つまり私が部屋を片付けられないのも、このせいなのだな。納得した」

「納得はいいけれども、努力で改善できる部分もあるから。簡単にあきらめないでちょうだい」

 舞がそうたしなめる。


 最後はれんだ。

 少し緊張しながら機器に乗り……結果はレア。

 彼女自身は、アンコモンではなかったという事で、逆にほっとしているようである。


「最低でもレアレベルがそろうというのは、結構珍しいことよ。これならば少しハードなメニューでも、何とかなりそうね」

「ハードモード確定……みかん死亡のお知らせ」


 みかんが、ガクッと肩を落とした。

 思わずみんなで笑ってしまう。


「あとは……みんなが待っていた、専用のタクティカルフレームの配布を行って、今日はおしまいよ」


 これを待っていた!  

 僕たちが乗る機体が、一体どんなものになるのか……はやる気持ちを抑えつつ、校庭の方に向かった。

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