第318話:自由自在
以前から、あった違和感の正体。
先程の紅月の声に交じっていたもの、以前からあった紅月が大災害を起こした理由が見えなかったことも。
楓人達を誰一人殺さずに、結果的にここまで辿り着いた事実からして妙だ。
彼ならいつだって殺せたし、一人で街を壊滅させるのも容易い。
「お前は大災害で人を殺すことなんて願っていなかった、ってことか」
紅月が大災害の原因になったことは疑いない。
それでも、今になって管理局を目指しているということは、一つだけはっきりとしている事実があった。
彼が大災害で悔いている部分があるのだとすれば。
「余計に唯との約束を守らなきゃいけなくなったか」
「俺を殺さず制圧するつもりか?不可能だ。力の差は理解できたはずだが」
「そんなの最初からわかってんだよ。それでも、やらなきゃいけなくなった」
まずは防御を突破する、そして剣も躱して一撃。
気の遠くなるような道筋だが、ここで紅月を打倒すれば前回の大災害の手がかりも今回の騒動を止める手がかりも両方が手に入る。
最も一撃を放つまでのラグが少ないのは拳に風を集約させた型だろうが、リーチを考慮すれば敵への到達時間は足りない。
剣型が最もバランスはいいが、肝心の破壊力が黒槍に及ばない。
拳の速度で威力を増す、そんな想像力が求められる。
いや、想像の材料を与えてくれる人間が傍にいた。
“カンナ、いけるか?”
“うん、大丈夫!!すぐいけるよっ”
拳の速度で、もっと鋭く。最高の手本と戦ったことがある。
装甲さえもそぎ落とし、速度をわずかに向上させる。
カンナとほぼ完全に連携できている今なら、わずかな調整も可能になった。この型を操るには、速度と敏捷性がキモだ。
紅月に向かって身を躍らせると剣を横たえて再び守りの体勢に入る。
ここからはとにかく攻めて、叩き潰す。
「―――
二十センチ程度の爪が左右に三本ずつ、黒爪の開放は性質から他とは異なる。
一瞬の出力は他に及ばなくとも、加速へ出力を使って攻撃の瞬間に破壊力の増大に風を纏う。
渡はその両方を同時にやっていたが、楓人が咄嗟に真似るのは難しい。その代わりに速度と瞬間的な威力は飛躍的に増大する。
右の爪は紅の盾と衝突して波紋を呼ぶ。
次は左の爪、ここから地面を蹴って空中では風を台にして蹴り飛ばす。
中空でも移動し続けながら盾が追い付けなくなるまで、攻撃を繰り返す。
「無駄だよ、お前よりもアークの展開が速い」
「だろうな……!!」
ようやく見えてきた、城壁を切り崩す方法が。
紅の盾は相手の攻撃に自動で反応して出力を無駄なく、集結させる仕組みになっていることはわかった。
紅月が行うのは力の供給で、出力はほぼ反射的に相手の力に合わせて行う。
剣を維持しながらあの速度で強靭な盾を展開し続けるには、紅月といえど一部の手順を簡略化しなければならない。
つまり、突破する方法は一つ。
面倒だと思ったのか払いのけるように剣が振るわれる初動を見て、ほぼ読みだけで左の爪を変形させる。
「
力の一部の開放、カンナが黒爪を維持して楓人側で対応する。
二人で一つの
今の瞬間出力ならば、紅月が普通に放った一撃ならば弾ける。
それでも纏った漆黒の風は解除されるが、一時的に剣を押し戻す。
そこに、わずかな勝機があった。
相手が出力を正確に察知し、半自動的に出力を合わせて防御する仕組みなら。
「カンナ、今だ!!」
こちらが弱くなればいい。
わずかに残した装甲で、『楓人』は拳を突き入れる。
そして、紅月は反射的に盾を出してしまった。今までは、この防御を展開しない選択肢などなかったが故に、反応してしまった。
今の、力をほとんどカンナに渡した弱者に過ぎない楓人に。
「はあッ!!!!!」
楓人の後ろから、カンナが凄まじい密度の風を纏わせて紅月へと跳躍する。
相手が一人から二人に分裂するなど、紅月の経験にもないだろう。そして、絶妙な時間差で放たれたカンナの蹴りは、紅月が盾で楓人の攻撃を防いだと同時に別の方向から襲う。
「悪くはないが、まだ甘いな」
二枚目の盾がカンナの蹴りを防ぎ、紅の輝きを放つ。
「楓人、お願いっ!!」
カンナから再び、大半の漆黒の風が楓人へと戻っていく。
二人で自在に風を操れるようになったのなら、受け渡しも自由にできる。
楓人の右手、カンナの蹴り。瞬時に二か所を防いだ盾は、同じ力を持った盾が二枚あるわけではなく力は分散されている。
今なら、三枚目の盾があろうが貫ける。
「―――
瞬時に黒の騎士は力を一つに戻し、盾の展開より速く力を結集させる。
楓人とカンナの攻撃に同時に反応した分、ほんのわずかに展開が遅れた。楓人とカンナが同時に黒の騎士へと戻ろうとした時、展開速度は一人ですべてを行っている紅月の盾の再展開を上回った。
周囲を風が薙ぎ払い、砂ぼこりと瓦礫が落下していく。
「アークを纏った俺を傷付けたのはお前が初めてだよ、大したものだ」
まだ、紅の騎士は立っていた。
右腕の装甲にわずかに亀裂が入り、わずかに滴るは血液。
それでも、装甲の亀裂はすぐに紅の光と共に埋まっていく。傷も浅いものだろうし、あそこまで段階を経て隙をついてこの程度か。
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