第307話:交わる意図
「……当然、貴方にも責任を取ってもらいますよ?」
「ああ、構わんさ。その為に来た」
ため息を吐くと怜司は運びかけた足を止める。
城崎の行動が紅月の命令とはとても思えないが、城崎が灯理をけしかけるメリットも他には考えにくい。
「へえ、私のこと……止めないんだ?」
「無論、止めますよ。貴女の考える意味とは違うでしょうがね」
ついに頭痛に耐えかねた彼女は頭を空いた左手で押さえる。怜司はとっさに動きかけた体を再び理性で静止し、赤く鳴動する空を見つめた。
合計五回の鳴動を受けて、彼女はまだ血生状態を保っている。
あれほどの力を現在の状態で使い続ければ、確実に暴走に至るだろう。
しかし、怜司は先程の暴走を回避した男を思い返し、城崎が何を企んでいるかを完全に理解するに至っていた。
まず、考えるべきはなぜ男が助かったかである。
間違いなく、強敵を前に早い段階かつ急激に半暴走状態へと突入したからだ。
加えて怜司と城崎の状態などの情報を踏まえ、完全な暴走ではなく不完全な暴走に陥る条件は三つほど考えられる。
一つは赤い空と極めて近い種類の力を持っていること。
二つ目は、並外れて強い能力を有していること。
そして、最後は精神的に極端な不安定さを抱えている点だ。
以前に渡から聞いていた、大災害前に変異者であったかどうかも関わってくるのかもしれないが今は判断がつかない。
とにかく、城崎の目的は一つ。
完全に暴走させれば止めようがない灯理を、急激に引き起こされたが故の不完全な状態―――すなわち半暴走状態に入れる。
そうなれば男と同様に彼女も助かる可能性が出てくるし、罪のない人間の犠牲も避けられる妙手だと判断して怜司も方針を変えた。
ただ、この作戦には幾つか問題があった。
―――最難関は半暴走状態の灯理を、戦闘不能に追い込む必要がある点。
彼女が半暴走状態で能力を殺す為に使ってくるのに、こちらは殺さずに制する条件付きで全くフェアではない。
それでも怜司を以てしても到底無理だと断言できる暴挙は、城崎と共闘すればわずかな光明が見える。
後は城崎を信じるかどうかだが、灯理と怜司を排除しようとするだけなら効率的な方法が幾らでもあったはずだ。
「俺を信じるべきか……あんたなら言うまでもないだろ」
「ええ、選択肢はお互いにないでしょう。死にたくないのならね」
「話が早くて何よりだ。他に邪魔が入らないかが気がかりだが、最低限の手は打たせてもらった。後はそっちに期待するしかないだろうな」
「当コミュニティーページのアクセス数への貢献、何よりですね」
見透かされて気まずそうな顔をする城崎だが、灯理を止める人員が他にいるのなら寄越しただろうし唯も敵に回った。
そうなれば、城崎側で打てるのはエンプレス・ロアやレギオン・レイドを動かすことぐらいだろうと、かまをかけたのだ。
城崎はロア・ガーデンを利用して、変異者に呼びかけたのだろう。
後は増援が来ることを期待するしかないが、まずは灯理を止めるのは二人の役割になりそうだった。
「ああ、やっぱ……グルってことでいいんだ」
ぎりっと歯を噛み締めた灯理からすれば、そう見えても不思議ではない。
「貴女に痛みを与えるのは気が引けますが、私は一度交わした契約を安易に破るほど恥知らずではありません。貴女との共闘はまだ終わっていない」
「じゃあ、なんでそいつとッ!!」
感情を昂らせた瞬間にもう一度の頭痛に彼女は顔を歪める。
もしも城崎と怜司が手を組んだのであれば血生状態を解除するわけにもいかないし、彼女には真偽を判断する理性は残っていなかった。
「貴女と行動するべきではなかった。無論、貴女の為だけではありませんが、敵を救う為に刃を交えることになるとは。人生わかりませんね」
彼女の最期を見届ける程度の情が湧いているのは自覚していた。
当然ながら灯理と戦うのは、街の命運がかかっているのが大きい。
しかし、悪と断じた者を斬り捨てようとしていた彼女に、楓人と出会う前の過去の自分を重ねてしまっていたのも事実だ。
「っ、ぁあああああッ!!!!!」
六度目の鳴動と共に、何かが切り替わる。
「さて、怪物退治だが……何か作戦はあるか?得意分野だろう」
「好きに動いて貰って構いませんが、私の
「ああ、できれば合図は欲しいが好きにしろ」
リーダーの楓人は紅月の居場所に向かっているし、本来は立場的にも怜司がメンバーの状況を把握して指示を出すわけだが現状では難しい。
今までは複数のメンバーで行動することも多かったので、作戦中にも誰かがメンバーと連絡を取れていた。
しかし、今回はエンプレス・ロアにレギオン・レイドを含めたとしてもここまで広域の問題には対応しづらい。
故に、怜司は歯がゆく思うも戦況の立て直しを別の人間に委ねざるを得ない。
明璃や彗がいればずっと楽だったが、戦った末の負傷を責める理由は皆無だ。
今は集中しよう、宵瀬灯理はこの戦場で最も強大な敵の一人になった。
もはや、濃茶色の髪をした死神の目には理性はどこにもない。
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