第251話:告げる真実
「あ、仁崎くんもいたんだ。私もちょっとお邪魔してもいい?」
「いやぁ、お邪魔はオレの方かもしれねえけどな」
「そ、そんなことないよ。二人きりになるのはまた出来るし」
別に柳太郎を邪険にするつもりはないが、カンナが言い出そうとした話はアスタロトに関連するものなのが予測が着いた。
しかし、柳太郎がいるからと言って躊躇う様子を見せるのは失礼だと思い直し、一緒に会話を楽しむことにしたらしい。
人の好いカンナらしい気遣いだが、いい加減に彼女の正体を教えるべきかを再考する時が来たのかもしれないと思う。
チームが固まるまでは定期的に新規メンバーが加入していたこともあって、情報が万が一にも漏れる可能性があった。
だが、今はメンバーも親交を深めて全幅の信頼を置ける人間ばかりだ。
脱退を考えるメンバーも当分はいなさそうだし、カンナの秘密を漏らすメンバーはこの中にはいないと断言できる。
なし崩し的に秘密となってしまったカンナの正体も、今なら渡や紅月にも知られている以上は隠し続ける意味もないのではないか。
加えて、ここで誰かに真実を話すべき理由はもう一つあった。
「……どうしたもんかな」
簡単に決断できないとはいえ、柳太郎に話をするには好機であることも事実だ。
つい零れた声に二人は怪訝そうに楓人の方を見る。
「カンナ、話していいと思うか?」
やや唐突に訊ねた言葉に最初は首を傾げた相棒だったが、期待した通りに質問内容をすぐに理解した上で悩まし気に考え込む。
こればかりは一人で決められることではないし、カンナが嫌だと言うのなら親友相手でも無理に話すことは出来ない。
それでも、最初に話をするなら柳太郎が適任だと思っていた。
他のメンバーや参謀である怜司を信頼していないわけでは断じてない。信頼しているが故に黒の騎士最大の秘密を明かしてもいいかと悩んでいる。
だが、柳太郎はコミュニティーのメンバーとは別種の信頼がある。
柳太郎と椿希とカンナが楓人を立ち上がれるようにしてくれた。
友達のままでいてくれた彼は自分だって辛かったのに他人を気遣い、次に会った時も変わらない笑顔を見せてくれた。
それをカンナだって知っているからこそ彼女は黙って頷く。
「うん、話しておくべきだよ。仁崎くんなら間違いないと思うし」
「やっぱりそうか。いい加減、隠すのも限界だろうからな」
覚悟はいることだし、騙していたと罵られる可能性もゼロじゃない。仮にそうなるとしたら自分の責任と甘んじて受け入れるしかない。
とっくに話してもいい状況になっていたのに、隠し続けたのは楓人自身なのだ。
だから、いい加減に隠し事を無くして後腐れなく前に進もう。
「柳太郎、俺とカンナから大事な話がある。まだコミュニティーのメンバーですら誰も話してないことだ」
「……結構、重い話みてーだな」
柳太郎も空気を察したのか真剣な表情になり楓人は重い口を開く。
そうして、楓人は全てを柳太郎に話して聞かせる。
大災害から今日までの出来事を掻い摘んで、出来るだけ解り易く。
あくまでもカンナが人間であること、大災害の日から彼女と今まで一緒に生きてきたこと、皆に黒の騎士の真実を隠してきたのも理由があること。
順を追ってカンナがあくまでも楓人達と同じ人間だという点はより丁寧に、今まで何も話せなかった点を最後に詫びる。
柳太郎だって白銀の騎士のことを隠していたのも事実でも、それで楓人が隠していたことを正当化するのは卑怯な行いだ。
全てを話し終わると、柳太郎は珍しく正直な驚き顔をしていた。
それも当然、今まで普通に話をしていた少女が黒の騎士そのものだったと知れば驚かないはずがない。
「成程ねえ、言われてみればってとこか。まさか
柳太郎は肩を竦めながら苦笑して二人を見比べた。
その様子からは特に憤慨した様子もなく、カンナを見る目も今までと変わっていないのを見てまずは安堵する。
「何か言いたいことがあるなら遠慮なく言っていいんだぞ」
「怒るとでも思ったか?オレだって隠し事してたし、お前が隠してた理由も十二分に理解できる。で、雲雀さんは結局のところは人間。驚きはしても文句言う場所があるかよ。むしろ、ここまで秘密を抱えて戦ったのに感心してるぐれーだ」
「まあ、苦労はしたけど。だから私、実は仁崎くんと会った時は初めましてじゃななかったんだよねえ」
「しっかし、そんな長く楓人と一緒にいたなら惚れるのも無理はねーな」
「あ、はは……。好きになるのは一瞬っていうか、ね」
にへらと照れ笑いしながら、もじもじするカンナと恒例のニヤニヤを楓人に露骨に向けてくる柳太郎は相変わらずの相関図だ。
しかし、ため息と共にからかうような笑みをしまい込んだ柳太郎は、今度はカンナに別種の笑みを向けた。
「何はともあれだ。ありがとな、雲雀さん。おかげでオレは途中で色々あったけど楓人と仲良くやってる」
「それは二人が頑張ったからで、私のおかげなんかじゃないよ」
「そんなことねーさ。こいつはお人好しで損得勘定できないで突っ走るけどよ。誰が何と言おうが良い奴だから、これからも支えてやってくれよな。オレに言われるまでもないとは思うけどさ」
本人のいる前で言うことかとぼやくも心から嬉しいのは事実だった。
大災害で邪険にしてしまっても、こんな事実を話しても友情を決して手放さない柳太郎という男の存在にどれだけ助けられたか。
椿希といい柳太郎といい、本当に底抜けにお人好し過ぎるだろう。
わずかに目頭が熱くなった楓人は唇を噛んで堪える。
友人という存在の有難さが身に染みたとはいえ涙を見せたくはない。
楓人が関わった人間を、彼らに関わるだろう全ての人間を守りたい。改めて居場所の大切さを実感すると共に決意をし直す。
戦おう、これから先にどんな強敵が相手でも。
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