第194話:勝利への意志
「あれから色々と解り合ったんだよ。もちろん、方針に文句があればこれからもガンガン言わせて貰う約束でな」
「納得はいかないけど理解はした。要するに正式にエンプレス・ロアに加入したって認識でいいのね」
「まだバイトだけどな。そっちはどうなんだよ?」
「バイト?アタシはただ、何をするかわからない状態で拾われただけ」
むしろ、それが普通だと柳太郎は思う。
こんな能力が唐突に発現しても、その力に溺れる者以外は用途に困って当然だ。
誰も敵がいない世界を覆す力を以って何をしろと言うのか、その答えを他人に求める人間が作り出したのがコミュニティーだ。
自身に意味を見出せない彼女が無表情ながら活き活きとしているのは、この闘いには明確な意味があるからだろう。
この戦いでは自身の力に意味がある、存在した理由が見える。
「ま、そんなもんだよ。自分の理想を他人に預けるってのも決して責められるようなことじゃねーしな」
少なくとも、今まで以上に戦う意味があるのは柳太郎は同じだ。
親友が決して邪な目的ではなく、戦う力を欲している、
その目的を共有できているのなら駆け付けてやるのが友人としての義理だ。
心に満ちる気合と共に柳太郎は一つ頷いた。
「・・・・・・あー、やっと思い付いたわ」
「・・・・・・何の話?」
まるで当たり前のことを告げるように。
「―――お前に勝つ方法、だよ」
その自信に満ちた言葉を受けて、竜胆は眉を潜めた。
フォルネウスの腕も大きな効果を示さず、糸の結界も強力なエネルギーが結集した彼女の刃本体に斬られれば突破されるだろう。
それでも、柳太郎には勝利への道筋が明確に見えている。
「さあ、続きを始めようぜ」
「舐めないでッ!!」
紅の刃は今まで以上の速度で振るわれる。
フォルネウスの腕さえも飛沫の連撃で退け、柳太郎の本体にさえ迫る。
完全に柳太郎の戦術を把握した彼女の身体能力と強さを持ってすれば、柳太郎の防御を突破することも難しくない。
こと突破力に関しては黒の騎士と少なくとも同等以上、そんな彼女は単独での行動が許されているだけはある強さだ。
刃が防御を抉り、フォルネウスの腕を弛緩させて破壊すると前進を繰り返す。
飛沫で隙を消しながら猛進する戦術には一見すると隙は無い。
刃は糸を断ち切り、ついには柳太郎の装甲さえも打ち破って胸板に傷を付けた。
刃が装甲を削る瞬間に別種の赤い光が走ったことから、変異者を死に至らしめないように紅月が目を光らせているようだ。
付いた傷はわずか数センチ、ごく浅いもの。
むざむざと喰らいはしなかった柳太郎は、糸で構築した網で自身の体を受けて体勢を立て直す。
空中からの腕、平面からの攻撃、どちらも簡単に突破される。
「勝つ方法を見つけたってのはブラフ?」
竜胆は油断を微塵もせずに相手の動向を見据える。
これだけ明確な相性有利があってなお、白銀の騎士を仕留められていない事実が彼女を焦らせている。
あと一つで取れるという場面で絶妙に攻撃を躱されるのだ。
それでも、状況だけ見れば足掻いても白銀の騎士に勝ちはないはずだ。
吹き飛んで衝撃を殺し、コンクリートの壁から身を起こす白銀の騎士。
地面の土を踏み締めて、子供達がボールの壁当てにでも使うであろう壁を背にゆっくりと立ち上がる間に口を開く。
「そろそろ、ネタばらしと行くか」
「・・・・・・ネタばらし?」
「ああ、起きろ―――フォルネウス」
告げる瞬間、地面がひび割れて何かが姿を現す。
まるで蜘蛛の糸を思わせる、直径数メートルにも及ぶ巨大な糸の陣。
それは見た目の通りに竜胆の手足を拘束して、剣を振る際に必要な動作を強引に停止させていた。
必死で抵抗する竜胆だが、柳太郎はこの陣の構築にかけた時間は膨大だ。
「こんなもの、いつから?」
自身の敗北を悟りながらも彼女は悔しさを表情に乗せて訊ねる。
「お前と戦い始めてからずっとだよ。まともにやったらそっちが有利、勝ちに行ったらオレが有利なのは見えてたからな」
竜胆の動きは確かに速く、斬撃も正確無比だ。
しかし、走る速度自体がずば抜けて速いというよりは身のこなしの速度だ。
加えて、その単純な腕力という意味では決して強くない。
この二点から柳太郎は地面に彼女の速度では抜け出せない範囲の糸を隠す戦術を取り始めていた。
彼女からきっかけを生んだとはいえ、会話を出来るだけ長引かせて強固な陣を作り出すことに成功したのだ。
条件さえ揃えば必ず陣に彼女を捕縛できると確信していた。
飛沫の刃も剣を振るわせなければ発動できないことは確認済み。
最初から上と平面からの攻撃のみを行い、地面から意識を完全に外させた。
この勝敗を左右しかねない程に重要な一戦を確実に勝つ為に、柳太郎は真っ向勝負よりも確実な道を選択する。
「悪りーな。オレ今回は結構、重要人物みてーだし」
「・・・・・・・・・」
「出来れば殴りたくねーから、ドロップしてくれると嬉しいんだが」
その言葉に彼女は拘束を外せないことを確信してため息を吐いた。
これだけのお膳立てをされて罠に嵌ってしまった時点で彼女の敗北は確定した。
―――公園の戦いの勝者、白銀の騎士。
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