第145話:森に隠す


 その後、改めて自己紹介をして連絡先を交換すると、今後の活動方針だけはここで決めておくことになった。

 四人で動くのはより素早い対応が出来るからであり、コミュニティーとの連絡用で使っている携帯であれば教えても構うまい。


「まず、こっちの持っている情報を渡しておく。聞いたことあるかは知らないが、今回の件に関わっているのはハイドリーフを名乗っている団体だ」


「ハイドリーフ……聞いたことないな」


「とりあえず、ひっそり生きようみたいなコミュニティーみたいなんだよね」


 木の葉を隠すなら森に隠せ、という言葉を意識しているのか知らないが随分と平和なコミュニティーもあったものだ。

 しかし、城崎の言うことが事実ならば、なぜ黒の騎士を語る真似をしたのか。


「天瀬、お前は大人しくしててくれ。話がこじれる」


「なんか、わたしだけバカみたいじゃん!!」


「実際、頭良くねえだろ。柊はよくやってると思うね」


「あー、そこまで言っちゃう!?どーせ私はバカですよーだ」


 拗ねてしまう唯を見かねて少しはフォローを入れておいてやる。

 じゃれ合いの範疇なのかもしれないが、淡々とした城崎の言い方に直情的な所がある唯がカチンと来るのも頷けた。


「唯、そんなこと言わないで一緒に話し合おうぜ。城崎もああ言うが頼りにしてなきゃ、わざわざここまで呼ばないだろ」


「界都くんと違って楓人は優しいよね、ありがと。楓人とはいい友達になれるなって最初から思ってたんだよね」


「同じコミュニティーながら戦闘以外は頼りにならないことの方が多いけどな」


「あ、あはは……城崎くん、そこまで言っちゃ可哀想なんじゃないかな」


 一見すると反りが悪そうには見えるが、態度自体は気安いものだったので二人の仲の良さは伝わった。

 スカーレット・フォースはもっと淡白な関係であるイメージだったが、普通の友人同士のような関係もあるのだと認識を改めた。


「とにかくだ、ハイドリーフについて話を戻すぞ。あそこはメンバー同士が戦わない不戦協定みたいなもので、俺達のようなコミュニティーとは少し違う。お互いのことは偽名で呼び合って戦わない為に集まり、仲間を募る」


 唐突に人が能力を得たらどうするか。


 思うままに力を振るうか、このままでは血が流れることを憂いて戦うか。

 だが、変異者になって本能そのものに変化が見られるとはいえ、どちらにも大きな勇気が必要だ。


 大きな力を得られなかった者、関わり合いになりたくないと思った者はどうするかの答えがハイドリーフにある。


 独りでいるには物騒だが、疑うことなく繋がる場所が欲しいという本能は変異者だろうが変わらない。

 だから、彼らは隠れ潜むことに全力を費やした。

 戦って平和にするのは誰かがやると耳を塞ぎ、隠れる彼らには何の罪もない。

 その行いを血を流す者達が侮蔑する権利はなく、全員がそう生きれば本来は平和が訪れているはずなのだ。


「放っておく分には人畜無害だ。俺達も手を出すことはなかったんだが……最近、妙な動きが見えているらしい」


「……妙な動き?」


「黒の騎士を支援したいと言い出す奴が現れている。大人気だな」


「騎士さんいい人だもんね。私、異性として全然アリかも。ね?」


 楓人に向けて意味ありげなウインクをする唯と、ピクリと肩を震わせるカンナ。

 やはり、バレているのかもしれないと背筋が凍る思いだった。


「まー、それは半分冗談として……それって向こうからしたらまずいんだよねー」


「それはそうだよね、戦わないっていうチームだったわけだし」


 唯の冗談発言で肩の力が半分抜けたカンナが同意を示す。

 確かに隠れ住むべきコミュニティーが表に出ることを主張し始めるのは破滅を意味する。

 人数はいるのかもしれないが、戦闘力も経験もない人間が多数の中で戦いを重ねてきたコミュニティー相手に戦いを挑むのは蛮勇としか言えない。


 戦うべき理想もなく、変異者の本能を抑え込まなければならないとすれば最も心の強い者が集まる場所でなければならないのだろう。


 黒の騎士がその引き金になったとすれば、悲しいが謝罪することでもない。


「それで、黒の騎士を支援したいって人間が問題なのか?それとも、行動に移す奴が出始めてるって意味か?」


「……話が早くて助かるな。問題は後者だ」


 偽物の黒の騎士の件とようやく話が繋がり始める。

 黒の騎士の都市伝説は隠れ住んでいた平和主義者が逸る原因を作ってしまった。伝説は自分も小さな人助けを、という思いを膨らませて自己陶酔に追い込む。


 烏間を殺すと決めた時の後味の悪さが蘇ってくる。


 その苦しみを英雄的な陶酔で誤魔化して人を殺すなら、それは新たな悪を生む。


「こっちとしても偽物は早めに潰したい。そいつと遭遇できそうな場所に心当たりはないか?」


「確実とは言えないが、こっちにも多少の手がかりはある。その代わり、そっちに精度の高い探知ができる人間がいるはずだ。そいつを借りたい」


 燐花程の探知能力者は今までの戦いでも存在しなかった。

 今回も負担をかけてしまうが、その分は楓人達が何とか戦闘面でカバーしていくしかないだろう。

 そして、楓人達は偽物を止める為に作戦を構築していく。


 今は仲間と信じる二人と共に。

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