第83話:調査
二人は無事にカフェまで戻ってくることが出来た。
わざわざ何度か電車を乗り換えて回り道して帰ってきたので少しばかり疲れた。
それぐらいの警戒をしなければ、仲間の命がかかっている可能性もあるのだ。
怜司達はまだ戻って来てはいないようで、カフェには二人しかいない。
人形の一件は怜司に伝えるべきなのだろうが、今日を潰すのは躊躇われた。
尾行はされていたとしても間違いなく撒いたし、そもそも見られていた可能性も極端に低いだろう。
あの係員が変異者だとするには、内部の様子を詳細に見える位置にはいなかった点が疑問に思えたからだ。
「とりあえず皆を呼ぶのは止めておく。明日、また話し合うとして・・・・・・」
そうは言っても、この大事件を完全に黙っておくのは、後に取り返しのつかないことに発展する可能性が十分にある。
燐花と傘下の変異者を纏めている
怜司にも連絡しておき、デートが終わったら明璃を送って行ってやれと指示を出しておいた。
「こういう時、怜司なら結論出してくれるんだろうけどな」
渡も相当に頭は切れる方だが、まだレギオン・レイドに相談する段階ではない。
参謀に作戦立案を頼っていたことを思い知らされて楓人はため息を吐く。
方針は楓人が考えてきたし色々と浮かぶことはあるが、最後の作戦調整が楓人一人だけでは難しかった。
例えば、これから恐らくはスカイタワーを中心に都市伝説の噂を集めることになるだろう。
では、どの段階でレギオン・レイドに協力を要請するべきか。
スカイタワー以外の情報を収集する為にメンバーをどう配備するべきか。
参謀がそれは不要だと断じてくれて最適な人数を配備してくれるから、楓人も忌憚なく自分の方針を述べられる。
バラバラに立案された作戦に最終調整を加えてくれる怜司の役割は、エンプレス・ロア内では唯一無二かつ最重要とさえ言えた。
「方針は決まってるんだけどな。とりあえず今はやれることをやっておこうぜ」
「ネットで調べてら同じような噂が出ないかな?」
「そうしようと思ってたところだよ。まずはロア・ガーデンからだ」
どちらにしろ今日の更新の当番は楓人なので、少し前に買い替えたパソコンを立ち上げてネットに接続する。
今の現代社会は情報が溢れていて、検索をかけるだけで知りたい情報の多くは一瞬で手に入る時代になった。
それを活かして楓人達も様々な方法で情報を得る手段を用意したのだ。
「ロア・ガーデンの方には情報は何もないな・・・・・・」
「表の方も何もないね。また自演してみる?」
「自演言うな・・・・・・。元は俺達の知りたい情報を集める為のサイトなんだから、質問するくらいならいいだろ」
たまに楓人はロア・ガーデンに管理人サイドであることを隠して書き込みを行っているのだ。
それによって知りたい情報を議論させて情報の質の向上を図ろうというものだ。
何にせよ、ロア・ガーデンがダメとなると普通に調べてみるしかない。
“蒼葉スカイタワー 人形 噂”とか色々な方法での検索を試してみる。
「ほとんど出ないね。ブログに書いてあったのも、そんな噂があるとかであんまり信用できないっぽいし」
「逆に体験した奴が今までにいなかったってことは変異者の可能性が高まったと思っていいんじゃないか?」
最近になって大きな変化があったことと言えば、烏間が身を隠してマッド・ハッカーの活動が停止されたことだ。
工場で戦った時はマッド・ハッカーの人員は一部しか来ていなかったようだ。
再び動く時の為にあの男は戦力を残し、その時に人の命が奪われる。
もしも蒼葉スカイタワーで噂を呼んで、目を向けさせることで何を企んでいるとしたら放ってはおけない。
変異者がいたとして、人形で下手にちょっかいを出す理由としては蒼葉スカイタワーで不思議なことが起こるという噂を流したかったのではないか。
学校に広まった都市伝説と似ていて、噂を流すことで本命をおびき寄せる手口である可能性は十分にある。
変異者は噂の中に潜む不可思議の匂いにどうしても敏感になり易い。
「とにかく、明日は学校でも少し話を聞いてみよう」
「うん、私も女子を当たってみるね」
こういう時にカンナの善性から来る顔の広さはとても助かる。
明日の方針が決まった所で店の入り口にぶら下がった鈴がちりんと鳴り、そこにはいつもよりは少し余所行きの格好をした怜司が帰ってきた所だった。
「早かったな。どうだったんだ?」
「リーダー達は上手く行ったようですね。私達もまあ、上手くは行ったのではないでしょうか」
怜司がカンナの表情を見て、一瞬で楓人達のデートがどうだったかを察知して自分たちの話題へとすり替えた。
「明璃のことを好ましく思っていると伝えて、適当に映画を―――」
「ちょ、ちょっと待て!!お前・・・・・・今なんて言った?」
「・・・・・・つ、ついに告白っ!?」
聞き捨てならない発言があったような気がして楓人とカンナは一度、ナチュラルに流れそうになっていた会話をストップさせた。
まさか朴念仁の怜司が頑張ったのかと期待半分、たぶん違う意味だろうと諦め半分だった。
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