第22話『選ばれた二人目の加害者』
それは、「盛大な」という言葉が相応しい誕生日会だった。
いわゆる誕生日席というものに座らされた俺の目の前には、数々の料理が並べられていた。
料理に疎い俺には、それぞれに何が使われていて、なんという料理なのかは一切検討が付かないのだが、それでも、全ての料理はとても美味しそうに見えた。
「フェリクス、誕生日おめでとう」
「フェリクス様、おめでとうございます!」
「おめでとう、フェリ」
母親のエンリィ、リネ、ソラが口々に祝福してくれた。
この場にいるのはその3人だけではない。
目の前にある料理の数々を作ってくれた料理人。
屋敷で働いている使用人たち。
両親の知り合い。
仕事で家を空けているため父親のアテラはいないが、それでも十分に大人数と言えるだけの人たちが集まっていた。
ただの、俺の誕生日会に。
この家で働いていて、普段から顔を合わせている人から誕生日を祝福されるのは、まだ分かる。
しかし、今日初めて会った見ず知らずの大人から「誕生日おめでとう」と声をかけられるのは、不思議な感じがした。
向こうでは、誕生日を祝福されるなんてこと、ほとんどなかったから。
俺の誕生日会ということになってはいるが、俺はまだ1歳の子供だ。
主役が料理を食べていようと眠っていようと関係なしに会は進んでいく。
中心にいるはずなのに、どこか壁があるような。
ゲームの主人公のように、会話に参加はできず、ただそこにいるだけ。
しかしそれは、決して無視をされている訳ではなくて。
「どうかしたかい? フェリクス君」
顔を向ければ、言葉と笑顔をかけてくれて、
「フェリクス様、口にソースが付いてるです」
ついでに世話まで焼いてくれる。
別にそれは、1歳の子供に対する接し方としては何も可笑しな部分はないけれど、
「はい、これで大丈夫ですね」
ただ普通に接してくれて、ただ普通に祝ってくれる。それだけのことが、何故か、どうしようもなく嬉しくて、
「ん……フェリクス、泣いているの?」
悲しくもないのに、涙が流れた。
「どうしたの? 料理、美味しくなかった?」
「……おいしい」
母に涙を拭かれながら、俺は一言だけそう答えた。
◇◇◇◇◇
そいつは、突然現れた。
◇◇◇◇◇
世の中には、どうしようもない奴がいる。
他人の物を盗む奴。
他人の名誉を貶める奴。
自分自身を大切にしない奴。
善悪の区別がつかない奴。
自分の欲望を抑えられない奴。
殺人を躊躇わない奴。
世の中には、そんなどうしようもない奴が山ほどいる。
そんな奴らの大半は法に触れて逮捕されたり、何か別の手段でその「どうしようもなさ」を解消していたりする。
俺からすれば、そいつらはまだいい方だ。
牢屋にぶち込まれれば基本的には何もできないし、別の手段でその欲求を解消できるのであればそれに越したことはない。
一番やばいのは、自分の中にあるその「どうしようもなさ」を自覚していながら、溜め込んでいる奴だ。
そいつらは、自分の中にある欲求が悪いことだって分かってる。だから溜め込む。
そして次第に、忘れていく。
溜め込むことに慣れて、自分が何を我慢しているのか、分からなくなる。
そして、いつか溢れ出す。自分でも気づかぬうちに。
そう。気づかないのだ。俺のように。
だからこそ俺は、選ばれたのだろう。
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