第14話『反撃準備』
リミティブとの戦闘から離脱した後――いや、あれは戦闘などではなく、一方的な暴力だったけれど――私は比較的安全と思われる場所に身を隠していた。
分かりやすい言い方をすれば、時空の狭間、とでも言うのだろうか。
時間のゴミ箱。空間廃棄場。世界から捨てられた場所。不可侵領域。
色々な呼び方があるけれど、正式な名称は決まっていない。決める必要もない。何故ならここは、存在しない場所だから。存在しないと定められたから。
故にこの場所は、如何なる方法でも発見することはできない。もっとも、私の知らない抜け道がないとは言い切れないのだけれど。
しかし、この空間の異常性はそれだけだ。
この場所はどうやったって見つけることはできないけれど、出入りに関しての制限は特にない。
つまり、この空間が存在しないことを知っている人であれば、いつでも出入り可能なのだ。
まあ、こんな何もない、いや、ないものしかない場所に来るような物好きは、記憶の限り見たことがない。私だって、この場所がこうなってから訪れるのは初めてだ。
私の知る限り最も安全なこの場所も、あの全能神に対しては無力かもしれない。
一切合切を運命の名の下に無力化し蹂躙する彼の前には、存在しないこの空間でさえも、力押しで抉じ開けることが可能なのではないか。
しかし、例えそうだったとしても。
私はまだ、死ぬわけにはいかない。
リミティブは言った。もう一度彼女を殺すのだと。
彼がそう言う以上、それは絶対なのだろう。一度目がそうだったように。
そして、悔しいけれど、私にそれを止める力はない。
であれば、私がするべきことは、今までと変わらない。
死んでしまった彼女を転生させるか、生き返らせること。
今までの私であれば、迷わず生き返らせることを選んだだろう。
しかし、リミティブの支配下にあるであろう肉体が地球にあると分かってしまった以上、蘇生が最善とは言えなくなってしまった。
だったら――
痛む体を奮い立たせ、起き上がる。
いつまでも休んでいる訳にはいかない。
右腕は折れ、お腹に穴は空いたままだけれど。
大丈夫。身体的損傷は直接的な死の原因にはなり得ない。
そして何より、
リミティブは言った。私を殺して、もう一度彼女を殺すのだと。
それは絶対だ。決められた運命。変えられない未来。
だったら私は、最後まで抗い続けよう。
例えこの身を捨ててでも、あの2人だけは救い出そう。
「……さあ、休んでる暇は……ないのですよ」
まずは、向こうの世界の管理者にコンタクトを取らなくては。
堅物で、お人好しで、人が大好きな彼ならば、協力してくれると信じて。
「……私です。レインなのですよ。少し、協力してほしいことがあって――」
◇◇◇◇◇
「さて、準備は全て終わったけど、どうしたものか」
内田創の肉体に制御用の魂を入れ終わり、後は彼が夏木梨幸を殺すのを待つだけ。だと言うのに、僕の気分はいまいち晴れなかった。
理由は、ここまで事が順調に進んでいるというのに、彼女――夏木梨幸を確実に殺しきる光景が、未だに見えないからだった。
運命力のあるこの世界では、僕の能力が著しく制限されるのは最初から分かっていたことだった。
それでも、そんな制限された状態でも、レインの介入や内田創の抵抗、夏木梨幸が蘇生される未来は見えていた。
しかし、ここにきて、望む未来が一切見えなくなった。
どうやっても、夏木梨幸を殺しきれない。どうやっても、レインを見つけ出せない。
どこで間違えたのか。何を間違えたのか。
能力が制限されている現状ではそれを調べることも叶わない。
「……まあ、良いか」
しかし、この時点で僕は、そこまでの焦りを感じていなかった。
どうにかなるだろうと、自分への揺るぎない自信があったからだ。
そして僕は今、それを後悔している。
驕っていたのだ。自分の力を。制限されていたというのに。
ここは、僕の世界ではないというのに。
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