第五回戦 嵐の予感
『性愛中毒キラー《フェミニスト》』こと痣神京一の出現で、僕はそれまでのセックス生活を見直す必要に駆られた。
まず、街で偶然に出会った女とセックスすることはほとんど不可能になった。痣神のネットワークは凄まじく広く、僕と面識のない女でも僕の顔を見ればすぐに僕が『
それに加え、僕がかねてから利用していた出会い系アプリでも同様のことが起こった。痣神がどのような手口を用いているのかは分からないが、僕のアイコンとユーザー情報が女たちの間に出回っているらしく、僕とマッチングしてくれる女が激減する事態となった。
もともと交際関係にあった女とも、ある日突然連絡が取れなくなることが相次いだ。これにも痣神が関与しているのだろうか。僕は次第に疑心暗鬼になっていき、女と関わることが億劫にさえ感じるようになっていった。
そんな状態がだ半年ほど続き、僕はセックスからどんどん遠ざかっていった。もはや僕の性器は排泄と自慰行為にしか使われることがなくなり、心なしかつるりとして柔らかいものに変わっていった気がした。そんな器官にはもはや存在意義が無いように思えた。そもそもが子孫を残すために備わっているはずの器官なのだから、子孫を残すために使われなくなってしまえば、それはもう無駄な器官でしかない。なまじ触れると気持ちがいいだけに、セックスできない今となってはその快感がもどかしく、もはや手の届かないセックスを思い起こすようで、不快な器官に思えてならなかった。
「君は意外と単純なやつだな。もう終わりなのか?」
例のバーへ行くと、そこにはきまって痣神が居て、マティーニを嫌味ったらしくちびちびと飲んでいた。彼は僕が明らかに憔悴している様子なので、大変満足そうだった。
「俺は君を鏡に映した時、君の反対側に映る存在なんだよ。俺と君とでは情熱を傾ける方向が違うが、その熱量は全く同じなんだ。だから、結局どうしたって君は俺にやられてしまうんだなぁ」
「あんたは女性の権利を守る団体か何かの回し者か? どうしてそこまで僕の邪魔をする?」
正直言うと、僕はもううんざりだった。生まれてこのかた、ずっとセックスのことだけを考えてきたのに、それを僕から遠ざけるために全力投球してくる人間と出会ってしまったのだから。想像してみてほしい。もしも自分がこよなく愛しているものがあって、今までそれに心血を注いできたのに、ある日突然現れたいけすかないやつにそれを邪魔され、永遠にそれができなくなってしまう未来。はっきり言って地獄だ。
「俺は俺の趣味を貫いてるまでだよ。主義とか思想で動いてるわけじゃなく、ただ君から女性器を遠ざけることが好きなんだ」
「こんなこと、いつまで続けるつもりなんだ?」
「永久に。君がセックスを一生諦めるとなったら、別の誰かを探して邪魔してやるだけさ」
「本当に嫌なやつだなあんたは」
「俺にとっては、君はセックスに突っ走ってくれる、つまり俺の欲望を満たすためのカモに見えているよ。それは君も似たようなものじゃないのかい? つまり、君には女性がセックスを成就させてくれる存在に見えているんじゃないかってことさ。そういう意味じゃ、僕たちは他者との関わりにおいて似通った方法をとっている、いわば同じ穴の狢というわけだ」
「あんたはそれでもいいのかもしれないけど、僕はあんたみたいな味の悪いやつと一緒にされたくない」
そう言ってから僕は酒をひと息に飲み干した。どうせ今夜もセックスできないんだ。どんなに酩酊したところで困ることはない。立ち上がると、さすがに足がふらついたが、無理やり歩行して出口へ向かった。
「捨て台詞として受け取っておくよ。それからね、君は俺だけが敵だと思っているようだけれど、それは間違いだ。『性愛中毒キラー《フェミニスト》』というのは、俺の通り名や技名、スタンド名なんかじゃなく、あくまで僕のような思想をもつ人間の総称だ」
無視。
「君の情報はすでに仲間に共有済みだ。今後、もしもこの街で勝手な行為を続けるのであれば、俺たちは容赦しない。全力で君を排除する」
この言葉通り、一週間後に僕は『性愛中毒キラー《フェミニスト》』を名乗る覆面の集団に襲われることになる。
それは、いつものようになんてことのない夜だった。僕は声をかけた女性たちにまるで相手にされず、追い詰められた獣のように狂い、禁じ手を使ってしまった。禁じ手といっても犯罪ではない。相手は僕が以前から面倒を見ていた職場の後輩で、僕のような『
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