老人、掃除始める
「これからどうするんじゃ」
「唐突になんですかボケましたか?」
地下室にいた経営者は息も絶え絶えだったが、神の使徒・宵月が治療を施し、なんとか話せるレベルまで回復した
しかし、失ったものは戻っては来ず、未だ四肢欠損した経営者は今後を悩んでいた
そして老人も悩んでいた
「受付の男の親分の居場所じゃ、宛なんぞあるのか?」
「おじいちゃん、ここは魔法の世界ですよ?居場所の特定なんて衛星からGPSを使えば1発ですよ」
「うむ…うん?」
「私のお得意様に連絡取りますので、場所特定するまで暇でも潰しててください」
そう言って神の使徒は折りたたみ式の携帯電話を取り出し、電話をかけ始めた
「魔法とは一体なんじゃろうか?」
「僕の知ったことではないよ…」
経営者の女は四肢欠損したまま項垂れていた
それもそうだろう、四肢欠損となれば読みは出来ても書くことは出来ない
経営に支障が出るのは確かだ
「のう経営者よ、歳はいくつじゃ?」
「…18」
「若いのに経営しおったんか」
「ううん、親父がやれって言ったから、いわれてそのまま…」
「なるほどのぅ、跡を継いで欲しかったんじゃな」
「それは……うぅ、そうなのかな」
「いや知らんが」
「ぇぇ…どっちなんだよ」
「お主以外生きておらんようじゃしのぅ、これからを考えると人手不足は否めんの」
「分かってるよそのくらい…その時は店を畳むだけさ」
「これこれ、そういった方向への考え方はやめんか」
「じゃあどうしろって言うんだよ!」
「いや儂に聞くな」
「えぇ…なんなんだよあんた、人間…じゃないよな?」
「見たらわかるじゃろ?」
「…うん、見た目飛びっきりの化け物だよあんた」
「そ、そこまで言うかのぅ!?」
「だってあんたの種族って絶滅した悪魔王族なんだよ?」
老人はそれを聞き、渋い顔をさらに渋くする
「なんで渋い顔してるの…?」
「あ、あぁ、いやの、儂…魔族に関してはからっきしじゃし」
「生まれてその姿なら納得するよ…言語能力の取得は早すぎる気もするけど…悪魔王族なら出来るかもしれないし」
「物騒な種族じゃのー」
「うん、実際昔は物騒だったし…“見敵必殺“が悪魔王族のアイデンティティだから…お兄さんが目の前に現れた時に、僕は殺されてもおかしくないと思ったくらいだもん」
「わしの種族、物騒過ぎやせんか!?見敵必殺ってなんじゃ見敵必殺て!」
「分からないよそんなの…生まれた時から世界を憎んでるとか話聞くけど」
「儂は憎んでおらんのー」
「じゃあ悪魔の皮を被った善人だね」
「普通逆なんじゃがな…」
一通り会話を終えると、神の使徒である宵月が戻ってきた
「場所、分かりましたよー」
「のう宵の、魔法とはなんじゃ?」
「そりゃ火を操ったり、水を作り出したりするんでしょ?なにを当たり前なことを」
「……そうじゃったの」
老人クロマは考えるのをやめた
「経営者さん」
「僕、エトマっていう名前あるんだけど…」
「では、エトマさん機械魔法を使いますので気を楽にしてください」
「え、え?君そんなことができるの!?」
「たがが魔法じゃろ?凄いのかのそりゃ?」
「役立たずおじいちゃんは黙ってて!」
「あっはい…」
ダルマ状態の経営者エトマの肩や股間部から、機械仕掛けの義手、義足が生え始める
「わ、わわ!」
「……っ!」
「(ぼけ〜…)」
三者は別の反応をし始める
エトマは生えてくるものに驚き
宵月は生やすための労力を魔力で駆使し
老人クロマは黙っていろと言われたのでボケーッとしている
「まだ終わらんかのー」
「黙れじじい!」
「宵の、お主あれじゃろ、集中する時は口悪くタイプじゃろぜったい」
「2度も言わせるかくそじじい!黙れってんだよ!」
「……」
老人は黙った
数分で、指先の肉付きまで完備したエトマの両手両足
エトマは自由に跳ね回り始め、喜びを表現する
「良かったのうエトマよ」
「ええ!僕満足です!ありがとうございます!ええと…」
「神の使徒です」
「神の使徒…え、ええ!?」
「そういえば自己紹介まだじゃったの、儂は」
「悪魔王族のクロマさんでしょう?知ってますさっき僕聞いてました」
「えぇ…」
「クロマ、話は程々にして親分を殺しに行きますよ」
「殺してどうするんじゃ、捕縛して醜態を晒すんじゃろ?」
「僕からすればどっちも死んでるような気がします…物理的にも社会的にも」
「…まぁなんですか、親分はここから2km離れた森奥の納屋に潜んでいるので1分後に出発しますよ」
「殺すことは否定せんのじゃな」
「じゃあ僕は店の片付けしないと…」
「もう済ませてあります、浄化魔法と清掃魔法を施してありますので、すぐにお客様が入室可能ですよ」
「あとはお前さん次第ということじゃな、エトマよ」
「え、そんな素振り1度もしてませんでしたよね?!」
「浄化魔法と清掃魔法の同時発動なら無詠唱で出来ますし、簡単でしょう?」
「神の使徒って凄いんですね」
「そうじゃな、もっと褒めてあげなさい」
「私は褒めて調子に乗るタイプですのでもっと褒めて構いませんよ!!」
「じゃあ僕やめときます」
「その方が良いかものぅ」
「手のひら返しやめてくれません?私の形状記憶合金製のハートが削れます」
「すぐ元に戻るではないか、それ」
「神の使徒ってすげー!」
──────────────────────
「納屋に着きましたね、女性の嫌々した悲鳴が中で響いてますよクロマおじいちゃん」
「性行為とは愛し合ったものが合意の上でやるものじゃ、1部例外は除くがのぅ」
「私を見ないでください、あれは油断した私が悪かったのです」
「さよか、ところで正面突破するのかの?」
「いえ、家ごと吹き飛ばしましょう」
「……女性がいるのではなかったかの?」
「それは相手が油断させるための罠に違いありません、私を見くびらないでください」
「じゃがの…中に生体反応が複数あるのじゃが」
「貴方のその眼は便利ですね、脳みそから脊髄を引っこ抜いて移植すれば私も手に入るでしょうか?」
「物騒なこと言うでない……本気でやらんのよぅ!?」
「冗談に決まってるじゃないですか、
神の使徒は納屋に向けて爆発魔法を放つ
「やるならやると一言、言ってくれんかの!!」
「…破片がクロマにあたって即死してくれたら有難かったのですが…やはりと言うべきか」
納屋は爆発を受けてなお平然としており、傷跡が残っていなかった
「納屋自体頑丈なのかのぅ?」
「ハズレですね、納屋自体に再生魔法が施されてます。再生魔法以上の火力をぶつけると壊れるかもしれませんが、ドラゴン並の火力がないと無理ですねこれは」
「儂は何と戦っておるんじゃろうか?」
「知りませんよ、ほら、戦闘態勢に入ってください。と言っても肉壁程度てすが」
「痛いのは嫌じゃ」
「痛みをなくす魔法ありますよ?」
「わかったのじゃ、やってく──」
「では行ってください」
「了承聞く前に魔法使うのやめてくれんかの!?」
納屋の扉が開き、全裸の男が這い出てくる
「誰だテメェら!人がお楽しみ中だってのによ!」
「全裸とか、クロマのお仲間ですよあれ絶対」
「いや人じゃろあれ、儂の種族は悪魔王族とかいうへんてこなイカれた連中じゃし。あと儂はいつまで裸なんじゃ?」
「ここに来るまでに、布でも買って腰に巻いていればよかったのに」
「お主のダッシュに着いてくるので精一杯じゃったんじゃぞ?そんな暇なかったわい」
「2人でなにイチャイチャしてやがんだぁぁぁああああ!」
納屋から出てきた男はキレだした
「最近の若いもんはすぐ切れるのう」
「あ、その言い方ってダメらしいですよ」
「なぜじゃ」
「同じ若者でしっかりしてる人がいたら、悔し涙流しますよ」
「ううむ、気をつけねばならんなそれは」
「無視してっと殺すぞテメェら!!」
「話し相手になってやるからの、どうしたんじゃ若いの?」
「てめぇらナニモンだ!魔物の町の憲兵団なら生きて返さねぇぞ!!」
「あー…儂はただの一般人じゃ」
「私は神の使徒です」
「宵の、お主はブレんのぅ」
「一般人なわけねぇだろ!その姿!聞いたことあんぞ…絶滅した悪魔王族だってな!んでもって神の使徒と来たもんだ!俺を罰する気満々なのわかってんだよ!!」
「最近の若いもんは話も聞かんのか」
「最近の〜、から始まる言い方やめた方がいいですってば」
「すまなんだ」
「覚悟しろオラァ!」
納屋から出てきた全裸の男は、納屋を凝縮し始める
「ありゃ何をしておるんじゃ?宵の」
「圧縮魔法です、他の魔法と組み合わせしやすい子供から学べる魔法ですね」
「儂も使えるかの?」
「無理でしょうね、クロマの体内にある魔力貯蔵庫は大きく、魔力も枯れることはありませんが…」
「儂強いんじゃな!」
「魔法を使うための、出力となる“魔口“が絶望的なくらい機能が死んでます。なので溢れ出た魔力は地を這うように流れ出てますね」
「魔口、どうにかならんのか?」
「無理です、魔口が塞がった人間、魔物なんて今まで記録にはありませんから治療すら出来ません」
「使えん神の使徒じゃの」
「ですがクロマの今現在の使い道はありますので、覚悟しておいて下さい」
「痛いのは嫌じゃよ?」
凝縮され、サイコロ程度にまで圧縮された物をこちらへ投げてくる全裸の男
「爆発しますね…クロマ、私の前へ」
「痛いの確定ではないか!嫌じゃ!」
「物は試しです、早く」
か細い少女の腕が筋骨隆々のクロマを引っ張り、サイコロがクロマに直撃する
クロマの胸板に当たり、弾かれたサイコロは一気に膨張し始め、爆発した
「ヒャッハハ!ざまあ見やがれってんだ!!」
「……儂、生きとる?」
「は?」
爆発による土煙が晴れると、老人を盾にした神の使徒はサイコロが当たった時と同じ状態であった
「やはり魔力の受け渡しは可能でしたか、偶然でしたが物は試しようですね」
「実験的なことせんで欲しいんじゃが?」
「生きていなければあなたは辺り一面を肉片と化して喋ることすらままならないでしょうね」
「お主、儂をなんじゃと思っとるんじゃ?」
「肉壁」
「もうお主以外の神の使徒みても信用出来んぞぃ…」
「構いませんよ?私よりだいぶ狂った人ばかりなので、神の使徒は」
「例えばどんなじゃ?」
「善良な市民を脅し金を奪ったり、強姦なんてざらですね…あとは国ひとつ滅ぼしたりしてます」
「もうそれは、神の使徒じゃなくて悪人じゃろ」
「さぁ?本人たちが楽しんでるならそれでいいんじゃないです?」
「さようか」
爆発による影響を受けなかったことに、全裸の男は怯むが、気を持ち直して戦闘態勢に入る
「舐めてんじゃねぇぞ!!クソッタレがァァ!!」
「あやつも神の使徒になってもおかしくなかったのかのぅ…」
「ありえないでしょう、心の澄んだ方にしか選ばれませんから」
「宵の、お主澄んでおるか?」
「殴りますよ?」
「そういうとこじゃ!」
「イチャイチャしてんじゃねぇえええ!!」
備蓄していたのか、サイコロサイズの物体を幾度となく投げる全裸の男
「防壁魔術─レベル100─」
「ありえん数字言いおったな宵の、儂の魔力持つのかの?」
「余裕ですね、あと5000足してもお釣り出てきます」
「儂、強いんか弱いんかわからんの」
「なんで効かねぇんだよぉぉぉ!!」
防壁によるダメージ無効は老人と神の使徒に傷すらつかない
それを見越して動き始める全裸の男は、2人の背後に出現する魔法を使った
「む、消えたぞい」
「後ろですね…あ、えい!」
神の使徒は老人を無理やり動かし、自分の背後に持っていく
「防壁(略)」
「略したらいかんじゃろぉぉおお!?!?」
またも爆発するサイコロを防壁魔法により防ぎ、傷を負わなかった2人だが、神の使徒はしびれを切らしたのか攻撃に転じる
「また隠れました、面倒ですね死ね」
「なんじゃ?体が熱いんじゃが?」
「熱でこの山を焼きます」
「待っ────」
その日の夜、魔物の街付近にある山のひとつが焦土化し、野生化した魔物達の住処がひとつ消し去ったとかなんとか
────────────────────
魔物の街で繁盛している三階建ての宿にて、経営者であるエトマは老人クロマと神の使徒宵月に質問する
「えーとさ、2人とも?山ひとつ燃やすのはやりすぎだと思うよ?」
「儂は何もしておらん」
「神の使徒ですから当然です」
「宵の、神の使徒というのは便利な言葉ではないのじゃよ?」
「なんでもやっていいって言う解釈ですから」
「多分じゃが、それも違うと思うのじゃ」
「2人とも聞いてる!?住処無くした野生の魔物の対処のこと!!」
どうやらエトマの話は進んでいたらしく、聞いてなかった2人は聞き直すことにした
「いや聞いててよ…いい?2人が山を燃やしたから魔物たちが住処をなくして…」
「それさっき聞いたのじゃ」
「…そ、それで!この街の警備隊が、街に来る野生の魔物たちの処理に追われてるけど人手不足なんだって!」
「つまり私たちも殺れと?」
「ま、まぁ直接的にいえばそうなりますね…発生原因作ったのはあなた達ですし…」
「嫌です」
「面倒じゃ」
「言うと思ったけど…もう遅いよ」
宿の玄関から集団がおしよせてくる気配を察知した老人と神の使徒は、渋い顔をし始める
「のう、エトマよ。裏口はあるかの?」
「あるけど、いや、逃げたら僕が行かなきゃならないから」
「知ったことではありません、多少の犠牲はつきものでしょう」
「酷くない!?」
「酷くないのぅ、疲れるのは嫌じゃ」
「ここの宿主はおるかァ!この宿に住んでいる者に用事があるのだが!」
集団のひとりが宿の玄関先で叫び出す
「隠蔽魔法かけますので、さっさとズラかりましょう」
「賛成じゃ。エトマよ、またのぅ」
2人は他のものから姿が見えない隠蔽魔法を使い、裏口から宿を去った
残されたエトマは
「嘘でしょ…」
と涙ぐんで呟くのであった
────────────────────
「エトマには悪いことしたのう」
「ですが過去をふりかえっていても仕方ありません。私の正体がバレた以上、気を取り直して先に進まなければなりませんから」
「自分から正体バラしておったじゃがの。まずは隠れ家を見つけねばならんのぅ」
「神の使徒である以上、嘘はつけませんから。隠れ家ならアテがあります、と言っても山の中ですが」
「まさか儂らが焦土化させた山かの?」
「私を入れないでください、クロマが燃やしたじゃないですか」
「人のせいにするんじゃないわい!」
「あの燃やした山であれば、数週間は出入り禁止になるはずです。街では謎の危険な、野生の魔物が燃やしたことになってますから」
「あながち間違ってはないのう」
「全部正解じゃないですか」
「わしは野生化しておらんわい!」
「否定するとこそこですか…まぁいいです、焦土化した山で一軒家を建てましょう」
「おなごと二人暮しの生活かのぅ…若い頃なればドキドキしたものじゃが」
「私じゃ役不足ですか、構いませんよ不能全裸」
「もうお前さんの悪口にも慣れたわい…」
「嬉しい限りですね不能」
「……」
「行きますよ不能、なに突っ立ってるんですか」
「…いや、もうよいわい」
2人があること数刻、目的地である焦土化した山では、生い茂っていた森の灰が地面をグレーに染めいた
「改めて見ると神の使徒とはすごいんじゃのう」
「実を言うとこの規模の焦土化させる魔法を使うには、私基準だと10年分単位の魔力を必要とするので賞賛するならクロマの方ですよ不能」
「なるほどのう、儂は役に立つのか立たんのか分からんの」
「肉壁オア不能オア魔力貯蔵庫ですね」
「のう、真ん中の要らんじゃろ?何度も言わんでくれんかの?」
「間違いではないので安心してください、“創成・家“」
神の使徒は魔法を唱えると、木造建築の1階建てのログハウスができ上がる
「立派なもんじゃのう」
「クロマの魔力使えばロケットから宇宙ステーションまで作れますよ?」
「…もしやとは思うのじゃが、魔物の街は中世ヨーロッパをイメージするのじゃったが…人間の街は近未来的なのか?」
「いえ、ビル群ですね。車が飛ぶ程度です。ネオンが怪しく光って工場の空気汚染とかそういうのは無いですね、まだ」
「まだ?そうなる未来でもあるというのかの?」
喋りながらもログハウスに入り、掃除をし始める主夫老人
「賢者という者がいまして、その方の管理する魔法使いの中に『未来予知』の魔法使いがそう言ってたらしいですよ?」
「なぜ疑問形なのじゃ」
「信憑性と人格に欠ける魔法使いですから、ほとんどの人間は噂程度にしか扱っておりません」
神の使徒は椅子に座りふんぞり返っている
この神の使徒、家では物が散乱するタイプである
「色んな魔法使いがおるんじゃのぅ、足を少し上げれるか?」
「私の足に欲情しましたか?やめてください」
「掃除しとるんじゃ!宵も手伝わんかい」
「掃除は下々の方に任せているので、私は手出ししません」
「お主マジで言ってお……うわ、目がマジじゃ」
「早く終わらせてください、新築ですから、そんなに汚れはないと思うんですが…」
「いや、少しでもやっておかねば来客が来た時にじゃの…」
「そんな物好きがいましたら、黒焦げにしてでも追い出しますよ」
「物騒じゃのぅ神の使徒というのは」
掃除を半刻で終わらせる老人であった
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