第5話
朝、シンは目を覚まして時計を見た。午前6時過ぎだった。
会社で作成中だったコンピューターの画像処理が残っているのを思い出し、出社前にやってしまおうと起き上がろうとする。ふと、その時、自分の寝ているベッドに何か物がある事に気付き、横を見ると自分の寝ているベッドにもう1つの黒い頭がある事に気付き、一瞬ギョッとした。しかし、それがジュリと自分が名付けたアンドロイドだった事をシンは思い出した。
眠っているジュリの顔を間近で見るシン。ジュリはスヤスヤと寝息を立てて眠っているようである。アンドロイドも寝るのか...と、シンは思った。
昨夜...と言うよりは、その日の真夜中に名前を与えた瞬間から、生まれ変わった様に多彩な感情を見せたジュリにシンは驚いていた。
(あれは、どう見ても人間だよな)
そう思いながらシンは、ジュリの頬を軽く突いた。柔らかな頬。眠っている長いまつげの下には黒く円な瞳が隠されていた。
シンは、まだジュリの全てを知らない。感情を持ち始めたばかりの女性アンドロイドだが、その反面...高性能で、しかも凄まじいばかりの素早い計算処理が行える。このジュリと名付けたアンドロイドが一体どれだけの性能を隠し持っているのか、シンには分からなかった。
研究所に持って行けば直ぐに分かるが、しかし...それはジュリを怒らせる行為に繋がる。彼女は研究所が嫌で逃げ出したと言っていた。
シンはベッドから起き上がり、衣服を着て部屋を出ようとする。
「お出掛けですか?」
いきなり後ろから声が聞こえて、振り向くと寝起き姿で髪が逆立っているジュリの姿があった。
「ちょっと仕事を済ませようと思ってね」
「画像のデーター処理ですね」
「そ...そう、それ良く知っているね」
「その作業でしたら、私が全て済まして、会社の方に転送させて置きました」
「え!ちょっと、やり方も知らず、そんな事しないでよ!」
「データーはPC内に残っていますよ」
シンは慌てて仕事部屋に行き、PCデーター内に残っている画像を見て驚いた。自分が時間を掛けて行う作業よりもずっと鮮やかなデータがあった。しかも自分の知らない間にジュリが作業を終わらせていた。
溜め息を吐きながらシンは寝室に戻って来た。
「あんまり人の仕事を取らないでよ。僕の立場が無くなってしまうから」
ジュリは裸の姿でシンに抱き付き。彼の顔に自分の顔をすり寄せて
「貴方が、そう言うのなら私は、もう邪魔致しません。それよりもシン...出勤時間まで、まだ時間あります。2人だけの時間を楽しみましょう」
ジュリはシンをベッドに連れ込む。シンは裸のままのジュリの身体を撫で回す。暖かみがあり、柔らかで細身のある女性のジュリの身体を彼は強く抱きしめた。
「お仕事終えたら、真っ直ぐに帰って来てくださいね」
「途中寄り道したりした場合どうする?」
「通信網を通して、貴方の居場所を突き止めて、無理矢理にでもマンションに強制帰還させます」
やりかねない行為だと思った。
「あと...私以外の女性とイチャイチャするのもダメですからね」
「条件多過ぎるよ」
「分かったら返事をしなさい」
「はい、はい」
「返事は1回で結構」
「はい」
「良く出来ました。では、約束のチュをして」
「何で、そうなるの?」
シンは、何か思い出したかの様に突然、ジュリの上に身体を向けて。
「そう言えば大事な事思い出した」
ジュリは自分の身の上に来たシンを見て恥ずかしがりながら
「もう...シンったら、だいたん...私、まだ心の準備が出来てないのよ」
頬に手を当てながら言う。
「何を勘違いしてるの?僕が言おうとしてるのは、君の事だよ。君の衣服や体内エネルギー等を用意しなきゃいけないだろ?」
「ああ...そうだったわ。服はともかく、体内の水分エネルギーや電力補給を用意しないといけなかったわ」
「衣服は重要だよ。いつまでもスッポンポンのままだと困るから」
「私は平気よ。貴方の前なら、このままでも十分よ」
「こっちが困る。せめて最低限のモラルは持って欲しい」
「お堅い人ね」
「イヤ...君の常識が欠如しているんだよ」
そう言いながら2人は寝室を出て、リビングに置いてあるPCの前に座る。ジュリはシンのワイシャツを着てシンの前に座る。リビングにあるPCは少し型式の古いタイプで半透明の液晶タブレット型PCだった。タブレットを置くアルミ製の板の上の、どの位置に置いてもセットした位置から、立体映像キーボードが出現しノートPCに切り替わると言う仕組みだった。
シンはPCを操作して、ネットショッピングのページを開く。
「どんな服が良い?」
「女性用なら、何でも良いわ」
「そう...じゃあ、この...ネコのプリントの入った女児ショーツとかでも?」
シンはからかい半分に言ってみた。その発言にキョトンとした表情でジュリはシンを見つめていた。
「わ...私、貴方が、それが良いと言うなら...構いませんが...」
少し戸惑った表情を見せたジュリ。ニヤリと、勝ち誇ったシンだったが...ジュリは直ぐに立ち直り
「ついでにランドセルとか、セーラー服、あとブルマ付きの体操服も用意しませんか?それとリコーダーとかも?」
ジュリは、言った物をカートに入れようとする。
「わ...わ、今の冗談だって、止めてくれ!」
わずかにジュリの方が一枚上手とシンは思った。
2人は、その後真面目に衣類を選んだ。
「あとアンドロイド用の栄養剤ね。私達は基本、人間の様な食事はしませんが体内エネルギーの補給する必要があります。アンドロイド用のゼリー状飲料水は必需品です。私達の身体は、人間の身体に近い形状で汗や分泌液を発散させる為、水分は欠かせません。粉末状の物と、ペッドボトル式、チューブ型等があります。他に体内電力補給の為にガムやキャラメル、スティック型に固めた栄養剤があります」
「何で、そんなのが必要なの?」
「人間だって身体を動かせば、自然と疲れは出るでしょ?それと同じですよ。身体の疲労の無い分、身体を動かすと電気エネルギーは自然と減って行きます。このガムやキャラメル、スティック等は、私達で言う食事な様な物で、軽くエネルギーを補充するのです。1番のエネルギー充電は電気枕です。大幅に減った電力を約8時間程の睡眠で補って、約24時間の活動を行う事が可能です」
シンは、ジュリの話を聞きながら、ゼリー状の飲料1ℓの値段を見て驚いた。
「え!これ1本で5000円。高すぎるだろ!」
「そうですか?風俗や、キャバクラにいく事を考えれば、安いと思いますが?これを用意しておけば、これからは私とのプレイだけで済みますよ。ただし1回のプレイで約200ml~300mlの水分を発散させるかも知れないので・・・金欠症の時はエッチする回数は控えた方が宜しいかと思います」
「ちょっと、お金掛かり過ぎだよ」
ジュリは目を細めて「ふーん...」と、言いながらシンの顔を見た。
「貴方...昨夜、私と会う前に何処にいましたか?」
「え?ドライブしてた...」
「どちらまで?」
「友人と、飲み屋をはしごしていたけど...」
「そのうちの1軒に、キャバクラに行きませんでしたか?」
ギクッっと、焦りを感じた。
「な...何で知ってるの?」
「貴方の電話の検索歴、及びロボカーの発進履歴をみて、おおよその行動は見えてきます。あと、こちらのPCでも、プログラミング解析を、逆読みすれば貴方が過去に購入した物も見れますよ。こんな物もね」
ジュリは、素早い指の動きでPCのプログラミングを打ち込む。そしてシンが過去に買った買い物リスト表から1つアクセスする。それはオナホールだった。
「わ、何で、それを買った事知っているの?」
「夜中に言ったわよ、貴方の大体のデータは読み込んであると...。私と一緒なら、こう言う無駄遣いは必要無くなりますよ。それに...お金が掛かるなら、私も、お金を稼ぎます」
「ネットで銀行強盗するの?」
「まさか...」
ジュリは軽く鼻で笑った。
「私なりの考えがあるのです」
ジュリは、シンを見ながら片手を板の上にのせていた。過去のデーターの一覧表が提示されている画面の1つにジュリが板を軽く叩き、表示されているページにアクセスしてしまった。すると画面から動画が現れて、いきなり裸の女性のが現れ、大きな声で喘いでいる場面が映し出される。
それを見た2人は赤面しながら動画を見る。直ぐにジュリがハッと我に返り画面を隠す。
「シ...シンは見ちゃダメ。あっちへ行って、スケベ!」
「何言ってるんだよ、これが君の考えなんだろ?」
「ち...違うわ!これじゃあないのヘンタイ!」
「僕が過去に見た動画だから、べつに構わないだろ?」
「と…とにかく、ダメ!早くあっちへ行って、警察に通報するわよ!」
何かボロクソに言われてる気がしながら、シンは部屋に戻る。
ジュリは、見た目は良いが。どこかワガママな性格がある...優しくて可愛い子とは、ほど遠いのでは無いか?と、シンは思った。
しばらくして不機嫌な顔でジュリが部屋に入って来た。
「貴方のPCからアダルトサイトを見れない様に設定しました」
「何で、勝手にそんな事するの?」
「だって、そうしないと貴方は、私を見てくれないもの」
「君の考えがよく分からない。君は何を望んでいるの?」
「私は、貴方に尽くしたいの。精一杯の事をしたいのよ...。その為にも貴方には、私の気持ちを理解して欲しい。他の女性でなく私だけを見て欲しいのよ」
出会ってから幾度と無く言っている言葉だった。シンは改めて気付かされた。彼女はシンの事だけを思っている。考えてみれば...自分と彼女は、夜中に出会ったばかり、関係が始まって半日も経過していない。ジュリは素早いデータの解析から、シンのほとんどを知った。しかし...それはあくまでデータ上での事。本人を前にしてみれば、まだほんの触り部分しか知らない。互いに身体を密接したりしたが、恋愛とかの関係が芽生えた訳では無い。
あくまで他人同士、もしくは機械と人間の関係である。
ジュリは本気でシンとの関係を築こうとしている。シンからしてみれば、相手は未知数の能力を秘めたアンドロイド。どんなことまで出来るのか分からない物であった。
(何か、とんでもない者と出会っちゃたな...)
シンはそう思いながら、ジュリの頭を撫でる。
「気が付かなくて、ゴメン...」
「ありがとう」
頬を赤く染めながらジュリは嬉しそうに笑みを浮かべる。
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