第2話
雨の降り続ける夜の闇の中、ハイウェイを走行する1台の民間車両があった。電子機能を搭載させた安物の中古ロボカーであるが、基本的な標準装備は整え、ごく普通の走行を満たせていた。
車内には1人の20代半ば位の若い男性が、車内の椅子を倒してリクライングしながら、フロントガラスに映し出されるWEBラジオの放送を聴いていた。
「皆さん今晩は。DJのタニカワです。皆さんはこの時間いかがお過ごしでしょうか?今夜は関東地方は、あいにくの雨模様です。残念ながら...お月様は見えませんですね。お月様と言えば、実は近日中に、月面で人工のライトを点灯すると言う、企画が上がっています。月面には人が大勢いるから今更ライトを...?なんて思っていると思われがちですが...これは、月の位置を示す為の試験的な取り組みで行われます。月の裏側の部分を使って人工の光を点灯させようと言う、月にいる人達が考えた事であります。これが実現されれば新月の月に人工の明かりで月の位置が確認出来る筈です…楽しみですね。さて..、今夜の第1曲目はジュリアノ・リリーの曲『スター・ラブ~2人の愛は永遠に』です」
WEBラジオから音楽が流れ始めて来た頃、車がフロントガラスに『注意。検問』の文字を表示されて警告音を響かせた。それに気付いた男性は、椅子を起こしWBCでナビの『注意。検問』の文字を消す。前方に警察官が立っているのを車が感知し走行速度を落として行く。
ロボカーが走行速度を落とし停止すると、近くに警官の姿があった。警官の合図によりロボカーが窓を開ける。
「すみません。現在この付近で検問を行っていまして。身分証となるものを、ご呈示下さい」
男性はWBCで、自分の免許証のパネル画像を表示させた。警官は、その画像をWBCディスプレイに読み込ませる。
「ご協力ありがとうございます。安全運転でお進み下さい」
警察管から離れると、ロボカーは従来の速度で進み出す。
ハイウェイをしばらく進んで行くと、ロボカーが今度は前方に何かを感知したらしく、ヘッドライトを対象物から避ける動きを見せた。男性は、それに気付きロボカーがその対象物の近くへと来た瞬間に、フロントガラスから外を見て驚いた。
そこには白い衣服を着た女性の姿があった。ロボカーが横を通り抜けた瞬間、彼は大声で「ストップ」と叫ぶ。その瞬間、ロボカーは走行を停止する。
彼は大慌てで車を飛び降りて女性の近くまでは知って行く。雨の振る中、女性は傘を持たず。肌着の様な白い衣服のみで雨に打たれていた。
「ちょっと君、幽霊じゃないよね?」
男性は、女性に近付いて大声で言う。
それに気付いた女性は不思議そうな表情で、男性を見上げて「貴方は...だれ?」と、一言答える。
「そんな格好で歩いてたら、風を引くよ」
男性は、自分が着ていた上着を女性に掛ける。
「良かったら僕の車に乗って。近くまでだったら乗せてあげるから...」
女性を連れて、男性は一緒に車へと乗り込んだ。
「家は何処?場所を教えて」
男性はナビに手を伸ばして行き先を、検索させようとしていた。
「家は、無いわ...」
その言葉に、男性は驚愕し女性を見る。女性は平然とした表情で男性の顔を見る。
「驚く事は無いわ...私はアンドロイドなの」
「へ...そうなの?」
彼は、言われて始めて相手がアンドロイドだと気が付いた。言われてみれば確かにアンドロイドだな...と気が付く。町ではコンビニのレジの店員。ファミレスのフロアなどが時折アンドロイドであることがある。作り笑いで気色悪い気がしていた。仕事場でも食堂の受付をしている女性アンドロイドなどがいる。そもそも外観が人間と同じ様な形のアンドロイドは自分から言わないと区別付きにくい構造であった。
男性は、言われてから女性を見て「なるほど...」と頷く。男性は改めて女性を見る。無表情で自分との会話をしていた。まるで感情が無い。長い時間雨に濡れていた模様で身体がびしょ濡れで髪からも水が垂れ落ちているのに関わらずアンドロイドは表情一つ変えなかった。
「そうなんだ...じゃあ、これからはどうするの?」
「貴方の側に、居させてもらえるかしら?」
「研究所とかに、戻らなくて良いの?」
「私、あそこは嫌い...。貴方の側に居たいわ」
僅かながら女性は顔に笑みを浮かべた。それを見た男性は少し溜め息を吐き。
「分かった。じゃあ...とりあえず僕のマンションに行こう」
と、車のディスプレイにあるスターターを押して、発進させようとする。
しかし、車は全く反応しなかった。
「あれ?おかしいな?」
男性はマニュアルモードに切り替えて、発進を試みるが...ロボカーは全く半のしなかった。
「くそ、ポンコツめ」
男性はロボカーのメインディスプレイを叩く。その隣で、ナビに手をかざしていたアンドロイドの女性は、じっとナビを見ていて
「電波障害が原因見たい。内部のOSのセッティングを立て直したら動くかも」
「貴方の、WBC貸して下さる?」
「え?別に良いけど...」
男性は、不思議そうに答えて、腕に付けているWBCを外しアンドロイドに手渡す。
それを受け取ったアンドロイドはWBCの立体ホログラムパネルを瞬時に開き、複数のソースコードのページを同時に開いた。
「システム、オープンソース開始、OSデータスキャン、ロボカーシステム、ダウンロード。ソフトフェア、インストール開始。データクイック、ロック解除。セキュリティ、メインシステム確認。パスワード解除。プログラグラミング設定開始。AIセンサー凍結解除。リミッター解除。音声入力システム開始。メインシステム、オート機能。ATハンドル、オンライン。ナビゲーション機能オンライン設定確認。自動航行機能バックアップ。データバックアップ確認。メインプログラム、システムセッティング完了。OSデータ転送」
男性は隣に座ってアンドロイドのソースコードの素早い読み取りを見て、呆気に取られていた。何より自分が持っているWBCの機能が、そこまで複雑にこなせる事に男性は驚きを隠せなかった。
「データ転送確認...終了。発進出来るわよ」
僅か2~3分弱の作業だった。アンドロイドはWBCを男性に返しながら言う。
「あ...ああ...」
我を忘れていた男性は、言われた通りに、ディスプレイのスターターのボタンを押す、 するとロボカーはタイヤをスピンさせながら急発進する。
「わわ!何これー!」
制限速度を無視したかの様な走りで、ロボカーはハイウェイを走り抜けて行く。
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