第六章「目覚める真の太陽」

戦神の神器

クレマローズ王国は、緊迫した雰囲気になっていた。城下町ではケセル率いる魔物の襲撃による爪痕が所々に残されており、至る所に兵士達が見張っている。人々は不安を抱えながらも日常を過ごしている様子だった。


昨日———玉座に腰を掛けているアレアス王妃と傍らに立つ兵士長トリアスの元に一人の戦士が訪れる。サレスティル王国の戦士であった。戦士曰く、サレスティル王国で兵士や民間人等の行方不明者が続出している事件が起きているのだ。サレスティル王国の現状は女王が不在であり、国民の失踪事件を受けて国を支えている大臣の元へ怒鳴り込む者が後を絶たず、大混乱となっている状況であった。

「サレスティルで数々の失踪事件……さては……」

トリアスはある事に気付く。二年前、私利私欲のままに王国を支配しようと目論んだ大臣のパジンが地下牢に投獄され、現在も服役中であったが、数日前から突然姿を消していたのだ。牢や壁は破壊されておらず、鉄格子の扉は鍵がかけられたままであり、開けられた形跡がない。それは脱走による失踪ではない様子であった。警備に当たっている兵士の中にパジンが姿を消す経緯を目撃した者は誰一人いなかったという。

「まさか……昨日のパジンの失踪がサレスティルの行方不明事件に関連していると?」

「断定までは出来ませんが、少なくとも何か関係があるのかもしれません。まさか、姫様が旅立たれてからも邪悪な魔の手が再び近付いているとでもいうのか……」

トリアスはアレアスに深く頭を下げ、謁見の間を後にすると、兵士達に召集を掛ける。

「たった今、サレスティル王国で人々が失踪する事件が起きている。その毒牙はいずれこのクレマローズにも降りかかるかもしれぬ。姫様が旅立たれている今、全力で王国を守る事に専念する。良いな」

「ハッ!」

謎の事件の毒牙に備え、トリアス率いる王国の兵士達は総力で警備態勢に動き始めた。



「帰ってきたわね」

王国を前にしたレウィシアは思わず声を上げる。城下町の入り口となる門の前は、二人の兵士が槍を構えて見張っていた。

「やや!あ、あなた様はもしや……姫様!?」

レウィシアの姿に気付いた兵士二人は驚きの表情を浮かべる。

「ええ、ちょっと訳があって帰って来たわ。通して頂けるかしら?」

「ハハッ!」

快く迎え入れる二人の兵士。レウィシア達は早速門を潜り抜け、久々に目にする城下町の様子を見回る。

「へえ、ここが君の母国クレマローズか。所々に壊された建物があるようだが……」

周囲の様子を目にしたテティノに、レウィシアは過去に起きた出来事を全て話す。

「此処もケセルの襲撃に遭ったというのか!?全く、何処までも胸糞悪い奴だ」

テティノは怒りに震える。レウィシアは城に向かう前に、ルーチェと手を繋ぎながらある場所へ向かう。行き先は、ケセルによって無残に破壊された教会であった。

「酷い……これもあのケセルによるものですか……」

ラファウスが沈痛な気持ちで呟く。

「神父様。そして修道士のみんな……どうか安らかに」

ルーチェはケセルの手で惨殺されていくブラウトの姿が脳裏に浮かぶと同時に涙を零し、天に召したブラウトと教会の人々に弔いの祈りを捧げる。レウィシア、ラファウス、テティノも教会を前に黙祷を捧げた。祈りを捧げ終えると、レウィシア達は城へ向かう。レウィシアの姿を見た王国の人々と城門の兵士達は歓喜の声を上げ、城内へ入るとトリアスがいた。

「姫様!お帰りなさいませ!」

トリアスが敬礼をする。

「ご苦労だったわね、トリアス。調べたい事があって一旦帰って来たの。お母様はいらっしゃる?」

「ハッ!たった今謁見の間にてお待ちしております!」

アレアスがいる謁見の間に連れられるレウィシア達。

「レウィシア!」

「お母様、只今戻りました」

アレアスを前に跪くレウィシア。ルーチェ、ラファウス、テティノも深々と頭を下げる。

「まさかお戻りになるなんて。一体何があっての事?」

レウィシアは全ての事情をアレアスに話す。

「ガウラを浚った道化師はそれ程恐ろしい存在だったのね……」

「ええ。今の私達ではあの道化師……ケセルには到底歯が立ちません。そこで、このクレマローズに私でも知らない何らかの秘密というか、ケセルに立ち向かえるようなものがないかと思って帰還したのですが」

レウィシアの言葉を受けて、アレアスは暫し考え事をする。

「そういえばこの国の王……君のお父上はケセルに浚われたんだったか?」

テティノの問いに黙って頷くレウィシア。

「そうか……」

過去にレウィシアと口論になった際にガウラを小馬鹿にしてしまった自分の発言を振り返り、申し訳なさそうに俯くテティノ。

「レウィシア。今こそ太陽の聖地へ向かっては如何かしら」

「太陽の……聖地?」

聞き慣れない言葉に思わず疑問符を浮かべるレウィシア。太陽の聖地とはクレマローズ王家の祖先である太陽の戦神アポロイアの遺した神器が存在する伝説の地だと伝えられており、クレマローズ城の地下の奥深くに太陽の聖地に続く場所へ導く扉が封印されているというのだ。

「太陽の戦神……私達の祖先が遺した神器か……どうやら、それに賭けるしかないみたいね。解りました、お母様。ありがとうございます」

太陽の聖地に存在する神器を探す事に決めたレウィシアは深々と頭を下げつつ礼を言い、足を動かそうとする。

「お待ちなさい。そのまま行ったところで何になるというのです?扉は封印されているが故、封印を解く鍵が必要となるわ。それに、今のあなたは武具を失っているでしょう?」

その言葉にハッとするレウィシア。アレアスは立ち上がり、上階の部屋へ向かって行く。少し経つと、兵士達と共に立派な装飾が施された剣と立派なドレス、更に太陽の形をした紋章が刻まれ、中心部に赤い宝玉が埋め込まれたメダルのようなものを手に戻って来た。剣はかつてガウラが使っていたもので、ドレスはアレアスが王女だった頃に着ていたものであった。そしてメダルは、『太陽のメダル』と呼ばれる扉の封印を解く鍵である。

「素敵……お母様、ありがとうございます!」

思わず感激するレウィシアは早速自室に向かい、着替える。数分後、ガウラの剣を腰に収め、アレアスのドレスを着たレウィシアが現れる。

「まあ、お似合いね。そのドレスは炎の加護が込められた特殊な素材によって作られたものだから、あなたに丁度いいわ。レウィシア、頑張るのですよ」

「はい!お父様を救う為にも、太陽の聖地に存在するといわれる神器を必ず手にしてみせます!」

決意を新たに、レウィシアはルーチェ、ラファウス、テティノと共に地下へ向かって行く。宝物庫のある場所から奥へ進むと更に地下へ続く階段があり、降りた先には固く閉ざされた大扉があった。

「この扉……今まで何の扉か解らなかったけど、もしかしてこの先に太陽の聖地へ行ける場所があるというの?」

レウィシアは扉を開けようと、アレアスから授かった太陽のメダルを掲げる。すると、メダルの宝玉が光り輝き、扉に向けて光が放たれる。扉は、重々しい音を立てながらもゆっくりと開いていった。

「さあ、行きましょう」

レウィシア達は扉の向こうへ進んでいく。扉を抜けた先は、所々が苔に覆われた暗い地下回廊だった。刺激の強い黴の臭いが漂っており、全く人が訪れていないという印象を与える程であった。

「クレマローズ城の地下がこんなところに繋がっていたなんて……」

「クッ、随分黴臭いところだな。長居していると臭いが付きそうだ」

地下回廊を進んでいく一行。途中、視界が何も見えない程の真っ暗闇となり、思わず立ち止まる。

「真っ暗ですね。ここから先は手探りで進むしかないのでしょうか」

ラファウスが呟いた瞬間、きゅーきゅーという鳴き声が聞こえて来る。ソルの鳴き声であった。次の瞬間、周囲が見える程の灯りが灯される。ソルの炎の魔力による灯りであった。

「凄い!ソルったらこんな事も出来るのね!」

一行はソルの灯りを頼りに回廊を進んでいく。

「レウィシア、まだ付かないのかい?なるべく早くこの地下から抜け出したいんだが」

テティノが不服そうに呟く。

「私でも解らないわ。まさかこんな回廊に繋がっているなんて思わなかったから」

「くく……大体こんな黴臭いところは苦手なんだ!ゴールは何処にあるんだよ!」

「もう、テティノったら少しは我慢なさい」

何かと不満を漏らすテティノを冷静に宥めるラファウス。レウィシアは二人の様子を見ながらも、ルーチェの手をずっと握っていた。

「ルーチェ、ずっとお姉ちゃんの手を握ってるのよ。はぐれたら大変だから」

「うん。ぼくも早くここから出たいよ」

不安げな声でルーチェが言うと、レウィシアはルーチェの頭をそっと撫でて再び歩き始める。回廊を彷徨う事数十分後、一行は巨大な扉を発見する。

「此処がゴールか?」

テティノが言うと、レウィシアは太陽のメダルを掲げる。メダルの宝玉から放たれる光によって扉は開かれていき、扉の向こうに待ち受けていたのは、四つの朽ちた台座に囲まれた巨大な魔法陣のある部屋だった。

「まさか、あの魔法陣がそうだというの……?」

一行は魔法陣の中心部に立つと、レウィシアは再び太陽のメダルを掲げる。同時にソルが飛び出し、炎のオーラを身に纏うと周囲の台座から炎が現れ、魔法陣から光の柱が発生する。

「な、何!?」

光の柱に包まれた一行は吸い寄せられるように上空へ登っていき、視界が歪んでいくと同時に真っ暗になる。再び視界が戻り始め、光が消えると周囲の様子が明らかに違っていた。そう、一行は魔法陣の光の柱によって、朽ちたエンタシスが並ぶ神殿の跡地のような場所に移っていたのだ。

「もしかして此処が、太陽の聖地……?」

レウィシアは魔法陣から出て周囲を確認すると、そこは未知の領域であった。周囲が高い山に覆われた足場の悪い荒地で気温が高く、至る所に温泉と湯煙が湧き上がっている。火山地帯であった。

「今度は暑いところか……さっきの黴臭いところよりはマシだが」

「太陽の聖地と呼ばれている場所とならば、暑いのは妥当と言えるでしょう。それにしても……」

ラファウスが辺りを見回す。温泉と湯煙のみならず、この地に生息する魔物の姿もあった。

「どうやら、此処からは気を引き締めて行かないといけませんね」

魔物との戦いに備えて戦闘態勢に入りつつも、一行は太陽の聖地となる場所を探し求める。襲い来る魔物を打ち倒しながらも、足を進めて行く一行。彷徨っている内に、溶岩流が見られる場所に辿り着く。

「うわ、溶岩じゃないか。此処まで来ると足元にも要注意だな」

ドロドロに流れる溶岩を見たテティノは思わず息を呑む。次々と流れて行く溶岩流に用心しつつも、足場の悪い道を進む一行。三十分近く彷徨っていると、一行は煙が浮かぶ巨大な火山と塀に囲まれた集落のような場所を発見する。

「あれは……!」

集落を発見した一行は足を急がせる。数分後にようやく集落の前まで来たところ、何者かが一行の前に立ち塞がる。

「誰だお前達は」

現れたのは、肌の露出度が高い服装で何処となくガサツな雰囲気が漂い、手に巨大な扇を持つ褐色肌の女であった。

「あなたは……?」

見知らぬ女を前にしたレウィシアは聖地の関係者かと思い、太陽のメダルを差し出す。

「その紋章……お前は戦神アポロイアの血筋による王家の者か」

「ええ。私はクレマローズ王国の王女レウィシア・カーネイリス。太陽の聖地となる場所を求めてやって来たの」

レウィシアは自己紹介をし、女に事情を話す。

「……無駄だな」

「え?」

「お前如きがアポロイアの遺した太陽の神器を得る資格があるとでも思っているのか?例えお前がアポロイアの血を引く者だとしてもな」

女はそっと顔を寄せてレウィシアに言う。

「その目を見るだけでも解る。無駄だという事がな」

眼前で言葉を続ける女に対し、レウィシアは反射的に顔を逸らす。

「おい、お前は誰なんだ!さっきから偉そうに無駄だとか言ってるけど、僕達を馬鹿にしているのか!?」

状況を見守っていたテティノが抗議する。

「外野は黙っていろ。私はあくまで事実を述べているだけだ」

「何だと!お前も名を名乗れ!」

喧嘩腰で対抗するテティノに、女は鋭い視線を向けつつもふっと息を吐く。

「私の名はヘリオ。神の遺産を守りし者の子孫であり、太陽の聖地を守護する者だ」

ヘリオという名の女は手に持つ巨大な扇を軽く仰いだ。



その頃、ゲウドは亜空間にてケセルに闇王の現状を報告していた。

「まだ魂を求めているというのか?」

「ははぁ。最初は暗黒の魂の事かと思いましたが、今度は正常な魂でないといかんようですじゃ」

予想以上の力の暴走に苦しむ闇王は正常な魂を喰らう事で中和させて自身の力を制御するべく、多くの魂を求めていた。力の制御に必要となる魂の量はかなりのものだというのだ。

「全く世話の焼ける奴よ。ゲウドよ、生贄を集める程度など貴様なら造作もない事であろう?」

「ヒッヒッ、それはもう」

「アレも貸してやる。最早用済みだからな。奴が最も憎悪する赤雷の騎士たる輩の魂を生贄にするのも面白そうだが」

「ヒッヒッヒッ、ありがとうございますケセル様。後はこのワシにお任せを……」

ゲウドが亜空間から去って行く。

「クックックッ……いずれにせよオレの手に踊らされているだけに過ぎぬがな。計画の一端としてせいぜい見届けてやるぞ、闇王……ジャラルダよ」

ケセルは蹲る闇王の姿が映されている水晶玉を眺めながら笑う。ジャラルダ———それが闇王の真名であった。



一方、飛竜ライルでクレマローズに向かっていたヴェルラウド一行は無人島でキャンプをしていた。目的地までかなり遠く、一日では辿り着ける距離ではない上に空の旅に不慣れなヴェルラウドの事を考えて一休みしているのだ。

「ヴェルラウドったら、まだ飛竜の旅に慣れないの?」

「当たり前だろ。大体こんな安全性のない空の旅なんか慣れる方が大変だ」

顔色が優れないヴェルラウドに纏わりつくスフレ。薪を準備するオディアンの傍らでテントを張るリラン。

「リラン様ったらこんなテントまで持っていたのね」

「うむ。長旅とならばいつ野宿してもいいようにこれくらいの備えは当然の事だ」

「さっすが大僧正様ね!」

スフレは賛辞の声を上げる。ふとヴェルラウドの方を見ると、ヴェルラウドは気分が悪そうな様子でフラフラと海の方へ向かっていた。空の旅による乗り物酔いで吐きそうになっているのだ。

「ねえ、まさか酔ってるの?」

「う、うるせぇな……今回は何かと揺れる事が多かったから……っんう……!」

口元を抑えながらもその場から走り去るヴェルラウド。その姿を見て全く情けないわねと呟くスフレであった。日が暮れ、焚き火が燃え盛る中、気分が落ち着いたヴェルラウドはオディアンと魚を釣っていた。

「こうして釣りをするのも何年振りだろうか……」

オディアンは気持ちを落ち着かせながらも魚を釣っていた。隣にいるヴェルラウドは全く魚が釣れていないままである。

「くそ、全然釣れねぇ」

「大丈夫だ。俺は何とか釣れている」

「いや……ある程度成果を見せないとスフレの奴が煩いんだよ」

オディアンは成る程な、と心の中で呟きながらもその場から離れようとする。

「おい、何処行くんだよ?」

「ここはお前に任せる。成果を見せたいのだろう?」

ヴェルラウドは内心複雑な気持ちになりながらも、釣りに集中する。獲物を待つ事数分、釣り竿から強い力を感じる。

「でかいのが来やがったな」

全力で釣り竿を引くヴェルラウド。掛かったのは、異常に出っ張った顎が目立つ大きな魚であった。

「何だこいつ……食えるのか?」

その珍妙な見た目に一瞬首を傾げるものの、魚を運び出そうとするヴェルラウド。

「あー!ヴェルラウドったら、でっかいのを釣ったの?」

「ああ。食えるかどうか解らんが」

「はあ?って、変な顔した魚!こんなの初めて見るわね」

二人は釣り上げた魚をテントまで運び出す。

「これは……アゴナガウオだな。滑稽な見た目をしているが、食べると幸運をもたらすという噂が存在する珍しい魚の一種だ」

リランが魚について解説する。

「あはははは、なーにそれ!こんな変な顔の魚を食べると幸運になれるってぇー!?」

スフレはひたすら笑うばかりであった。この日の晩はアゴナガウオとオディアンが釣った様々な魚に加え、島に生えている食用の野草を夕食として満喫し、夜も更けて行く。

「ねえ、ヴェルラウド」

星空を見上げていたヴェルラウドに、スフレが声を掛ける。

「あたしの両親……お父さんとお母さんって生きてるのかな」

スフレは内心、両親の事が気になっていた。

「生きてるさ、きっとな。お前がそう信じてやらなくてどうするんだよ」

星を見ながらも返事をするヴェルラウド。

「……そうね。あたしが信じなきゃいけないよね。でも、もしかしたらあたしのスフレっていう名前も本当の名前じゃないのかもしれない」

スフレは少し俯く。

「ヴェルラウド。あたしの正体が何であろうと、あたしの事はずっとスフレって呼んでよね。あんたにとってあたしは……仲間なんでしょ?」

スフレが振り向いて言うと、ヴェルラウドも振り向く。

「……ああ。お前は俺の仲間だ」

ヴェルラウドの返答に、スフレは内心抱えている本当の気持ちを上手く言い表せないもどかしさに苛まれていた。

「俺もそろそろ寝る。お前も早く寝ろよ」

そう言って立ち上がり、テントへ向かって行くヴェルラウド。スフレはヴェルラウドの後ろ姿を見ている内に、心の中が暖かくなっていくのを感じた。



あたしが何者であろうと、今までのあたしとして見て欲しい。本当のあたしが偉い存在だとしても。

あなたと共にするのは、あたしにとって大きな意味がある。そんな運命でもあったんだ。


ヴェルラウド……あなただけは死なせない。あたしに何があろうとも、絶対に。



星空を見上げつつも想いを馳せるスフレ。焚き火の炎は自然に消え、島に生息する虫の声は絶える事無く鳴り響いていた。



闇王の城の前にて、ゲウドの元に偵察用の小さなマシンがやって来る。

「ほほう、赤雷の騎士御一行がクレマローズに向かっているというのか?」

ゲウドは偵察用マシンを前にニヤリと笑う。

「ヒッヒッヒッ、ならば丁度良い。魂を集めるついでに奴らを亡き者にしてやるかの。アレの実験にも丁度良かろうて」

ゲウドが水晶玉を取り出すと、玉から邪悪な瘴気が発生し、瘴気が消えると黒い甲冑の男、機械の身体を持つ男が出現する。甲冑の男はバランガで、機械の身体を持つ男は二年前、クレマローズを支配する目的でケセルと契約し、ガルドフとムアルを利用して王国を襲撃したクレマローズ大臣のパジンの成れの果てであった。

「ヒッヒッ、パジンよ。今度こそ貴様の願望が叶うチャンスかもしれんぞ?せいぜい暴れるがいいぞ。ヒッヒッヒッ」

「……ギギ……クレマ、ローズ……オウコク……ワシ、ノ、モ、ノ……」

改造されたパジンは言語も機械的でまともに話す事すらも出来ない状態であった。更に、ゲウドの水晶玉から再び瘴気が発生し、瘴気は二体の飛竜へと姿を変える。二体の飛竜は、半身機械の身体に改造されていた。

「ヒッヒッ、さあ行くぞ。実験台どもよ」

バランガとパジンがそれぞれ飛竜に乗ると、ゲウドは玉座の形をした空中浮遊マシンに乗り込んだ。

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