第4話 のどか-倉田旭

「どうしよっか、これからあのテーマパークに行く予定だけど」


 僕はあの駅の混雑を思い出した。


「あの混んでたやつ? あんまり気は乗らないなー」


「まあ、あそこって海音かのんが行きたいって言ってた場所だからね。本人いないし、どうする?」


「……やめとかない?」


 花田さんが上目遣いでねだる子供のように言った。


「……やめときますか。食後の散歩にプラン変更かな」


 僕はリュックサックにアップルパイの入った箱をきれいに入れるのに苦労しながら返した。


「さんせーい」


 僕らは駅から出、河川敷をしゃべりながら歩いた。初めの方はさっきのカフェのことを教えてあげたり、今日来なかった二人の話をしていたが、そろそろ話題が尽きそうなころ、遠くに観覧車が見え、僕たちはUターンした。


「別に嫌じゃないんだけど、やっぱり人混みがね」


 彼女は思い出したようにつぶやいた。


「さすがにあの数だったら僕も嫌だな」


「こういうなのっていいよね」


「うん。私はやっぱりこの雰囲気が好きだな。川の流れる音、鳥のさえずり。車の音も、子どものはしゃぐ声も遠くから聞こえていたらましだから。まるでここだけが現実から切り離されたみたいに」


 僕は花田さんを改めて見てみた。普段後ろでくくっていた髪は、今日は三つ編みを後ろでまとめたような髪型になっていて、いつもより華やかな雰囲気だ。普段もこの髪型にしたらいいのにと思うけど、なカフェが好みな『花田屋』では、ただのポニーテールがいいのだろう。


「もう戻ろっか。あとは駅の近くで買い物しよ……って、倉田くんは買い物とか興味ないよね」


「ううん、僕も行くよ」


「えっ」


「さ、行こ!」


 僕は彼女の手を取って駅へと歩を進めた。彼女は僕の推進力に身をゆだねたようで、何も抵抗することなくついてきた。先ほどまで上着を膨らませていた向かい風が今度は追い風となって上着を背中に張り付けている。

 少しだけ、誇らしくなった。


 あの後花田さんの買い物に付き合った。僕も一着だけ服を買った。そのあとは勉強目的じゃないカフェに行った。要するに、『花田屋』だ。そこでスマホの使い方を色々教えてもらった。晩御飯はそこで食べさせてもらい、ついでに親同士のコミュニケーションも済んだ。親しい仲だし、親も知り合っておいた方がいい。

 

*****


「って、どこの老夫婦みたいなデートしてきたんだよ!」


 翌日の朝、学校に着くや否や、海音が駆け寄ってきた。昨日撮った写真を四人のグループチャットというところに投げたのを見たのだろう。うまくあがってたようでよかった。


「デートじゃないって。まあ、楽しかったからいいんじゃない?」


「まあ、二人が楽しかったのならよかったけど」


「今度は四人で行けるといいね」


「……そうだな。俺も頑張らなくちゃ」


「頑張るって何を?」


 海音は笑いながら、わかってねぇな、と僕の肩をたたいた。

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