【桃太郎のジェラート】②

 度胸のある女子高生だ。しかし、アサトさんは自国のためならば人の夢のきっかけになる記憶すらも奪う。夢を奪ってこちらの世界に未練を残さないようにするためだろう。確信犯みたいなところがヨルトとは違うのかもしれない。でも、アサトさんはいつも真面目に一生懸命仕事をこなす。方向さえ間違えなければ良い人なのだと思う。根本的に良い人なのだけれど、一瞬冷徹な瞳を介間見せる理由は何だろう? 少しだけ違和感がある。


「実はここは時の国と日本との間に位置しているカフェなのです」

「だから時間の流れがゆっくりなのか」

「よく感じましたね。その通りです」

「元々不思議な能力は幼少のころからあったから、今更驚かないよ。異世界が存在していることもずっと感じていたからな」


 はじめてここへきて、ここまで驚くことなく冷静に理解する人間はなかなかいないだろう。私は、この女性のことを心強い味方だと感じていた。


「実は、時の国では国王の下で3つの王が仕事をしています。国王、朝、昼、夜の王です。しかし、夜の王の候補者は後を継ぐ気がないので、他に能力ある人材を探しています。朝の王は僕なのですが、僕はいずれは国王になるので、朝の王が空席になります。そこで人材を求めているのです」


「ボクは面倒なことは断るよ、日本の人間だからね。時の国で能力者を探したほうが絶対にいいに決まってる」

「しかし、時の国には能力者が不足しているので。あくまで候補者を探しているだけなので、複数人と接触中です」


「記憶を奪うとか、そういったことはボクはやりたくないしね。日本で生きたいから」

「そうですか、一応気が変わったら夢の中で僕を呼んでください。いつでも待っていますよ。ケガだって完治できますよ」


「過去に戻らず記憶を渡さず、ねがいだけかなえるっていうのは無理か?」

「時空移動とねがいはセットになっているので、どちらかだけというのはないのです。代償なしという契約もできません」


「まぁ、人生そんなに甘くないよな。ごちそうさま。めちゃくちゃうまかったぞ」

 能力の高い女子高校生は100円を置いて、何の未練もなく帰宅してしまった。あどけない笑顔と共に。


「彼女は能力は高そうだけれど、ちょっと難しいわね」

 まひるが冷めた瞳でため息をつく。


「なかなか異世界に行きたい人なんていないですからね」


 アサトさんが少し難しい顔をして悩んでいる。

「さっきの桃太郎ジェラートでも食べて今日は店を閉めましょう、まひる、作ってください」


「ったく、人使いが荒いわね。記憶をもらうって難しいものよ。アサト、候補者選びは少し作戦考えないと。やみくもにあたるのは良くないわ」

 まひるが文句を言いながら作り始めた。


 桃のジェラートはやはり食べた事の無いような甘いのにさっぱりした味わいで、本当にほっぺが落ちてしまいそうだった。アサトさんと私って結局ここで会うだけだ。恋人らしさはゼロ。デートをしたり連絡したりということはなにもなかったりする。これって付き合っているって言えるのだろうか? 以前と特に何も変わらない距離が少しさびしい。


 私はあれ以来ヨルトの店に行くのは遠慮している。彼女に悪いというのが第一の理由だが、ヨルトはたまにアサトさんの様子やまひるの様子をメッセージで聞いてくる。そんな時は、最初は連絡事項を返事しているだけなのだが、いつのまにかどうでもいい雑談メッセージになったりする。その時間は笑いもあるし、とても近い関係に錯覚してしまう。ヨルトは無駄な時間を楽しもうという気持ちがある。どうでもいい時間を作らないアサトさんとは対照的だ。アサトさんは仕事第一の関白亭主というやつなのかもしれない。






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