【手巻き寿司】② まひる視点

 私はきっとアサトと家族としてずっと一緒に暮らしていくのだろう。その形が恋愛になったとしても家族愛になったとしても。そして、18歳の姿で過ごすことが増えた今日この頃。本当の姿でいることは楽であると同時に子供騙しは聞かなくなっている。大人として扱われるからだ。


「みんな、おいしい手巻きずしつくったわよ」

「手巻きずし!! お腹が空いていたのでうれしいです。いただきます」

 ザクロが丁寧に笑いながらおにぎりをつかみ、頬張る。

「うまそう!! いただきます」

 ライチが女の子にもかかわらず、獰猛な動物のようにかじりつく。肉食動物みたいだ。


「先ほどテーブルマナーを学んだばかりですよ」

 アサトが注意する。


「でも、うまいものを目の前にすると、ついかじりついちゃうんだよ」

 言い訳気味なライチ。


「ライチ、ザクロ。これからは衣食住全て国で用意するので、家族のことも含め心配いりません。そのかわり、学び吸収して実行することがあなた方に求められるのです」

 アサトが二人を安心させつつ自覚を求める発言をする。


「はーい、わかりました。オイラ、じゃなくって私、この国の時をつかさどる一人となるために努力します。みんなが幸せになれる国を作ること、それが私の夢であります」


 ライチが選手宣誓のように右手を上げながら宣言する。この国で生まれての国で育った少女だからこその愛国心もあるだろう。この国の良い点も悪い点も知り尽くしている子供だからこそ、苦労を知っている庶民の子供だからこそきっとこの国のために能力を使うのだろう。


「僕も、この国のためによりよい国を作るべく毎日精進いたします」

 アサトに宣誓を毎日言わされているかのようなサクサクとした選手宣誓は滑稽でもあり、純真な彼らの心を映しているようで心が熱くなる。


「ライチ、能力を使ったほうが楽なことでも敢えて使ってはいけませんよ。ザクロ、普通の人として生活することを忘れないでください」


「なんだか、2人は僕たちのお母さんとお父さんみたいだよね」

 ライチが屈託のない笑顔でつっこむ。


「ちょっと、私たちは夫婦じゃないのよ。先生とおよびなさい」

 私はすかさず彼らを諭す。夫婦とか父母とかくすぐったい言葉にテレが隠れていたというのもある。


「僕はまひるみたいな妻がいたほうが実際心強いですけどね」

 アサトが無邪気な顔をして平気でそんなことを言う。私をそういった対象で見ていないから言えるのでしょうけど。


「私はごめんよ。あなたみたいな男は」

「ふられてるぞ、アサト」

「このおねえさんはああみえて、捨て犬を放っておけないような優しい人だからね」

 私は彼に私の本心を見抜かれていることが複雑な気持ちになっていたが、確実に私たちの距離は縮まっていると実感した。


「簡単手巻きずしはたくさんのものが詰め込まれているでしょ。これ、ラップとのりとごはんと具材があれば簡単にできるのよ。詰め込んでも色々な味が混じっておいしいの。不思議でしょ」


「僕たちの思いは巻きずしみたいにたくさんの思いを詰め込んでいる、でもすごくそれが合わさることでおいしい、そういった相乗効果がありますよね」


「僕は手巻きずしみたいな人生を送ってみたいです。食事は生きるためのエネルギーになり、命を形成します。全ての食べ物に感謝を込めて、ごちそうさまでした」

 ザクロが名言を言う。初めて聞く手巻きずしみたいな人生という言葉。手を合わせて、礼儀をわきまえた立派な少年だ。


「オイラ、じゃなくて、私は手巻きずしを気兼ねなく食べられる人生、みんなに手巻きずしを分けることができる人生を送りたいです。おいしくいただきました。ごちそうさま」

ライチも笑顔で感謝する。


 アサトの教育が効果てきめんだったのか、二人は即席の作文みたいなことを話すようになった。


「手巻きずしみたいにお互いの味を尊重しながら結果素晴らしくおいしい味を作り出す、それを目指してみましょう」

「はーい」

 青空教室のような二人だけの教室はさわやかな未来の国造りの一歩を踏み出す。


「まひる、ほんとうに天才的だな。料理の腕。嫁にもらいたいくらいだ」

「シェフ雇ってるでしょ」


 私にだけはタメ口になったアサトと表情を表に出すのが苦手な私は今日もおいしいものを一緒に食べる。私たちは目標ができた。国営のレストランを作り、おいしい料理を研究し作っていくということだ。食からこの国を立て直す。従業員は国民を雇えば、国の経済効果にもつながるだろう。


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