【七色キャンディー】アンティーク古書店

 趣のあるアンティーク古書店がこんなところにあるなんて。滅多に通らない通りを通った時に、ひとめぼれしたお店だった。このお店からの香りが絶対当たりのお店だとささやいているような気がしたのだ。普通、個人が経営していそうな古めかしいお店は入ることに躊躇したりするものだが、今回はなぜか足が勝手に動いた。何となくだが、呼ばれたという感覚に近いものがあった。バイト帰りにちょっと立ち寄ろうか、そんな気持ちだった。


 入り口のドアは西洋風の重いドアで、ギギーというきしむ音と共に備え付けられた優しい鈴の音が鳴り響く。重いドアを押して開けると、薄暗い部屋にランプの優しい灯が私を出迎えてくれた。懐かしい香りのする店だった。昭和のにおいというのだろうか? 私は昭和を知らないので何となくしかわからないのだが。アンティーク風の西洋建築のお店は大都会の中でひっそりと、しかしながら存在感は格別な雰囲気を醸し出す。


「いらっしゃいませー」

 ドアについている鈴の音を聞いたのか、奥のほうから男性の声がした。てっきり店主はおじいさんのような気がしていたのだが、声の主は若い男性だった。最近はいいお店に出会うことが多いな。思い込みの激しい私は、自分がラッキーな女だと思い込んでいた。


 古い印刷物の香り、古書の香りがする。木造建築の中に木の本棚がたくさん並んでいて、木の香りも心地いい。木目模様も木の存在感を押し出していると思う。しかも、素敵なアンティークな品物も売っているようだ。なんだか、心地いい。たいして長生きもしていないくせに、懐かしい気持ちになりながら店内を歩いていると、レジのところに見覚えのある人物が座っていた。


 あちらも私を見て、すぐに気づいたようだ。少し驚いた反応だった。なんとそこにいたのは、以前会ったことのある占い師。顔は美しいが、むかつく男だった。よりによって、なぜこんな素敵なお店に胡散臭い占い師がいるのか。私は、希望から絶望の淵に立たされるくらいショックだった。しかも、店員は1人しかいない。このまま帰るのも気まずい。


「こんにちは。占い師なのに、古書店にいるのですか?」

 一応礼儀正しく聞いてみた。


「悪いか?」

 何、このぶっきらぼうな態度。許せない。なんだかわからないがムカついてしまった。

「俺は、金が必要なんだ。だから、バイトしている、それだけだ」

 貧乏? 家計が苦しいのかな。そんな同情をしながら、とりあえず話しかけてみた。 

「占いと掛け持ちしているなんて働き者ですね」

「自力で金を稼ぎたいから自立のために働いている、それだけだ」


 占い師の男は、売り物の古本を熟読しはじめて、私なんて眼中にないようだった。占い師を横目に、私は、アンティークの置物に心を奪われてしまった。それは、不思議な動物の形をしたブリキの置物だった。猫? うさぎ? よくわからないけれど、目には光るガラス玉のようなものが入っていて、光に当てたらぴかっと光りそうだった。それこそ異世界の時の国にいそうな動物なのかもしれない。


「これ、なんかいいかも」

「それ、気に入ったのか? そういえば、あんた、男の災いの相が出ているから、気を付けるんだな」

「あなたみたいな人と関わると何か悪いことが起きるとか?」

「あのなー、俺はめっちゃ良い人だし。マシュマロのまた会えるおまじない効いたみたいだな。じゃあ今日はこれやるよ、また再会できるようにさ」

 

 あめを渡された。七色キャンディー? まさか過去に戻るキャンディーとか? 胸がざわついた。あれ、この人、前に会ったときはピアスしていなかったけれど、今日は青い宝石のようなピアスをしている。小さいけれど、とてもきれいな色だった。でも、まさか、アサトさんが言っていた人じゃないよね? ネックレスはしていないし。世の中に青い宝石のピアスなんてたくさんあるし。もしも、この人が時の国の王様の息子ならば、なんでこんなところでバイトしているの? 王子様なのに勤労する必要あるのかな? 何か事情が? アサトさんみたいに何か目的があるとか? 色々なことが頭をよぎった。


「これって普通の飴?」

「普通じゃない飴なんてあるの?」

「七色って不思議なキャンディーだなって」

「甘くておいしいけど、のど飴効果もあるんだぞ。これをなめると歌がうまくなるけれど、時間を移動することはないから安心してよ」


 時間を移動……? やっぱり……時の国の関係者?? 私は平静を装う。目についた小さなかわいい置物があった。高いものではないので、私でも買うことができる金額だった。

「じゃあこのかわいい置き物買います。この店、気に入りました。また来てもいい?」

「客を選ぶ権利は俺にはないから、あんたを拒む権利はない。これ、100円だよ」


 そう言って、腕組みしている男にお金を払い会計をした。100円でこんなに立派なものが買うことができるとは、うれしい出来事だった。お得な気持ちのせいか気分が上がる。お金を支払うときに彼の細くて長い指が触れて、私の心臓は、とってもとってもドキドキしていた。2回しか会ったことがないけれど、この人の瞳がきれいすぎたからかもしれない。不思議な美しさを持つ男性はそうそういるものではない。私ったら何を見とれているの、恋多き女じゃないのに。そして、彼の素性が少し気になっていた。


【七色キャンディー】

 のど飴効果もあり、歌がうまくなる。すっきりとした味わい。


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