第15話 -12 試験終了

 




 患者さんが続々と入ってきた。キキョウさんが呼ばれたので私もお邪魔することにした。


「今度三人でお茶をしましょう、私は仕事に戻りますね」


「ぜひ! それではお邪魔しました」


 救護室を出ると少し先にソウジくんが誰かを探すようにキョロキョロしていた。一言文句を言ってやろうと大股で進むと、向こうもこちらに気づいて顔を破顔させ手を振り歩み寄ってくる。その手には緑色のゴブリンの腕。


 ヒヤリとして向きを変えた。全速力で逃げ出し後ろを振り向くと笑顔でソウジくんが追いかけてきている。ヒッと短く悲鳴を洩らし逃げる速度を上げた。


 前方にオセロットくん達三人を見つけた。三人も気づいてくれ笑顔を向けられたが私の必死な形相と背後の存在に気がつくと、顔色を変えアマミちゃんとオセロットくんがダッシュで走ってきた。二人が険しい顔をしてすれ違ったので私はピグミさんの後ろに隠れた。


「コラぁなんだてめぇ! 芽衣ちゃん逃げてんじゃねえか何か用かチャラ男がぁ!」


「おお、久しぶりのブラックアマミだ。パパそっくり」


 うっとりするピグミさんの声を背中から聞き、覗いて見るとアマミちゃんが足技を繰り出しソウジくんが体をくねらせかわしている。


「んだよ、鬱陶しい! 芽衣ーー打ち上げのお誘いに来たんだって、昨日の続きしようぜ」


 攻撃を華麗にかわしながらゴブリンのちぎった手を振るソウジくん、油断した瞬間にアマミちゃんの回し蹴りが脇腹に入った。彼女の足を掴み、歯をガウガウさせて噛み付こうとするのを後ろによけたアマミちゃんは、地面に手をつき反対の足で彼の胸板を蹴り上げバク転して逃れた。同じ亜人だが私にはとても真似できない身体能力だ。すごくかっこいい。


「ごめん、私は遠慮しとくソウジくんまた! それもちゃんと持って行って!」


「えええー! 次いつ会えるんだよー」


 オセロットくんは亜人の爪を出し、尻尾を逆立て臨戦体制だ。チェーッと言いながらソウジくんは背中を向けて立ち去ってくれた。お誘いは嬉しいがいじめられるのは勘弁だ。胸を撫で下ろすと二人がピリピリとしたまま戻ってきた。アマミちゃんは私の手を握るといつもの優しい顔に戻った。


「芽衣ちゃん大丈夫だった? あの人チームメイトだったんだね、すごい顔してこっちに逃げてきてるように見えたから」


「うん、ごめんねアマミちゃん。私ゴブリン苦手で……手を持ったまま追いかけてくるから」


「じゃあ試験大変だったね、私たちのチームもゴブリンいっぱい出たんだよ」


 さっきの口調と全然違い、いつもの優しいアマミちゃんだ。私が見た光景は見間違いかと疑うほど穏やかに笑う。ピグミさんがアマミちゃんの腰に抱きつきもう一回喧嘩売ってきてと懇願する。旦那さんを思い出したみたいだ。苦笑する私の前にオセロットくんが立った。


「怪我はないみたいだね、素材は提出した?」


「うん、元気ハツラツ! 素材もちゃんも受理されたよ」


「良かった、夜の森は寒くなかった?」


「それが全然! この装備のおかげだね、本当にいろいろありがとうオセロットくん……あれ、目に隈が?」


 手を延ばし目の下に触れる。少し充血もしている。まさか昨日からずっと起きていたのだろうか。顔を横に背けてくしゃみをする。


「試験中は立ち入り禁止されてたから帰ったけど、寝れなくてずっと窓辺にいたんだ。少し冷えたのかな」


「大丈夫!? 早く帰ろう!」


 猫の目が光に反射してキランと光った。逆立っていた尻尾は滑らかな毛に戻っていて私の背中に回る。突如訪れたモフモフタイムに私は驚きと恍惚した気持ちになる。


「芽衣を見たら温まったよ。あ、顔汚れてるよーほら」


 尻尾で抱き寄せられ包まれたまま袖でゴシゴシと顔の汚れを拭かれる。尻尾が巻きつき、まるで母猫に甘やかされる子猫になったような気分だ。これは気持ちよくて逃げられない。


 フワフワの尻尾に撫でられ癒されていると、正反対の殺気が飛んできた。出どころはやはりクロウくん、何故か不機嫌な顔をして私を睨みつける。一気に現実に戻され恥ずかしくなってきた。


「オ、オセロットくんもう大丈夫だよー」


「ほらもう少し、ね?」


 見上げるとオセロットくんの綺麗なラインのお顔、見下ろされると優しく笑顔を向けられ私は赤面して少しの間固まってしまった。なんでこの世界の人はいつもクールに振る舞えるのだろう。外国人のようなスキンシップを取られ、毎度ドキドキさせられる。


 解放されたのでそれぞれ帰宅することになった。お腹も空いたし、ドロドロだからお風呂にも入りたい。次はアカデミーで会えることを信じて、アマミちゃんと再会を約束した。


「もし今年ダメでも来年も絶対受けるから、芽衣ちゃんそれまで私のこと忘れないでね! 変な野郎に絡まれないよう気をつけてね!」


「うん、アマミちゃんはきっと大丈夫だよ! また春に会おうね」


 背の高いアマミちゃんにおでこを合わされ、二人で手を握りあった。同じ女性同士なのにドキドキさせられる。


 クロウくんがまだ横目でこちらを見ていたので手を振ったが、地面にツバを吐きそっぽを向かれた。イラっとしたが彼にもまたアカデミーに合格してそこで会いたいと思った。


 いろんなことがあった試験になったが、大きな怪我もなく乗り越えた達成感に満たされた。空が綺麗だ。この青の何処か、ポツンと浮かぶ島のあの美しい大木の神様に感謝を込めて……。







Partial 1 completion.

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