第21話 華の別荘に行こう その3

〜午前8時30分 華の別荘・寝室A(来兎視点)〜

「来兎君。起きて。(小声)」

「来兎。早く。」

「ん・・・?」

俺は2人の囁きで目を覚ました。この声は・・・。俺が目を開けると、その視界には声に違わぬ猫菜と咲の顔があった。

「何だぁ?・・・まだ8時半じゃーねか。」

部屋の時計を見ると、短針が8、長針が6を指している。

「もう来兎君以外、全員起きているわよ?」

「皆、気合入ってんなー。ふぁぁ・・・」

「今日は丸一日渓流釣りをするって、昨日、華ちゃんが言っていたでしょう?釣り道具は華ちゃんが一通り用意してくれているみたいだから、早く着替えて行きましょう。」

一階から「ドン!ガン!ガタガタ・・・」と、音が聞こえるのは、多分その準備のせいだろう。

「そうだな・・・でも・・・あと5分だけ寝かせて・・・」

しかし、俺はそんな音なんか気にもせず、そのまま再び夢の世界へ落ちようとした。

「「フシャァァァァァァーッ!!(いいから早く起きにゃさいっ!)」」

「だああああああっ!やめろ!分かった!起きるから!起きるから引っ掻くなって!」

・・・まあどうやら、コイツらはそんな事をさせてはくれないらしいが。

「分かればよろしい。」

「みんなも、楽しみにしてる。来兎さん、早く立って。」

本当はもう少し寝ていたかったのだが・・・仕方ない。俺も下に降りて、着替えて一通りの準備を整えておくとしよう。

〜華の別荘・リビング〜

「お、おは、おはよう、兄さん。」

「?何焦ってんだ?茉莉。」

「い、いえ・・・なんでもありません・・・。」

「俺に対しても喋り方が敬語に戻ってるんだが」

茉莉はいつも、俺に対してはいつもタメ口だったはずだが・・・なぜ、それが崩れる程までに焦っているのだろうか。(理由はその時に意識のあった当事者のみぞ知るのであった。尚、猫菜は知らない模様。)

「おはよーう!来兎クン!」

「オッス、桃矢。」

「来兎ー!聞いてると思うけど、今日、釣りするんだよ!釣り!楽しみだね!」

「おう、せやな。」

「来兎!其方・・・釣りの経験はあるか?」

「無いッ!」

「ちぇっ、使えんのぅ。」

「黙れ小僧」

喧しいわ。

「小僧とは何じゃ!つくづく無礼じゃな、来兎は!」

「特大ブーメラン発言、お疲れさんです。テメーが『使えねー』とか言うからだよバカ」

「バカとは何じゃバカとはッ!」

「言った通りだよバカ」

「またバカって言ったなー!」

・・・こうして、秦の子供らしい一面が垣間見えたところで、俺達は渓流釣り場へと向かった。

〜午前9時30分 GT温泉郷付近・渓流釣り場〜

そして俺達8人は渓流釣り場へと到着し、制限時間(2時間)内でどれだけの魚を釣る事ができるか、全員で勝負する事となった。

「桃矢!お前だけには絶対に負けねぇ!」

「望むところさ!来兎!漢の闘いというものも、たまには良いものだしね!」

「「うおあああああああああ!!」」

「はぁ。男2人組はアツいっスねぇ。」

燃え上がる俺達を横目に、華は両手を上げてオーバーに「やれやれ」と、リアクションをとった。

「そうね。でも・・・こうやってはしゃいでる来兎君、ちょっと可愛いかも。」

「子供らしくはしゃいでる男の子が可愛い?・・・猫菜さま、『しょたこん』?」

「ショタコンでは無いわね(汗)。あとついでに、その定義も若干違うわよ。」

「うーん?間違えてた・・・?じゃあ、『しょたこん』って、何?」

「えーと、咲。ショタコンっていうのは・・・」

一方、猫菜と咲は釣り竿を水面に垂らすと同時に、謎のショタ談義を始めてしまった(片方は自分もロリのクセに)。こんな大自然の中で何を話しているんだ、こいつらは。

「ふふっ。じゃあ秦ちゃん、アナベルさん。そろそろ私達も始めましょうか。」

「そうじゃの。」

「うん!いっぱい釣ろーね!」

「はい!アナベルさん!」

そして茉莉達は茉莉達で、ゆる〜く釣りを始めていた。

〜午前10時 VS桃矢(釣り勝負)〜

「ハッハッハッハッハァ!残念だったねぇ!僕は過去に何回も釣りの経験があるのさ!それに対して来兎は経験ゼロ!そして!狭い範囲に安定して魚が供給される釣り堀スタイルの渓流釣りという事は!どちらが有利かは言うまでも無いよねえええ!」

「うおおおおおおおおッ!確かに俺は釣り未経験者だが・・・ここでお前に負けることは俺のプライドが許さねぇ!」

勝負開始から30分。現在釣った魚の数は俺が4匹、桃矢が6匹。魚は割と早くかかるとはいえ、やはり桃矢は経験者だけあって、それなりにポジションやタイミングを分かっている。こちらも精一杯、それらしい場所に釣り糸を垂らしてはいるが・・・どうしても、桃矢には追いつけない。

〜午前10時30分〜

開始から1時間が経過している。捕まえた数は、俺が7匹、桃矢が10匹と、縮むどころか広がってしまっていた。このままでは勝てない。・・・しかしどうすれば良いのかも分からないまま、時間だけが過ぎていった。

〜午前11時〜

残り30分。現在、俺が釣った魚は10匹、それに対して、桃矢は15匹。

・・・ヤバい。これは非常にヤバい。このままでは圧倒的実力差により、一度も逆点する事無くストレート負けしてしまう。あと30分・・・2人きりなら、桃矢が釣り糸を垂らしている場所に石を投げて妨害するというゲスプレーも辞さないつもりだったが・・・生憎、近くには皆もいる。俺と桃矢にとっての「漢の闘い」は、「無関係の人物を巻き込まない」事が前提として考えられているため、今回も例外ではなく、桃矢以外に迷惑がかかったら困るという事であるが故に、この方法は使えない。ならば、どうすればこの絶望的な状況下において勝利をもぎ取る事ができるか・・・。

「考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!ここで負けるわけにはいかねぇ!!」

「フッ!残り時間はもう30分しか無い!だけど!釣った魚の数には5匹の差がある!この時点で、君の敗北は確定しているも同然!」

「ぐぐぐ・・・」

いくら相手が友人とはいえ、やはり勝負には負けたく無いものだ。

「いよし!またもう1匹釣れた!ふふふ・・・これが僕の実力さ!思い知ったかい!?来兎クン!」

だからこそ、俺は・・・

俺は、勝たせてもらう!

「はぁぁっ!」

「なっ!?」

俺はポケットに入れておいた餌ケースを取り出し、残っていたブドウ虫の半分である5匹を桃矢の近くにブン投げた。

「ぶ、ブドウ虫を僕のところに投げてくれた!?」

「こいつは俺からの撒き餌プレゼントだ・・・。受け取れィ!」

「フッ・・・とうとう負けを認めたか!来兎クン!いいよ・・・。大親友の潔さに免じて、僕がこの撒き餌を活用して、1匹でも多くの魚を持ち帰らせてあげようじゃあないか!」

「それはいい考えだな。しかぁし!」

「!?」

俺は桃矢の近くに集まってきた魚を全て掻っ攫うべく、俺は、時間終了までに自分の釣った魚を入れておく金網に自身の釣針を引っかけて収納口を開いた。そして開かれた収納口から、俺は、今までに釣った魚が逃げないように金網を操作しながら、撒き餌に呼び寄せられた魚達を吸い込んでいくようにその金網へと、散らばったブドウ虫を辿らせるように魚達を金網の中へと誘導していった。

「なぁぁぁぁぁぁにィィィィィィィィィィィィィィィ!?」

WRYYYYYYYウリィィィィィィィ!」

そして、撒いたブドウ虫に釣られて寄ってきていた魚を一通り回収したところで、俺は、自分の事ながら器用に、かつ素早く針の位置を変えて収納口を閉め、再び金網袋を引っ掛けておく杭にそれを戻した。

現在捕獲した魚の数は、俺が17匹、桃矢が16匹。つまりは今の「網が無いなら金網を使えば良いじゃないか」という発想の元に生まれた作戦で、7匹の魚捕獲できたということになる。これを見た桃矢は黙っていられず、俺に抗議してきた。

「釣りじゃないじゃん!?」

「誰が金網袋を使うなと言った?(笑)」

「何だって!?」

しかし、そんな抗議は無意味である。何せ、相手がこの俺なのだ。

「それに、俺はあくまでも金網を『釣って』動かしているってだけだ。別にそれはルール違反だなんて誰も言っていない。」

「なんだってェェェェェェェ!?」

こうして俺は残り30分にして、少しばかり卑怯アウト寄りのグレーラインな手を使ったが、とうとう逆点する事ができた。

「これが俺の『逆転サヨナラホームラン』だッ!」

「な、なんたる事をーーーーッ!」

〜午前11時30分〜

その後、俺達は残りの30分も、両者譲らず、結局、19対18で、俺の勝利となったのだった。

「よっしゃああああああああ!!」

「くっ・・・まさか、あんな手を隠し持っていたなんてね。来兎クンの行動にはいつも驚かされるばかりさ。」

「『勝てばよかろうなのだァァァァッ!!』て台詞と、『全てを利用して・・・勝利を掴むッ!』て台詞をを思い出してな。やっぱあの漫画は、この日本に生まれたからには一度は読んでおくべき漫画なんだなって、はっきりわかんだね。」

「ちょっとはスラングを自重したらどうだい・・・?」

そうは言っても、それが俺のキャラなのだから仕方がない。

「だが断る」

「言ってるそばからッ!!」

そして俺と桃矢はワクワクしながら、釣った魚を受付のオッサンに発泡スチロールの袋へと詰めてもらっていた。

一方その頃、茉莉達もオバハン(オッサンとは夫婦関係にある)に釣った魚を詰めてもらっていた訳だが・・・どういうわけか、オバハンがアナベルと接している時だけ、やたら顔を赤らめていたような気がする。そしてアナベル達がその場を去って俺達の元へと合流した時、どこかから「金髪美少女キタコレェェェェェェェェ!」という声が聞こえてきた。・・・が、聞こえないフリをしようと思う。

「ん?何じゃ?今の声は?」

秦!お前って奴は!せっかく俺がナレーションだけさらっと触れておいて、口には出さずにスルーしようと思ったのに!

「声・・・ですか?そういえば、金髪美少女が何とかって聞こえましたけど・・・」

茉莉!お前までッ!

「何の事だろー?」

お前の事じゃい!

「ふぅ。やれやれね。」

「ん。」

猫2匹はもうすでに気付いているか・・・クソッ!これでは変に尺が伸びてしまうじゃあないか(メタ発言)!

・・・何か今、カッコ内に「メタ発言」とか書いてあった気がするが、そんな事はどうでも良い!いや、良くない!良くはないけど!とりあえず今はスルーさせてもらおう。

「・・・いいから帰るぞ。」

「あっ(察し)・・・。そうっスよ!アタシ、早く帰って、釣った魚食べたいっスし。」

ナイスアシスト、華。

「華もこう言ってる事だし、さ、早く帰ろうぜ!」

何とか伸びそうになってしまった尺を伸ばさないようにしようと、そして、あの声の主(恐らくオバハン)となるべく関わらないようにするべく、俺は皆の背中を半ば押すような調子で、華の別荘へと帰っていった。・・・全く、この辺りに来ればDI市内と違って、こういう奴はいないと思ったのだが・・・。やはり変な奴はどこにでも湧くものなのだろうか。とりあえず、早くこの場を去るとしよう・・・。

〜午後0時30分 華の別荘・リビング〜

「ソロモンよ!私は帰ってきたッ!」

玄関をくぐった瞬間、長月(あえて名字表記)が叫ぶ。

「その台詞はやめとけ、やめとけ!あいつはアナベルでもアナベル違いだ」

そして俺も、某同僚リスペクトのセリフを自重しない。

「帰宅早々騒がしいのぅ・・・。」

「ん。アナベル、うるさい。」

「もう少し静かにしてもらえるかしら?」

「いくら何でもフルボッコすぎるでしょ!?」

仕方ないだろ、うるさいんだから。

「兄さん!桃矢さん!釣ったお魚、キッチンまで持っていってもらえますか?」

「アタシ達で料理するっスから。」

「オーケー。楽しみにしてるぞ、2人とも。」

「茉莉たんと華ちゃんの料理は世界一ィィィィーーーー!だからねぇ!いひひ、茉莉たんが僕のために・・・」

「うるせぇ。あと、別にお前だけのためじゃないぞ」

「はぐあっ!(玉砕)」

葛飾 桃矢 再起不能リタイア

(昼ご飯の時には復活しているはず)

「さ、桃矢はダウンしちまったけど・・・とっととリビングまで釣った魚、運ぼうぜ。」

「そ、そうですね・・・(桃矢さんは放っといていいのかな・・・。)」

「そ、そうじゃな。(ここはあえて『するー』するべきじゃろうな。)」

こうして俺達は、各々自分が釣った魚をキッチンまで持っていき(桃矢の魚は俺が持っていきました)、茉莉と華が料理を作り終えるまでベッドで休んだり、本を読んだりして時間を潰していた。

〜午後7時 華の別荘・書斎〜

・・・山の生活というのも、なかなか良いものだ。老後は、こういう田舎で過ごすというのも良いかもしれない。まだ十代なのにで何を言っているのかと思うかもしれないが、本当にそう思ったのだから仕方ない。俺、老けてるのかな。心が。

なんて事を思いながら、俺は茉莉の「夕飯が出来ましたよー!」という声に呼ばれて、リビングへの向かった。そういえば、昼の魚がまだ余っていたっけ。茉莉と華が一体、どんな料理を作ってくれているのか・・・楽しみだな。俺は二階から一階へと続く階段を降りながら、安心感と高揚感・・・2つの、一見、相反するような感情で満たされた胸を撫で下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます