第18話 オトナ女児・・・?

〜午後11時 颯月組所有車内〜

そして俺達が席に座り、車が発車したとほぼ同時に、幼女の話が始まった。

「妾の名は『片倉かたくらはつ』。性別は女、年齢は10歳。身長は4尺(120cm)程じゃ。仮にも武家に生まれた身だけに、戦闘技術と教養にはそこそこ自信がある。まあ、今乗っている『じどうしゃ』やら、その他、現代のものについては知らんが。あれは・・・いつの事じゃろうなぁ。随分長い間寝ていた気がするから、今からどれだけ前かは分からんが・・・。妾が今よりもさらに幼かった頃のことじゃ。妾は片倉家の隠し子として生まれたのじゃが・・・隠し子故に、妾の存在は、一部の人間しか知らなかったのじゃ。妾にとって存在そのものが極秘であるという事は、特別感というか・・・そういう面では密かに誇りではあったのじゃが・・・それの何倍も、妾にとってその事実は負担でもあったのじゃ。狭い部屋に閉じ込められて、人形や鞠、けん玉などと戯れる日々は退屈での。楽しみといえば、人形が世界中を旅する話を、父上・・・景綱(=初代小十郎)殿がこっそりと届けに来てくれる紙の束に書き記す時と、食事の時くらいじゃった。皆が『戦だ、反乱だ』などと忙しく騒ぐ日も、妾はいつも退屈じゃった。」

幼女・・・改め、秦がそこまで話すと、隣に座っていたアナベルが、

「そうか・・・寂しかったんだねっ!!秦ちゃんっ!もう大丈夫だよ、おねーちゃんがいるからねっ!」

と言いながら、秦を抱きしめた。

「うっ・・・暑苦しいのぅ・・・」

秦はアナベルの腕を潜り抜けて座席に座り直した後、話の続きを始めた。

「そんなある日の事じゃ。うっかり、景綱殿の部下・・・まあ、組織でいう最高幹部みたいなものじゃろ。それが、うっかり妾の居る部屋の鍵をかけ忘れたようでな。妾の部屋は外鍵じゃから、抜け出すことなど出来ないと分かっていた妾は脱走など1度たりともした事なんて無かったのじゃが・・・。その日、妾は着物をわざと破いて庶民の服のように加工し、外へと飛び出していったのじゃ。・・・何人かの警備兵の頭に飛び蹴りを喰らわせて気絶させた事は少し申し訳なく思っておるが、そんな事はどうでも良い話じゃ。・・・その日、妾は初めて外を自由に歩いた。本の中でしか見たことの無かった森も、竹林も、街も、すごく良いものじゃった。色彩豊かで、立体的で・・・。じゃが・・・そんな中、極秘に妾の暗殺命令が出たと風の噂で聞いたのじゃ。片倉家が伊達家にバレたらマズい隠し子の存在を隠蔽するために、全力で妾を殺しにかかってきておると。」

「そんな事が・・・」

俺達は秦の真っ直ぐな瞳を見つめながら、話の続きを聞いた。

「妾にはもう帰る場所もなく、行くあても無かった。ならばせめて、人が比較的立ち入らぬG山を抜け、伊達家の誰かしらが居るであろうOB城へ行き、妾が指紋やら何やらで景綱殿の隠し子だと暴露してやろうと思ったのじゃ。じゃが、この橋がかかる前のKT渓谷・・・ここで、妾はこの渓谷に行手を阻まれた。・・・そして、どうやら片倉家も妾がここに向かっている事を察していたらしく、少数の精鋭部隊が妾を探していたのじゃ。・・・どうせ死ぬなら、部下であるはずの野郎どもに殺されるよりも、妾は自分からこの渓谷に飛び込む事を選んだ。そして・・・生きているのか死んでいるのかもわからないまま、今に至るという訳じゃな。ふぁぁ・・・」

秦はこう話し終えると、そのまま目を閉じて眠ってしまった。幼女はまだ身体が未発達だから、流石にこんな夜中までは身体が持たないというわけか。

その後、俺達は、これから秦の身をどうするか話し合っていた。そして、数分の議論の結果、話は颯月組が引き取る流れになっていた。しかしその話の途中で、

「んむ・・・」

秦が起きてしまったのである。

「何じゃ?其方ら、妾の行く場所の当てを探してくれとるのか?」

「ああ。話を聞く限り、お前は何百年も前の人間だ。それに、まだ子供だからな。この時代で子供1人、何の便りもなしに生き抜く事はほぼ不可能だ。『社会』っつー檻が、恐らくお前の時代よりも強固なものになっている以上、お前のように、違う価値観やら何やらに理解を示す者の存在も、お前の時代より少ないんだ。ただの『うつけ者』が『フザけた奴』では済まされない時代だからな。」

「ふぅん。窮屈そうな世界じゃのぅ。」

「そそ。まったく、困っちゃうよねー!」

「オメーは自由すぎなんだよ」

「てへっ☆」

秦の現代に対するつまらなそうな表情に便乗して、話題だけではなく調子にも乗り始めたアナベルは、俺のツッコミを受けて制止される。

「それで・・・結局、妾はどこに行けば良いのじゃ?」

「ああ。その事なんだが・・・今は一応、華とか、この車の運転手とかがいる組織に引き取ってもらおうと思ってるんだ。」

「組織・・・でも、そーゆーのめんどくさそうじゃのぅ。話を聞く限り、ここは遠い未来の世界なんじゃろ?なら、妾は今度こそ、組織とか家とか、そーゆーものに縛られないでゆっくりと生活したいのじゃ。」

「べ、別に、組織の構成員として入れられるというわけではないんですけどね・・・」

「茉莉たんの言う通りさ。この場にいる皆は、キミがそういう事に縛られず、ゆっくり生活できる場所を探したいと思っている。それは、颯月組も違わないよ?」

「うーむ。でも・・・もう少し人が少ないところの方が妾としては好ましいのぅ。・・・かつて人の多い空間のすぐそばにある狭い部屋に軟禁されていたが故に、人が多かったり、逆に誰もいなかったりする状況は未だに慣れんのじゃ。」

「ワガママだなぁ」

「ワガママっスねぇ。これでもウチの構成員は、見た目とかやる事とかがチンピラでも根はいい奴らですし、犯罪は社会が裁ききれない正義のためにしか犯さない主義なんスよ?」

「すまぬが・・・組織というものには良い思い出が無くてな。トラウマ?というやつじゃ。じゃから・・・」

「「「「「じゃから?」」」」」

俺達は首を傾げて、秦の方を向く。

「来兎よ。そして・・・その妹。茉莉と言ったかの。其方らの家に行けば来兎と茉莉しかおらんのじゃろ?」

「「「「「えーと、つまり何を?」」」」」

コイツにステータスグラフをつける時が来たとしたら、「精密動作性」の欄は「E」で決まりだな。秦の説明は何故だか、内容が全然頭に入ってこない。

「つまり・・・来兎と茉莉よ。妾を義妹いもうとにする気は無いか?」

「アァ!?」

「えっ!?」

「「「ファーーーーー!?」」」

いや、3人が「ファーーーーー」なんて言ってどうする。家内より驚くんじゃあない。

「聞こえなかったのか?ならばもう一度言おう。妾を・・・」

「「聞こえて る/ます よ!」」

「おお!で、返事は?どうじゃ?」

「私はどちらでも構いませんが・・・」

「結論から言うと、俺としては却下だな。」

「ファーーーーー!?」

「はいはいもうそういうのいいから」

「何でじゃ!?あの伊達家の家臣の片倉家の隠し子が!死ぬ間際に邪気があの場所に溢れる自殺者の魂によって暴走したとかいう(車内で一通り推理した結論)偶然で、時代を超えて現世に蘇ったのじゃぞ!?そんな少女と共に暮らすなんて、こんな貴重な経験が他にあるか!?」

「いや、単純にうるさそうで」

「教養には自信がある!こないだ橋を通って行った者達が、『やっぱ幼女はちょっとうるさいくらいが可愛いんだよな』って話してたのが偶然、影に呑みこまれていた状態の妾が聞いていたんじゃろうな。その知識が影から解放された途端一気に流れ込んできたが故に、妾は今、それを演じているだけじゃ!いつもの妾はこんなに賑やかでもワガママでもないわ!今は限定的な印象づけキャラ作りと、より良い住処を探すために、あえて喧しい少女を演じているだけなのじゃ!」

「その抗議がすでにうるさい」

「ええい!この片倉家の隠し子である妾が頭を下げて頼もう!妾を其方の義妹にしてくれ!」

「いや、やっぱうるせーし、そもそもそんな曰く付きの幼女を家に招き入れるのは逆に気が引ける・・・。それに、妹なら茉莉がいるし・・・」

「トゥンク」

・・・一瞬、茉莉の目がハートっぽくなった気がするが・・・気にしないでおこう。

「ロリは茉莉だけで足りてるんだよなぁ。これ以上家がロリロリしたら、いろんな意味で怪しまれそうでさ。」

「義妹じゃ不満か!?ならばここはひとつ、義姉あねでも良いぞ!実年齢は妾の方が上じゃからな!」

「そーゆー問題じゃないんだが」

「おーねーがーいーじゃーー!気が引けるといったって、これまで散々、妾の事をうるさいだの何だのと言ってきたではないか!今更態度を改めたところで無駄じゃ!無駄無駄!それに、本人が良いって言ってるのじゃ!妾の事を妾自身が良いって言ってるんだから良いのじゃー!」

「駄々っ子かッ!」

「駄々っ子で結構ッ!」

〜7月12日・午前0時30分 自宅・リビング〜

そして、再び議論した結果・・・秦は、俺達の家で引き取る事になった(親父があっさりと許可を出したが故)。しかし、やはり秦は現代の人間ではないため、基本となる常識はある程度車内でたたき込んだとはいえ、まだ色々と不安がある。という事で、颯月組とバックアップのもと、戸籍やら何やら、一通りの面倒な作業をし、夏休み明けから、秦も現代の人間として小学校に通う事となった。・・・ちなみに、家族的なポジションはどうなったかというと・・・本人曰く、「義姉あね」らしい。実年齢は380歳ほど(細かい記憶も記録も無かったため、詳しい年齢は不明)らしいが、精神年齢10歳、見た目年齢は7〜8歳のロリっ子を、果たして義姉あねと呼べるだろうか・・・。

「其方・・・今、失礼な事を考えとらんかったか?」

「イヤイヤ、ソンナコトナイゾ。ウン、ホントニ。」

「まったく、嘘臭い言い方じゃのぅ・・・」

わざと嘘臭い言い方をしたのだから当然である。

「まあ、何はともあれ・・・これからよろしく頼むぞ、来兎。茉莉。」

「ウッス。」

「はい!」

こうしてこの日から、俺と茉莉に小さなお義姉さん義妹ができた。ただでさえアナベルやら桃矢やらがよく遊びに来るせいで賑やかな家がさらに賑やかになる気しかしないが(皮肉)、徐々に慣れていくしかないだろう。まあ逆に考えれば、これでボケとツッコミには困らなくなったわけだし、こんな生活もありかもしれないなと、どこか、そう思っている俺がいた。

まあ、秦に言ったらどうせ調子に乗るだろうから言わないが。どこか、秦にはアナベルと同じ匂いがしたから・・・。

ちなみにその後、秦に纏わりついていた影についての説明は、俺と華によってきちんとされた上で、秘密厳守とする事になった。また保険として、後ほど猫菜に、「『猫菜&咲&当事者』以外にその情報を伝えようとすると、一時的にその出来事及びそれに一定以上関わるものをド忘れする」という術をかけてもらうつもりだ。このようなデリケートな事はむやみやたらに話すべきではないだろうしな。

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