第14話 殲滅戦だぁぁぁ!

〜6月10日・午前6時 自宅・自室〜

「に、兄さああああああん!!」

一通りの行動を終えて、そろそろ落ち着いて寝ようと思った矢先に、茉莉が、叫びながら俺の部屋へと突入していたきた。

「ど、どうしたんだよ茉莉・・・。」

せっかく寝ようとしてたのに・・・。

「あ、あの・・・リビングに・・・!」

「リビングに・・・?」

「出、出たんですYO☆」

「何がだ?あと、語尾どうした?」

・・・茉莉がおかしくなっている。あの茉莉がここまでSAN値を持っていかれているとは・・・これは相当ヤバそうだな・・・。

「Gが・・・!Gが出たんdeath!」

「ゴキブリかよっ!そして落ち着け!ウェッホッホ・・・。ゲッホォ!」

茉莉って虫が苦手なのか・・・。そういえば今まで自分の妹ながら、茉莉の弱点を知らなかったな(2年前に記憶を失ったから)。・・・確かに、クラスのマドンナが虫をブッ叩いている様子はあまり思い浮かばないが・・・。何というか、茉莉しては意外と弱点がフツーだった。

「えーと・・・どっかに『ゴキバスタースプレー』くらい無いのか?」

「飛び回るGから逃げながら探したんだけど、見つからなくて・・・。」

「その探索、あてにならねーなー。」

どうせ焦って探してたんだろうし・・・。まあ確かに殺虫剤は無かった気がするが。

「・・・で、接触攻撃をブチ込むわけにもいかないし、かといって殺虫剤があるわけでもないから、この部屋に逃げ込んで来たってことか。」

「はい・・・。体調悪いのにごめんね、兄さん。」

「いや、まあ・・・誰しも苦手なものはあるから仕方ないけど・・・ひとまず落ち着け。」

「うん。すーはー、すーはー。」

茉莉が深呼吸をして気を静める。

「しかし参ったなぁ・・・」

風邪じゃなかったら、すぐにでも薬局から殺虫剤を調達してくるのだが・・・生憎、今日はまだ咳がヒドいから外には行けなさそうだ。しかし、このまま茉莉を部屋の外に出したら、茉莉が正気を保てるとは思えない。明日の学校にも響きかねないし・・・ええい、背に腹はかえられないか。

「・・・しょうがねーなぁ〜。茉莉。今日は俺の部屋で寝るか?」

「ふぇっ!?」

「いや、もちろんお前が嫌じゃなければだけど。」

「嫌なわけないよ。えへへ・・・一緒の部屋で寝るのなんて久しぶりだな〜!」

「少なくとも俺が記憶を失って以降は無いな。」

「・・・じゃあ、布団出すね。兄さんの部屋の押入れに、確か友達を泊める時のための布団、あったでしょ?」

「ああ。あったあった。寝る時はテキトーにソレ敷いて寝てくれ。」

「うん!じゃあ早速・・・」

そして茉莉が布団を敷き終えた頃、

「バチンッ!!」

という音が、俺の部屋から廊下に通じる扉の向こうから聞こえた。

「ひゃっ!?」

「ああ、例のGか。」

もちろん、その音を出している原因がゴキブリだという事を一瞬で察した俺は、特に動じる事もなくベッドで横になったままだったが・・・茉莉の方は座ったまま飛び跳ねて驚いていた。

「バチンッ!バチンッ!バババババチィ!バチンッ!バチィ!」

さらに続けて、扉にGがぶつかってくる音が聞こえてくる。

「・・・なあ茉莉。」

「な、何・・・?兄さん・・・。」

「お前、Gが出たって言ってたけど・・・ぜってー1匹じゃねーよな。音からして。・・・どれだけいたんだ?」

「逃げるのに夢中だったからわからないけど・・・多分、数十匹は軽く・・・」

「ハァ!!?・・・そんな数が一体どこに潜んでたってんだ・・・?」

「台所にある倉庫(食料庫)の扉を開けたらいっぱい出てきたから、多分そこで増えたんじゃないかな・・・。」

「よりによってそこかよっ!!」

俺は食料庫の中がどんな惨状になっているのかが気になってしまったが・・・今は考えないでおこうと思う。絶対にロクな事にはなってないだろうから。はぁ。後で包装を破かれたエンガチョ食料とそうでない食料の選別をしないとな・・・。

「・・・とりあえず、今日はもう寝よう。どのみち、俺はまだロクに動けないからな。」

「わかった・・・。おやすみ、兄さん。」

「ああ。おやすみ。」

俺は倦怠感を、茉莉は不安を抱きながら、それぞれ眠りについた。・・・翌朝、俺達の部屋がどんな惨状になっているかも知らずに。

〜6月10日・午前6時 自宅・自室〜

「兄さああああああああああん!!」

「うわああああああ!!?」

身体が重い。・・・否、重いものが俺の身体に乗っている。そして3秒後、その重いものが茉莉だと気付いた。(別に茉莉がデブなわけではない。というか、むしろ痩せている方なのだが・・・それでも女子中学生ともなればそれなりに重いのだ。そこ、勘違いしないように。)

「ど、どうしたんだよ!?茉莉!?」

「に、兄さん!扉の下・・・!」

「へ・・・?」

俺が言われた通りに扉の下を見ると、そこには大量のゴキブリが扉と床の間に詰まっているという、なんともおぞましい光景があった。

「オイオイオイオイオイオイ・・・。こりゃあどうしたってんだ・・・?」

「わかんない・・・わかんないけど・・・起きたらこんな事に・・・!!」

「チッ・・・!めんどくせえな・・・。」

俺は舌打ちをしてガムテープをタンスの上から持って扉の前へ座り込み、扉と床の隙間を埋めるように、ガムテープを貼り付けた。

「よしっ!これで進入できまい!ぐわーっはっはぁ!」

我ながら、相変わらずの「早朝深夜テンション」である。朝は深夜と同じように、眠気と倦怠感のせいで意識がパッとしないんだよな・・・。

「良かった・・・。でも、どうすれば良いのかなぁ・・・。」

「とりあえず、この部屋から安全に出なくちゃな。」

俺は数秒間、目を閉じて考えた。そしてその結果、思い浮かんだ案は・・・

「・・・よし、窓から出よう。」

どうせ扉を塞いでしまった今、それしか外に出る手段は無いわけだしな。

「でも兄さん、外に出てどうするの?玄関開けて家に入ったらGがいるし、まだ薬局は閉まってるから殺虫剤も買えないし・・・。」

「決まってんだろ。アナベルがここから入ってこれるようにするんだ。援軍をGだらけの玄関から入場させるわけにはいかないだろ?」

俺はスマホのロックを解除し、アナベルに電話をかけた。

「もしもし?朝早くからスマン!大至急、俺の部屋の窓の前に家に、あるだけの殺虫剤を持って来てくれ!」

「ふぁぁ・・・?な、なんでそんなに急いで・・・。」

「詳しい説明は後だ!早く!」

「わ、分かった・・・!」

〜午前6時15分〜

そして数分後、スプレータイプ殺虫剤である「ゴキバスタースプレー」を2本と、罠タイプの殺虫剤である「ゴキホール」を6つ持った制服姿のアナベルが俺の部屋へと到着した。

「お待たせ!それで・・・このガムテープで塞がれた扉は何・・・?」

〜事情説明中〜

「む、虫ィッ!?」

「ああ。で、お前に武器を持ってきてもらいたくて呼んだんだ!よーし!これで心置きなく掃除・・・いや、殲滅せんめつができるッ!!」

俺は両手にスプレーを、腰にぶら下げたポーチにはゴキホールを4つ入れて窓から外へ飛び出し、怯える茉莉とアナベルを自室で待機させ、家の玄関へと向かった。先程から全くと言って良い程触れていなかったが、俺の風邪はだいぶ良くなっている。この分なら今日は学校に行けそうだ。となると、事後処理もとい掃除をする時間も考えるとすると、タイムリミットは7時丁度・・・。今からおよそ45分間くらいか!時間は十分すぎるくらいある。

「さあ、殲滅戦だぁぁぁ!」

〜午前6時20分 自宅・玄関〜

まさかのサブタイトル回収を済ませたところで、俺は玄関から自宅に入り、周囲にGがいない事を確認して、1つ目の罠を下駄箱の下に設置した。

「これでまず隠れ場所は1つ潰したか・・・。」

〜脱衣所〜

次に、俺は脱衣所を調べた。・・・あの類の虫は、こういう湿っぽいところにいそうなイメージだが・・・

とりあえず俺は、もしここにGが潜んでいた時のために、Gが隠れそうな洗濯機の裏にゴキホールを仕掛けておいた。

その際、トイレと風呂場も調べてみたが・・・特にGの姿は見当たらなかった。

〜茉莉の部屋〜

そして、俺は茉莉の部屋を調べた。シンプルな家具が多くてきちんと掃除もされている、清潔感あふれる部屋だ。・・・ここにもGはいない。・・・おかしい。茉莉の言うように数十匹もいるなら、今まで探した場所のどこかに1匹くらいいてもおかしくないはずだ。なのに、現段階では1匹も姿を確認できていない。もしかしたら茉莉は、怖がりながら逃げたから、Gの数を大きく数え間違えたのだろうか?本当は2、3匹しかいなかったが、怖がり過ぎていたが故に、何十匹ものGに追われている感覚だった・・・みたいな・・・。十分にあり得る話だ。まあ、いることには変わらないのだから、慎重に罠を仕掛けつつ、駆除していくとしよう。

〜廊下〜

俺は廊下に出て、奴らの本拠地、リビングダイニング(いつも略して「リビング」と書いているが)へと向かった。その途中で、俺の部屋へ入ろうとしてその扉の前で俺が貼り付けたガムテープに捕まったGに、ゴキバスタースプレーを連射しておいた。もうすでにガムテープにやられているとは思うが、念には念を入れてのダメ押しというやつだ。さあ、次が正念場だ。気合いを入れて虐殺してやるとしよう。

〜午前6時20分 自宅・リビング〜

「さあ、どこだ・・・?」

どこにGがいるか、俺は念入りにリビングを探す。そして、テレビ台の下と本棚の下、さらに冷蔵庫とシンクの隙間にゴキホールを仕掛けておいた。しかし・・・それだけリビングを漁ってもGどころかそれの死骸すらも見当たらないとは・・・。一体、どこに隠れているってんだ・・・。

〜食料庫前〜

さあ、後はここだけだな。Gどもが根城にしていたという、ここ数ヶ月ロクに開けてすらいなかった食料庫・・・。

「突入じゃオラァァァァァァァ!」

・・・?

「って、いない・・・だと・・・!?」

おかしい!部屋はこれで全部のはずだ!なのに、Gの姿が1匹も見当たらない!一体、数十体のゴキブリなんてどこにいるんだ!?

「カサカサ・・・。」

「!!?」

聞こえた!確かに今、俺の背後でGが「カサカサ」と動く音が!

俺は急いで後ろを振り向く。しかし、そこに足音をたてていたらしきGな姿は無かった。

「出てこい!このゴキ公がァーッ!」

「ジジジ・・・。」

また聞こえた!だが・・・まだ、奴らがどこにいるかわからない。

「ジジジ・・・」

「ジバババババ・・・」

「ジジジジジ・・・。」

先程よりも数が多い。たくさんの羽音が聞こえる。

「一体どこに・・・」

俺はふと気配を感じ、再び後ろを振り向いて食料庫の天井に目を向けた。

「ジジジジジジ・・・。」

「ジジジジジジ・・・。」

「バババッ。」

「ジジッ。」

「ジバババ・・・。」

「なっ・・・!?」

すると次の瞬間、俺の目には、天井にミッチリと張り付いている40匹程のゴキブリの姿が飛び込んできた。

「・・・。」

俺は冷静に、ゴキバスタースプレーを構えて張り付いているGに狙いを定めた。

「オラァァァァァァァァッ!」

そして勢いよく、ハンドガンのような形になっているスプレーのトリガーを引いた。

「ジジジッ。ジ・・・。」

「ジバァァ・・・。」

「クソッ!このままじゃあキリが無い・・・!!」

「ジバァァ!」

「ジィィィ!!」

「ジジジジジジ!!」

!!?なんか、キリが無いどころか徒党を組んで襲ってきたんだけど・・・。Gって襲いかかってくるものなのか?

「うおおおおおおおおっ!!」

ゴキ公ごときに負けるかよぉっ!!

・・・と、思っていたのだが・・・。

「プシュッ、シュシュッ・・・。」

ここでまさかの殺虫剤切れ・・・だと・・・。

すでにもう20匹は殺った。だが・・・Gはまだ大量に残っている。

「・・・ええい!こうなりゃヤケだ!」

俺は食料庫の扉を閉め、灯りをつけて拳を握りしめた。そして、

WRYYYYYYYウリイイイイイイイ!」

襲ってくるGに向かって、某時間停止吸血鬼様顔負けのラッシュを繰り出した。(もちろん常人ならそんな事できるわけないが、ここはギャグ小説の世界だ。甘んじて受け入れるべし。)

「ピシェッ!」

「ギシャッ!」

「チッ!汚ねぇなぁ・・・。」

俺はGの死骸と、潰れたソレから飛び散る語りたくもないモノに塗れた手を気にもせず、ただただ向かってきたり、逃げようとしたりするGを片っ端から殴った。

そして・・・

「テメーが最後だッ!!ブッ潰れろォォーー!」

「ベキャッ・・・。」

とうとう、最後の1匹と思われるGを右の拳でブッ潰した。

「よし・・・!やった!やったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!イよし!イよしイよしイよしイよしイよぉぉぉぉし!!」

やっと・・・やっと終わったんだ・・・!ゴキ公ごときが手間かけさせやがって・・・。

その後、俺は汚れた手を洗い、食料庫を一通り掃除して、エンガチョ食品を全て廃棄した。・・・もちろん、俺の部屋に貼り付けたガムテープも引っぺがした。そして、俺の部屋で待機している2人を大声で呼んだ。

「茉莉ー!!アナベル!!殲滅完了だ!!もう来ていいぞー!」

・・・ふぅ。散々格闘して、疲れてしまったのだろうか。身体が重い。顔も・・・熱い。

病み上がり・・・だってのに・・・ちょっと・・・アツくなりすぎちまった・・・みたい・・・だ・・・な・・・。

その半日後、結局学校を休んだ茉莉とアナベルに見守られながらベッドで目覚めるまで、俺の意識は全く無かった。2人の話によると、俺は例の「G殲滅作戦」を全てをやりきった後、高熱を出した状態で、仰向けになってリビングに寝転がっていたそうだ。

ああするしか方法が無かったとはいえ・・・やはり病み上がりに無理をするものではないなと、改めて実感させられた。どうか、次に病み上がりになる時は、こんなハプニングが起こらない事を祈ろう。・・・いや、それ以前に、病気にならない事の方が大切だが。はぁ。2人には悪い事をしてしまったな・・・。お礼に、風邪が治ったらお菓子でも買ってきてやるとするか。

その後1週間、俺が自分の家から出る事はありませんでしたとさ。・・・「ただの風邪でも、重いやつは重いんだな」と、身をもって実感した1週間だった。そして俺は、「体調には気をつけなければいけないな」と、改めて考えるのであった。

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