第12話 痴漢魔に裁きを! 後編

〜6月8日・午前3時 自宅・リビング〜

「はぁ・・・はぁ・・・。確か卵は・・・ここか・・・?」

俺は作戦決行日の夜中、「どうせ寝付けないなら」と、先ほどのアレから収まる兆しすら見えない程に昂る気持ちとうるさい心拍の音を何とか抑えて、リビングへと向かった。そしてそのままダイニングキッチンへと向かい、そこの冷蔵庫から卵を取り出して、持ってきた裁縫セットの中に入っていた針を上手く使って卵に小さめの穴を開け、中身を吸い出した。・・・ただの生卵だけあって、本当に卵の味しかしないが・・・別に今は卵を食べることが目的ではないわけだし、そこは気にしないでおこう。俺は中身を吸い出した卵の中に、かつて、友達と遊ぶ時のドッキリ用としてインターネットショッピングサイトで注文しておいたまま、タンスの肥やしならぬ冷蔵庫の肥やしになっている「とある物」を詰め、開けた穴を覆うようにセロハンテープで塞いでおいた。

「よしっ。これがあれば・・・。茉莉を傷つけた代償・・・とくと味わってもらおうじゃねえか・・・!!!」

〜午後7時 猫間神社・境内〜

「・・・さあ、ブチかましていこうか。」

「?やけに気合が入ってるわね。」

「にゃ?(何かいいことでもあった・・・?)」

「いや、その逆だ。茉莉が・・・茉莉が痴漢の被害に遭った。」

「!!茉莉ちゃんが・・・!?」

「にゃ?にゃ。(茉莉?ああ、猫菜さまからよく聞く、来兎の妹さんか。)」

「だ、大丈夫だったの?」

「ああ。一応、今朝にはだいぶ落ち着いているようには見えた。まあ、今日はゆっくり休むように言っておいたけどな。」

「そう・・・。・・・痴漢魔、許すまじ・・・ね。」

「・・・だな。」

「にゃー!にゃー。(ガンバろー。おー。)」

そして俺達は駅へと向かい、早速、囮捜査ならぬ囮審判作戦(仮)を決行する事にした。また、咲の事だが・・・猫菜が今日だけ特別、人間になれる術をかけてくれるようであった(逆にそうでなければどうするのかと思っていたが・・・)。よし。これで心置きなくお仕置きする事ができる。猫菜にはあくまでも「周囲の安全を確保して」と言われているが・・・。ここは少し、「ちょっとやりすぎた感」を出してヤツには痛い目を見せてやりたい。悪いな、猫菜。少しだけ・・・お前が思っているよりも、もう少しだけ・・・暴れさせてもらうぞ。

〜午後7時20分 DI駅・2番線〜

走ってDI駅へと向かい、HN線の下り線が発車するという2番線へと到着した俺達は、ついに作戦を決行すべく、猫菜にはあえて猫耳と尻尾を出させて、事情を知らない人間からみたらどう見ても「猫コスをしている女の子」にしか見えない状態になってもらった。そして、一時的に人間の姿を手に入れた咲は、珍しくウキウキしているようであった。身長は華より高いが、想像通りのロリっ娘ぶりだ。可愛い。・・・しかし、猫菜が自分以外の猫に術を使ったからだろうか?咲はデフォルトで猫耳なのだが・・・それはいろいろとややこしくなりそうだか

らツッコまないでおこう。そして、2人が色々と準備をしている中、俺はどうしていたかというと・・・。

「よいしょ、よいしょっと。よし。これでオーケー。」

今日、寝付く前に作っておいた「例の卵」を腰にぶら下げるタイプのポーチから出してそれを右手に握り、その手をポケットの中に入れて「準備」をしていた。

「プルルルルルル!!・・・えー、まもなく、2番線・・・HN線下り列車、発車いたします。」

いけないいけない。そろそろ電車が出て行ってしまう。さあ、ここから、適当な距離を乗っては降り、引き返してはまた乗りを繰り返す事になる。仮に猫菜以外に痴漢が引っかかった場合に見逃さないためにも、気を引き締めていかなくては。ちなみに、この際発生する乗車料金の事だが・・・。猫菜がお賽銭の中から、「1日フリー乗車券」を3人分買ってくれたから心配はいらないようである。・・・本当にどこまでも抜け目ない神様だな。それにしても・・・。お賽銭が、本当に(ある意味)人々を救うための資金として使われる事になるとは。ましてやその現場の当事者になるなんて、1年近く前までは思ってもみなかった事だろう。本当に感慨深い事だ。

そんな事を思いながら、俺は2人(厳密には2匹)を連れて、今にも発車しそうな電車の1車両目に乗り込んだ。

「さあ、ここからが佳境だ。気合い入れていくぞ!!」

「ええ!」

「ん。」

〜午後7時30分 HN線・1車両目〜「「「・・・」」」

俺達は付かず離れず、しかし視界の中にしっかりと自分以外の2人が目に入るくらいの距離を保ちながら、満員ではなくとも人で視界がそこそこ遮られる程度の車内で、周囲にバレないよう、平然を装いながら作戦を開始した。

さあ・・・早く現れろ・・・!!

〜午後9時 DI駅・2番線〜

「ふぁぁ・・・来るなら来いよ・・・眠くなってきたじゃねーか・・・。」

「疲れた。」

「やはり、一筋縄では釣れないものね。」

さすがに作戦開始から1時間半で犯人を釣れるわけが無いという事は分かっているのだが・・・。分かっていてもキツいものだな。

「よっし!まだまだ!気合い入れていくぞ・・・!」

俺は脳裏に茉莉を思い浮かべて拳を握り、眠気を吹き飛ばして気合いを入れ直した。

「ん。ガンバるってさっき言ったから、ガンバらなきゃ。」

「そうね。絶対に痴漢魔の正体を突き止めましょう!」

そして咲と猫菜も、俺に続いて自身を鼓舞し、士気を取り戻したようだ。

しかし・・・。

〜午後11時 DI駅・2番線〜

「はぁ・・・こんなこと言うのはおかしいって思ってるけど・・・。まだ来ないのかよ・・・。ムシャムシャ(咀嚼音)。明日は学校だってのに・・・。」

俺はキオスケ(売店)で買った夜食のおにぎりを食べながらため息をついた。

「にゃああ・・・。もうすぐ人間でいられる力の効果が切れるのに、全然痴漢されないね。ちぇっ。」

言ってる事は正しいんだけど、発言だけ聞くとただのビ○チなんだよなぁ・・・。日本語は難しいね。

「・・・私、そんなにスタイル悪いかしら・・・?」

巨乳美少女が何を言うか。

・・・ダメだ。2人もとうとう士気を失って荒み始めている。オマケに、咲のタイムリミットも近いときた。そういえば猫菜が咲にかけた術って、あくまでも「今日は人間になれる」っていう効果だったから・・・。日付が変わった瞬間に猫に戻るんだっけ・・・。

だが、最後まで諦めるわけにはいかない。今日中に捕まえられなければ、また来週になってしまうが・・・。そんなに待っていられるものか。今日中に・・・あと1時間以内になんとかしなくては・・・。

とは言っても、時間が経つにつれて、どんどん人が減ってきている。状況は悪くなっていくばかりだ。一体どうすれば・・・。

〜午後11時30分 HN線・4両目〜

恐らくこれが、本日最後の乗車だろう。・・・俺は周囲を見渡す。こんな時間だというのに、席は埋まっている。そして俺以外に立っている人も、この車両だけで十数人程いた。やはりそれなりの都市だけあって、夜中でもそこそこの人数は電車に乗っているようである。・・・何故地元民なのにそんな事も知らなかったかというと・・・。例の眠くなる後遺症のせいで、いつもはこんな時間に電車に乗る事がないからである。

「「「ふぁぁ・・・」」」

3人同時にあくびをする。まあ、こんな時間なのだから仕方がない。・・・そろそろ引き返すかと、俺達は次の駅で列車を降りる事にした。何の収穫もなかったが・・・。また来週、再チャレンジしてみるか。

半ば諦めかけていた俺達は、3人ともそう思っていた。しかし・・・一寸先は闇とはいつの時代もよく言ったものだ。

「・・・にゃ・・・。」

・・・まさかこんなギリギリのタイミングでマヌケが釣れてくれるとは。しかも、痴漢されたのは猫菜ではなく咲の方。・・・ガールズバーのロリッ娘とやらが狙われたのは「コスプレ」が原因じゃなかったのか・・・?じゃあなぜ・・・。猫菜が狙われなくて、茉莉や咲が狙われた理由・・・。2人とも身長が155cm以下・・・。茉莉は女子中学生、咲も見た目はそんくらいだな。うーん・・・?

あ、「ロリっ娘」か。

「・・・少し予想が外れたけど・・・引っかかったわね!(テレパシー)」

「ああ!(テレパシー)」

「にゃ、にゃあ・・・。キ、キミ・・・にゃんでボクの・・・お尻を・・・?(か細い声)」

・・・咲は自分が身体をまさぐられる事になるとは思っていなかったのだろう。驚きすぎて声も出ないようである。

「仕方ないわね。私が言うわ。(テレパシー)」

「頼む。サポートは俺がするから。(テレパシー)」

さあ、逮捕といこうじゃないか。

「貴方!!・・・そこの女の子に何をしているのかしら?・・・通報・・・しますよ。」

「にゃあ・・・!」

猫菜が人間形態の時に使っているスマホを取り出した時だった。

「まもなく〜DI駅〜DI駅〜。お出口は右側です〜。」

・・・何という事だ。せっかくマヌケが釣れたってのに・・・電車がDI駅に到着してしまった・・・!!クソッ!他の乗客はこちらの騒ぎに気付きながらも、あまり関わりたくないと思っているのか、何かをしてくれているような動きはしていない・・・!そして車両がDI駅に到着した瞬間・・・。

「チッ!!」

「ピロロロン♪ドアが開きます♪」

犯人がドアを開けてホームへと降りようとした。

「待ちなさい!!痴漢魔めッ!!」

猫菜も痴漢魔に気をとられるあまり、このタイミングの悪さは想定に入れていなかったようだ。

「ククッ・・・!」

犯人がニヤケながら走り出す。当然、このままでは人混みに紛れ込まれて逃げられてしまう・・・!

しかし。神である猫菜にさえ「予想外」はあるように・・・当然、俺にも、咲にも、犯人である痴漢魔にだって、いつ「予想外の出来事」が起こるかなんてわからないのである。

「喰らえッ!!おらあああああ!」

俺は痴漢魔の顔めがけて、あらかじめポケットに仕込んでおいた「激辛ソース卵爆弾」を投げた。しかし・・・当然、こちらから逃げているわけだから、顔面に当たるわけもなく・・・そのまま後頭部に当たって終わりかと思っていたが・・・。

「・・・ッ!!」

何の偶然か、痴漢魔は卵爆弾が着弾する瞬間に後ろを気にして振り返ったのだ。

「ブゲァ!!」

当然、卵爆弾は後頭部ではなく顔面に着弾。割れた卵の中から、120万スコヴィルの辛さを誇る超激辛ソースが勢いよく飛び散った。・・・まさか、桃矢の鼻血を止める際に使っていた必殺技のようなものがこんな時に役立つとは。

辛味を超えた激辛がもたらす激痛を味わった痴漢魔は、思わずその場で倒れ込んだ。

「ごぎゃああああああああああああ!!!あばばばばばばばばばっばばばっばばばばっばあああああ!!」

「本当によくやるわね・・・。」

「ん。ビックリした・・・。来兎、それ、なんて手品?」

「全くの偶然ですハイ」

さすがにこの偶然には2人(改めて書く。厳密には2匹だ。)も驚きの模様。「うわぁ・・・マジかぁ。当たっちゃう?今の。」

かく言う俺も、自分卵投げコントロールがあそこまで上手いとは思っていなかったし、あんな偶然が重なるとも思っていなかった。我ながら何という強運。

「・・・ほんじゃ、俺はとっとと駅員を呼んでくるかな。」

「・・・じゃあ、処刑の方はこっちでやっておくわ。(テレパシー)」

「はいはいヨロシクー。事情の説明の方はテキトーに頼む。(テレパシー)」

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!あばばばばばばばばばばばばばばぁ!ぎょえええいああああ!!がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃ!!!」

ギャーギャーと喚く痴漢魔を尻目に、俺は駅員を呼びに行った。

〜猫菜視点〜

「ふぅ。貴方が痴漢魔ね。随分とこの辺りで悪さをしてくれていたみたいじゃない。」

「・・・痴漢はダメって知ってるはずなのに。」

「ああああああああああ!!痛い痛い痛いぃ!助けて!助けてくれええええええ!」

「・・・質問に答えてくれたら考えなくもないわ。どうする?」

「答える!答えますからぁぁぁぁぁぁ!!!」

「分かったわ。」

私は、のたうち回る痴漢魔を見下しながらスマホを起動させ、録音ボタンを押した。

「ではまず1つ目。・・・貴方は、いつ頃から痴漢を始めたの?」

「い、1年前です・・・!!そんで、最近はバレなくなってきたので頻度を増やしたら、痴漢魔の噂がぁ・・・!」

「へー。割と素直じゃない。じゃあ次ね。痴漢に及んだ経緯を説明しなさい。」

「とある夏の日に、電車内で可愛い女子中学生を見かけたのがきっかけです!それから、ロリへの衝動が抑えられなくなって・・・。」

「随分と気持ち悪い経緯をありがとう。・・・では最後。これまで、いったい何人の女性の身体をその汚い手でまさぐったのかしら?」

「20人から数えるのをやめた。」

「・・・キモいね。」

咲の口から純粋さ故の猛毒が吐かれる。

「ええ。キモいわね。・・・さて、それじゃあ私はこの音声を保存して、警察に電話するわ。1、1、0・・・っと。」

私はスマホの録音ボタンをもう一度押して音声を保存し、電話のキーパッドを開いて警察に電話をかけようとした。

「おい待て!さ、最後まで質問に答えたら、顔についたヤツを拭き取ってくれるって・・・。」

痴漢魔が這ったままこちらへ近づいてくる。私はうんざりしそんな痴漢魔の頭(激辛ソースがかかっていない部分)を踏みつけて言った。

「自分を知りなさい...そんなオイシイ話が......あると思うのかしら?貴方のような人間に」

「なんてひどいおんn...」

痴漢魔は尚も激辛ソースに悶えながら最後の力を振り絞って私の脚をどかして立ち上がり、こちらに襲いかかってきた。

「ふぅ。あまりこの手は使いたくなかったのだけれど・・・!」

私は体内を巡るエネルギーを両手に集め、爆発するパンチンググローブを作り出そうとした。しかし・・・。

「駅員さん!ほら!コイツですよ!」

「コラ!そこで何をしているッ!」

来兎君がちょうど良いタイミングで駅員を呼んできてくれた。どうやら、私がわざわざ手を下すまでも無かったようね。

・・・そして無事に痴漢魔を捕まえた私達は、あの後、少しばかり駅員の事情聴取に付き合い、犯人を逮捕しに来る警察にも事情を話して、通称「DI駅連続痴漢事件」にピリオドを打ったのだった。

・・・そして私はあの後、茉莉ちゃんのお尻をさわさわした(表現大濁し)事に対して個人的に腹が立っていたので、こっそり神の力を行使して一生分の運気を吸い取っておいた。・・・死よりも苦しいかもしれない生き地獄を、せいぜい楽しむが良いわ。

〜6月9日・午前0時 自宅・リビング(来兎視点)〜

その後、特にやることも無くなってしまった俺達は、ひとまず猫間神社へと帰って、待機している猫達への報告を済ませた後、俺は自宅へ帰り、シャワーを浴びた。それから間もなく俺は睡魔に大敗北し、もうすでに眠ってしまっている茉莉の寝顔を拝むこともなく上半身裸のままソファーで寝落ちしてしまった。明日の朝、体調を崩してしまわなければ良いのだが・・・。

・・・などと言っていると、本当に熱が出たり頭が痛くなったりするのだから、風邪とフラグはタチが悪いのだ。病は気から!大丈夫だと思っておけば、半裸で寝ても体調を崩す心配はない!!

・・・決して、ない!!(スゴ味)

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