第11話 痴漢魔に裁きを!中編

〜6月2日・午後4時30分 猫間神社・境内〜

翌日の放課後。また何を聞くか忘れてしまわないうちに、痴漢魔について色々と情報を収集しようと思った俺は、アナベルと華を猫間神社に呼び出した。ちなみになぜ猫間神社なのかというと、猫間神社の敷地内なら、猫菜が自身の能力で境内中の会話のログが残るからである。こうすれば、わざわざ俺がテレパシーを飛ばして猫菜に2人から聞いた話を伝えなくても、猫菜がログを確認するだけで済む。アレテレパシー、猫菜が近くに居ないと結構な集中力を使うから面倒なんだよな・・・。それに、今日は茉莉と華の個別料理指導教室(Part2)が開かれる予定だったし、集合場所にはピッタリだろう。

「2人とも。今日は料理教室の日だけど・・・。それ以前に、俺は今日、2人にちょっと聞きたいことがあって呼んだんだ。」

「へー、何スか?」

「どうしたの?」

「・・・単刀直入に聞く。痴漢魔について何か知ってるか?」

俺は特に前置きをベラベラと話すこともなく、痴漢魔について聞いた。

「あー、よく話には聞くっスねぇ。」

「あたしも知ってる!この辺りで色んな女の子のお尻とかおっぱいとかをさわさわしてるって・・・。」

「あと、他によく聞くのは盗撮とかっスかね〜?」

「何その痴漢の星みたいな奴」

まさか、「痴漢」という言葉を聞いてパッと思い浮かぶものを網羅しているとは・・・。

「・・・で、その痴漢魔の正体っつーか・・・そういうのは分かるか?」

「うーん・・・ウチの組が運営してるガールズバーで働いてるロリ系のも被害にあったらしいんスけど、その人曰く、『周りには普通の会社員っぽい人しかいなかった』らしいっスよ?・・・まー、ただの路線でコスプレなんてしてたら狙われても仕方ないっスけど。」

「あと・・・街で話してた人たちの噂では、夕方から夜中にかけてやられた人が多いみたいだよ!」

「夕方から夜中か・・・つまり、学生の帰宅時間から夜のお仕事の人達が出勤する時間帯を狙っているわけだ。あとは・・・コスプレ・・・?」

うーん・・・。となると、別に特定の年齢層を狙っているわけでは無いらしい。まあ、猫達の調査やニュースから推理する限り、被害者は大体15歳〜25歳くらいだろうし、「若い女の人」というざっくりとした括りでしか狙いを定めていないのだろう。

「・・・うーん・・・あとは何とかなるか。ありがとう、2人とも。」

「いいって事っスよ。この情報が何の役に立つかわからないっスけど。」

「茉莉ちゃんにも気をつけてっていっておいてね。・・・あ、もしかして、茉莉ちゃんのことが心配でこんなことしてるのかな?」

「マジすか〜?さすがシスコンっスね〜。」

「何をどう間違えたら今の会話から俺がシスコンだって話になるんだよ・・・。はぁ。・・・その茉莉がエプロンと食材を用意して待ってんだから、とっとと俺ん家まで来いや。」

「へーいす。」

「うん!今日こそ1人でもまともな料理を・・・まともな料理を(大事なことなので2回言いました)作れるようになってみせるよっ!!」

「まあ・・・あんま期待しないで待ってるから、頑張れよなー。」

よし・・・何だかんだあったが、これで一通り得られそうな情報は聞けた・・・かな?ひとまずはこれまで得たヒントをもとに、後日、猫集会でみんなと作戦を立てるとしよう。

・・・ちなみに、この後開催された料理教室だが・・・もちろん茉莉と華同伴の際はアナベルが作っても料理は大成功していた。しかし、2人が観ているだけで一切の手を貸さなくなった瞬間に、行事名が料理教室からダークマターフェスティバルへと豹変した事は言うまでもない。

そしてその間、俺は念のため桃矢にも電話してみたのだが・・・華やアナベルが言っていた事とほぼ同じ事しか言っていなかったし、特に面白い話があったわけでもなかったため、割愛させて頂こうと思う。

〜6月7日・午後5時20分 猫間神社・境内〜

「さあ、色々と情報も集まった事だし・・・これから、作戦会議を始めましょう。」

「「「にゃー!(おーっ!)」」」

みんな気合十分のようだ。よしっ!更なる被害が出てしまう前に、一刻も早く痴漢魔を止めなくては。

「じゃあ、まずは来兎君から順番に調査結果の発表をしてもらっていいかしら?」

「オーケー。・・・といっても、猫菜・・・お前、全部知ってるだろ?」

「ええ、まあ。でも私以外は知らないから、一応、みんなに向けてもう一度説明してもらえる?」

「お前が要約してくれれば良いものを・・・。まーいいや。簡単に言うと、痴漢魔はこの付近の駅につながる路線を使っている量産型会社員と思われる男。で、標的は15歳〜25歳くらいの『若い女の子』という程度にしか絞り込まれていないみたいだ。痴漢魔が出没する時間は夕方から夜中。確認されている被害の項目は、『胸や尻・下腹部を触られる』、『盗撮』、『髪の匂いを嗅がれる』など・・・色々やっているみたいだぞ。・・・俺からは以上だ。」

「ありがとう、来兎君。」

その後も、出席している猫達が口々に痴漢魔の正体を掴めそうなヒントとなりそうな情報を話し始めた。

俺の知っている内容以外をまとめると、「痴漢魔は『ワイドミークラフト株式会社』という事務用品メーカーに勤めている会社員で、主に『HN線』という路線を利用している。」という事らしい。

「うーん・・・釣られるエサの範囲がざっくりしている分、囮捜査は難航しそうね・・・。」

「にゃー。にゃにゃ。(・・・でも、『コスプレ』ってワードは気になる。囮がコスプレすれば良い・・・?)」

「確かに。・・・いや、ちょっと待て。囮捜査?コスプレ?なんか色々と聞き捨てならない言葉が」

「にゃ。にゃー。(現行犯でしか捕まえられない以上、囮を使うしかない。)」

「ええ。少し危険かもしれないけど、それしか方法がないの。囮は私がやるから心配しなくて良いわ。」

「あ、ああ・・・。ん?じゃあ、つまり、猫菜がコスプレ姿でHN線に乗って、まんまと釣られた犯人を捕まえるってことか?」

「ええ。そういう事ね。」

・・・大丈夫だろうか。いくら猫菜が神様だからって、さすがに女1人で痴漢の囮捜査をさせるわけには・・・。

「なあ、その囮捜査・・・俺も同行していいか?」

「にゃ。(私も心配。)」

「2人とも、私のことが心配?」

「そりゃあな。つーか、お前が囮になる分には別に良いけど、有事の際に備えて、仲間は連れて行った方が良いぞ。」

「にゃー!にゃ。(来兎の言う通り。妨害要因と通報要因を用意しないと。)」

「・・・ありがとう、2人とも。じゃあ私が囮になるから、咲が周囲の人達に騒ぎを知らせて駅員に通報、来兎君が、何かあった時のために周囲の安全を確保する・・・という具合に動いてもらって良いかしら?」

「オーケー!任せとけ!」

「にゃ。(分かった。)」

「じゃあ・・・善は急げというし、決行日時は明日の午後8時にしましょう。私と来兎君と咲は、午後7時にここ(猫間神社の境内)で待ち合わせましょう。そして・・・私達3人以外のみんなは、ここで待機してて頂戴。何かあったら一斉にテレパシーを飛ばすから。」

こうして俺達はこの日、翌日に決行される作戦に向けて、さらに綿密な計画を黄昏時が終わるギリギリの瞬間まで練っていた。果たして神の裁きに人間が加担して良いのか分からないが・・・。今さら引けるものか。俺自身、少し不安だがやるしかないと思っている。

・・・と、少し人間への裁きに加担する事に対して若干の後ろめたさがあったが・・・。今夜、その後ろめたさが「大きな怒り」へと変わる事になるだなんて、この時の俺には知る由もなかった。

〜午後7時 自宅・茉莉の部屋〜

「ふぇぇぇぇぇん・・・。」

「〜っ!!!」

猫集会の後、家に帰ったら・・・茉莉がキッチンに立っていなかった。どこへ行ったのだろうと、トイレのドアをノックしてみる。・・・しかし電気すら灯いておらず、中には誰もいないようだった。・・・そして、「もしかしたら勉強でもしているのだろうか」と思った俺は、茉莉の部屋へと入った。すると、そこには・・・。

「・・・。」

口を半開きにして、ハイライトを失ったような目をしながら体育座りの体勢ボーッとしている茉莉の姿があった。

「茉莉!茉莉!!どうした!!?そんな闇堕ちしたみたいな顔して!!」

「・・・ぁ・・・」

「?」

「電車で・・・お尻を・・・触られちゃった・・・。」

「ファッ!!?」

俺は唖然とした。そして、思考回路が麻痺し、目の前が赤くなったり黒くなったりした後、1年に1回くらいしか感じる機会が無い程の激しい怒りを覚えた。

「兄さん・・・!私・・・私っ・・・!兄さん以外の人に身体を・・・!!」

「・・・チッ!!クソ野郎が・・・このクソ野郎がァァァァァァッ!!!」

普段ならここで「うん待て俺以外の人にってどういう事だおかしいぞ」という具合にツッコんでいる場面だが、この状況では、さすがの俺でも面白おかしくツッコめるわけがない。

「うう・・・グスっ・・・。兄さん・・・。」

「畜生ッ!タダじゃおかねぇ!!!茉莉を標的にするなんざいい度胸じゃねぇか・・・!!万死に値するぞ!!!クズがッ!!」

「あ、ごめん、兄さん。ご飯・・・作らなきゃね・・・。」

「いや、いいよ、茉莉。今日の飯は俺が作る。さすがにこんな妹に飯を作らせるわけにはいかないし。」

「え?でも兄さん、疲れてるんじゃあ・・・。」

「俺の後遺症なんか、お前が痴漢魔につけられた心の傷に比べちゃ千倍マシだ。・・・たまには、カッコつけさせてくれ。茉莉。」

「・・・ありがとう、兄さん。もうちょっとだけ・・・横になってるね。ご飯、できたら言って。」

「ああ。任せときな。」

俺はそう言って、キッチンへと向かった。茉莉から教わった料理のコツを思い出し、一品一品、丁寧に料理を作っていく。茉莉を少しでも元気にしたい、慰めたいという気持ちを込めて、祈りを込めて、作っていく。そして、俺は沸き上がる憎しみを抑えて、込められるだけの愛情を込めて夕食を作っていった。

〜午後8時10分〜

俺は茉莉を呼び、一緒に夕食をとった。味はどうかと聞くと、茉莉は「美味しい」と、少し笑みを浮かべて言ってくれた。自分でも、よくできた方だと思っている。・・・まあ、料理の天才である茉莉から教わったのだから、当然といえば当然だろう。

「ねえ、兄さん。」

「どした?茉莉。」

「・・・ごめんね、夕食作れなくて・・・。」

「いいっつーの。むしろ、親父がほとんど帰ってこない父子家庭の兄妹なのに、いくら俺に後遺症があるからって、家事の大半を妹である茉莉にやらせちまってるのが情けないくらいだ。」

「別に後遺症は、兄さんがなりたくてなったわけじゃないんだから仕方ないよ。それに・・・大好きな兄さんには、楽させてあげたいし。」

「ホント、いつもスンマセン。」

「でも今日はちょっと・・・私のワガママを聞いて欲しい・・・かな。」

「何だ?洗濯か?掃除か?」

「ううん。そうじゃなくて・・・私、今日は兄さんの部屋で一緒に寝たいの。」

「うん?どうしてこうなった?」

「お尻を触られた時、怖くって・・・兄さんに申し訳ない気持ちになって・・・。だから・・・今日は一晩中、兄さんを側に感じていたいの。ダメ・・・かな・・・?」

茉莉が首を傾けて俺に「お願い」した。正直・・・不覚にもドキっとしてしまう程に可愛い。

「あ、ああ・・・。別にいいけど・・・。」

頬が熱くなっているのが自分でも分かり、俺は必死に頬を手で隠した。

〜午後11時 自宅・自室〜

俺と茉莉はシングルベッドで身を寄せ合い、向かい合って目を閉じた。しかし・・・俺を抱きしめながら眠ろうとしている茉莉の暖かい体温と、ふわふわとした身体の感触が直に伝わってくるせいで、中々落ち着いて寝る事が出来ない。

・・・それでも何とか眠ろうとして目を閉じ、やっと眠りにつきかけたその瞬間だった。

「ちゅっ。」

唇に、何か柔らかいものが触れた。

「兄さん・・・兄さん・・・!」

何度も、何度もその柔らかいものが俺の唇に触れる。そして次の瞬間、

「んっ・・・むぅ・・・」

口の中に、温かくてぬろっとしたものが入ってきた。

これは・・・えーと・・・。

「ぷはっ。兄さん・・・。ありがとう。大好き。」

俺は「まだ起きているとバレたらマズい気がする」と何となく悟った俺はされるがままになって狸寝入りを貫いたが・・・こんなイベント(表現を濁す)があった後に寝られるわけないだろ。

・・・そして案の定、俺のドキドキと高鳴る心臓の鼓動は後遺症やら何やらを全て吹っ飛ばし、結局、日が昇り始めるまで俺が眠りにつくことはなかった。

しかし、今日の作戦に支障が出る気は全くもってしない。なぜなら・・・。

妹を傷つけた犯人に、最低最悪のお仕置きタイムをお見舞いできるチャンスだからである。・・・ぜってー逃がさねーからな。クソが。

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