第10話 痴漢魔に裁きを! 前編

〜午後4時40分〜

「ヴヴン!!(咳払い)・・・さあ、そろそろ本題に入りましょう。」

猫菜は赤らめていた顔を何とか取り繕って、会議を本題へと進めた。

「今日の話題も、いつも通りこの地域とその周辺で起こっている様々な問題についてだけど・・・誰か、そういう事に関する情報は持ってるかしら?」

「今日も」という事は・・・前々から猫集会では、この辺りで起きていることついて話し合ってきたのだろうか?

「にゃー。にゃにゃ。(はい。猫間神社付近の人間によるゴミのポイ捨てについて・・・。)」

「にゃにゃ!みゃみゃんっ!(相変わらずオメーは真面目だなぁ!そういうとこ、俺らも見習わねえとな!)」

「みゃー!(小木さん家に赤ちゃんが生まれたらしいわよー!)」

「にゃー!?にゃんっ!にゃん!(本当!?今度、ご飯ネズミ届けてあげようかしら〜!)」

「にゃ・・・(人間がネズミを食べているビジョンが見えない件について・・・。)」

「にゃあ・・・。にゃ。(そういや高田さん家の娘さん、おつかいデビューしたらしいぜ。・・・ま、ソースとチョコソースを間違えるほどのドジっぷりだったらしいが・・・。これからの成長に期待ってとこだな。)」

「みゃ〜。みゃみゃん。(そうか・・・。あの子が・・・。随分大きくなったのぅ・・・。)」

「にゃにゃー!にゃー!(人間の女の子のパンツ、下から見ちゃいましたぐへへ)」

「「「「にゃーー!(それ以上の発言は控えやがれド変態野郎がッ!!)」」」」

・・・スケールの大きなものから小さなものまで、いろいろな話が飛び交う。なんだか、主婦達の井戸端会議と通ずるものがありそうだ。ちょっと真面目な猫もいるみたいだけど。

(そして、さらっと変態的な話題も紛れていたが、その話題に関しては華麗にスルーさせて頂く事にしよう)

そんな中、1つ、俺と猫菜にとって気になる話題がとある野良猫の口から出た。

「にゃー!にゃにゃん!にゃー!(はーい!ボク、ちょっとした事件の噂を聞きましたー!)」

「それじゃ、『サキ』。早速、その噂について話してくれるかしら。」

「にゃにゃっ!(はーい!)」

あのブチ猫は「咲」という名前なのか。でも、 確かこの猫は野良猫だって猫菜が言っていたが・・・。「咲」というのは、猫菜つけた名前なのだろうか。

「にゃーにゃ、にゃ〜。にゃ・・・にゃ。にゃにゃ!にゃー!にゃ〜!(最近、この辺りで痴漢魔が出没するらしい。それも、ほとんど気づかれないように女性の身体に触れる歴戦の戦士(?)。何人か犯行に気づいた娘もいるみたいだけど。ことごとく逃げられてるっぽい。・・・痴漢は現行犯じゃないと捕まえられないじゃないから、もちろん犯人は逃げてる。許せにゃい・・・。)」

「うん落ち着け落ち着け。語尾が猫すぎる。」

「にゃ。(猫ですから。)」

「やかましいわ。」

この初めての絡みとは思えないボケとツッコミ。「波長が合う」とはこういう事を言うのだろうか。「咲」・・・といったっけ。もしこのが人間だったら、今頃、良い友達になっていそうなものだ。

「・・・うーん・・・。確かに、その痴漢魔とやらは放っておけないわね。実際に、『目黒 猫菜』として生活している時の知り合い・・・アナベルや華ちゃん、茉莉ちゃんにまで被害が及ぶ可能性だって、十二分にある訳だし。これは早急に手を打たないと・・・。」

「確かにな。・・・もし実際に皆光学園の生徒にも被害が及んだら当然、校内でも騒ぎになる。そうなったら、猫菜がチートパワーで犯人を捕まえるのが難しくなる・・・そういう事だろ?」

「にゃ?(なんで?)」

「そりゃあもちろん、その騒ぎについて注目する人が多ければ多いほど、猫菜がチートパワーを使ってその痴漢魔を捕まえる際の影響に気づく可能性のある人だって当然増える訳だ。そんで、もし、その中にいる勘のいい人間が猫菜の正体に気づいた・・・それには及ばなくとも、疑ったら?猫菜だって当然、姿を現しにくくなるだろ。神として、身バレを恐れるのは当然の事だろうしな。」

「にゃ・・・(そっか・・・)」

「ええ。私としても、身バレだけは絶対に避けなければならない。その上で、皆光(学園)の生徒にも被害が及んで騒ぎになる前に痴漢魔を何とかする方法・・・。何かないかしら・・・。」

「チートパワーは?」

「チートパワーといっても、対象がわからない以上は力の使いようがないの。犯人さえ特定できれば、ある程度の攻撃も、大雑把な探知だってできるんだけど・・・。」

つまり、現時点では猫菜のチートパワーもほとんど役に立たないという事か。これは面倒な事になった。探知か何かができればと思ったのだが、これでは情報が少なすぎる。

「えーと・・・とりあえず、まずは情報収集から始めないか?犯人の特徴も『隠密行動が得意な逃げ足の速い痴漢魔』って事しか判ってないんだろ?」

「にゃあ。にゃにゃ。にゃ〜。(そうねぇ。このヒントだけで、土地勘がある・・・もしくはこの辺りのことをよく調べた人って事くらいは分かるけど・・・逆に言えば、それくらいよねぇ。)」

「にゃあ・・・(儂もそれが良いと思うんじゃがなぁ・・・。)」

「確かにそうね。先走りたい気持ちも分かるけど、今はまず、犯人を割り出すことから始めましょうか。」

「にゃ。(ん。ボク達の行動力と情報網にかかれば、犯人なんてすぐ見つかる。)」

・・・というわけで、俺と猫菜を中心とした猫集会メンバーはしばらくの間、例の痴漢魔について情報収集をする事になった。とは言っても、俺のやる事は身近な人にその騒ぎについて聞いたり、ニュースや新聞、その他巷の噂などに耳を傾けたりするだけだが。

ちなみに、猫菜がくれた霊視のお札と猫語自動翻訳能力だが、お札の方は、「神と関わっている以上、霊的な何かが起きないとは限らない」という事で、猫菜が1週間分(予備込みで14枚)の霊視札を渡してくれた。また、猫語自動翻訳能力に関しては、猫菜が半径10m以内に居ないと自動翻訳のテレパシーがうまく機能しないらしく、使えないようであった。ちょっと残念。

さあ、早速、帰ったら茉莉に痴漢魔の事を聞いてみるとするか。痴漢される対象が当然ながら「女性」である以上、何か知っているかもしれないし。

〜午後5時〜

・・・しかし、久しぶりに真面目な話し合いをして消耗した俺は、結局、その事を茉莉に聞く前にベッドへダイブしてしまった。そしてもちろん、茉莉に何を聞くかすらも、とっくに忘れてしまっていたのだ・・・。

〜6月1日・午後6時 自宅・リビング〜

何か忘れている気がする。

俺は朝起きてから、学校にいる間も家に帰ってからも、ずっとそう思っていた。・・・もちろん、俺はまだ昨日の痴漢魔に関する聞き込みの事を思い出せていない。

そんな中、俺はいつも通りに学校から帰ってからしばらく眠った後、ニュースを観ながら茉莉と一緒に夕食を食べていた。

「今日のご飯はどう?兄さん。ちょっとハンバーグに隠し味でタネと和風ソースに生姜を入れてみたんだけど・・・。」

「うん!スッキリしてて美味いぞ!!それにしても・・・毎度のことながら、スーパーで売ってるフツーの材料しか使ってないのに、何でこんな味が出るんだか・・・。お前、ホント凄いよ。」

「えへへ・・・手間も愛情もたっぷり込めてるからね。兄さんのために。」

「うわ、あざとっ」

「た、たまにはこういうアピールも大切だって、テレビで・・・。」

・・・こういうのってフツー、彼氏やら旦那やらに言うセリフだよな?茉莉は家族に対するアピールと恋人に対するアピールを混同しているのだろうか。まあ、とんでもなく可愛かったからこちらとしては大歓迎だが、一歩間違えれば魔性の女と勘違いされかねないアピールだった(ド天然故に)。

「・・・茉莉。お前、将来苦労しそうだな。」

「え?何で・・・?」

茉莉はポカーンとしている。ホラ、こういうところが天然なんだっての。

「あ、そうだ、兄さん。知ってる?最近、この辺りの路線で痴漢が多発してるんだって。」

!!!?思い出した!思い出したぞ!そうだ!その話題だ!ずっと気にかかっていた事だ!まさか質問しようとしていた人の方から気づかせてくれるとは!ラッキー!ありがとう、神様仏様茉莉様〜!

「ああ・・・そういやそうらしいな。俺も今日、学校で猫菜から聞いたぞ。お前も気をつけろよ?マジで。あと、何か知ってる事があったら教えてくれ。猫菜が気になってるらしいから。」

「分かった。心配してくれてありがとう、兄さん!」

「いや、妹の心配くらい大体どこの兄でもするだろ。」

「でも・・・ありがとう。」

「・・・ま、可愛い妹に感謝されて悪い気はしないけどな!ハッハッハ」

「むぅ・・・さっき、私に天然って言ってたけど・・・兄さんも大概だよ・・・?」

「俺が?天然?」

「うん。」

自覚は全く無いのだが・・・俺って天然・・・なのか?

うーん、自分から先に言っておいて言うのもなんだが、天然って何だっけ。

「俺はただ、思ったことを口にしてるだけなんだけど・・・」

〜午後10時〜

俺は夕食を食べ終えた後、茉莉と少し話してから自室へと戻った。お腹が満たされた事により襲ってきたとんでもない睡魔に身を任せて、俺はベッドへと倒れこむ。疲れているせいだろうか。いつも寝ているふかふかのベッドが、今日は一段とふかふかに感じた。

せっかく茉莉に思い出させてもらったんだし、明日以降も痴漢魔の事、忘れないようにしないとな・・・。ふぁぁ・・・。

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