第9話 パワーバランスガバってますよ

〜5月31日・午後3時 猫間神社・境内〜

今日は土曜日。特にやる事もなく、俺は数時間前に目覚めてからベッドでごろ寝していたのだが・・・。つい数十分前に、猫菜からこんなメールが届いたのだ。

「来兎君。猫は好き?」

そして、そのメールを開いた俺の第一声がこちら。

「へ?」

・・・さすがに突然、猫の神である猫菜に「猫は好きですか」と言われたら、何か裏があるのかもしれないと思わざるを得ないだろう。ちなみに、猫は大好きだ。記憶を失った原因は、俺が猫を助けるために窓から飛び降りたからだと聞かされたし(プロローグ参照)。そしてもちろん、猫形態の猫菜を愛でるのも大好きである。いくら中の人(?)が猫だからとはいえ、ベタベタするのはさすがにはばかられるから人間形態の時はそんな事しないが。しかし、そんな思わせぶりな言い方をしてきたのだ。メールの真意も知りたいし、これはぜひとも行かなければならないという事で、俺はこうして猫間神社で猫菜と待ち合わせする事にした。そして、今に至る。

「ふぁぁ・・・待たせたな、猫菜。」

「ごめんね、突然の呼び出してしまって。ところで・・・メールでも送ったけど、猫は好きかしら?」

「ああ!大好きだ!顔も毛も仕草も、どれも見てるだけで癒されるんだよな〜。」

「ふふっ。ありがとう。猫として嬉しいわ。・・・さて、本題に入るわよ。今日はそんな猫大好きな来兎君に朗報があって来たのよ。」

「朗報?」

「ええ。・・・この辺りの猫が最近、私の存在を感知してかなのかは知らないけど、週1ペースで黄昏時たそがれどきになると、この神社に集まるようになったの。」

なるほど。黄昏時に猫が神社に集まる・・・といったら、アレしかない。

「つまり、猫間神社では最近、夕方に猫集会が行われてるって事だな。」

「ええ。ご名答よ。でも、皆の会話を聞いていると、ちょくちょく不穏な言葉を小耳に挟むの。だから、来兎君。自動翻訳術をかけて猫と会話できるようにしておくから、ここは人間代表として、ぜひとも今日の猫集会に参加して、人間サイドの意見とか、人間ならではの斬新なアイデアを提供して欲しいの。」

「おう!!任せとけ!」

「ありがとう。じゃあ、みんなには会議の時に紹介するわね。」

・・・「任せとけ」とは言ったものの、時刻はまだ午後3時。黄昏時まではもう少し時間がある。

という訳で、猫菜には久々に猫形態になってもらい、俺の膝枕の上で寝てもらった。そしてこれまた久々に身体を撫でながら、2人きりでしか話せない事を話す事にした。

〜猫菜との会話〜

「そういや、久々だな。こうやって猫の姿に戻ったお前を撫でながら喋るのなんて。」

「そうね。ふふっ。・・・来兎君、本当に撫でるのが上手ね。」

猫菜はあくびをして、再び俺の膝枕に寝転がった。

「ま、動物を愛でている時はその動物にもリラックスして欲しいからな。多少はそういうテクニックも勉強したんだ。・・・つーか、そういうお前も、出会った時からいっつも毛並みサラサラだよな。人間に化けてる時のサラサラヘアーも多分それが反映されてるんだろ?」

「ええ。毛並みは猫にとって数少ないオシャレな手段だから、猫はみんな自然と気を使うのよ。」

「へー。猫にもオシャレってあるんだな。」

「人間のオシャレと同じものだと思っていいのかはわからないけど・・・一応、ね。ふふっ。でも・・・私のこと、ちゃんと見てくれてたのね。嬉しいわ、来兎君。」

「ま、友達の変化くらい見抜けないとな。・・・デリカシーはそれなりにわきまえて発言してるつもりだけど。」

「うん、それで良いと思うわ。人間の女の子メスに『太った?』は禁句だもの。」

「だな。猫と違って人間の女子はそういうところ、いろいろ気にしてるみたいだし。・・・人間の『乙女心』というものは難しいわね。」

「だな。」

こうして俺達は久しぶりに「猫と人間」として、日向でまったりと喋っていた。猫菜が人間に化けて登校しているというこの状況に慣れるうちに、いつの間にか、猫菜が猫であるという意識が麻痺していたようだ。でも、たまにはこうやって、文字通り「素」で他愛のない話をするのも悪くないと思った。

〜午後4時〜

そんな事をしているうちに、いつの間にか時刻は午後4時を迎えていた。猫菜曰く、そろそろ猫が集まってくる時間らしいが・・・俺の視界には2、3匹くらいしか見当たらない。「猫が集まって来る時間」と言う割には数が少ないような気がする。境内は全て俺の視界に入っているはずだが・・・。

「なあ、猫はまだ2、3匹しか勝てないのか?」

「?もう10匹くらいは来てるけど・・・。」

「え?」

「え?」

「「・・・。」」

・・・猫菜からは視えて、俺からは視えない猫?どういう事だ?

「ああ、そういえば・・・来兎君は生きてる猫しか視えないんだったかしら?」

化け猫かよっ!そりゃよっぽどの霊感が無きゃ視えねーだろ!

「生きとし生けるものは基本そうだけどな。つーか、化け猫も参加するんだな。猫集会って。」

「もちろんよ。・・・というか、来兎君、化け猫って聞いてもあんまり驚かなかったわね。」

いやそれ、お前が言うか?

「・・・目の前に猫の神がいる状態で平静を保てているんだからただの化け猫なんざ序の口に決まってんだろ」

「ふふっ。それもそうね。」

「でも・・・ただの猫でさえ、お前の力を使わないと話せないのに、俺から視えない化け猫とはどうやって話をすりゃいいんだ?」

「うーん・・・なら、私が作った『霊視の札』を左手に貼って。そうすれば、幽霊や妖怪も視えるようになるわ。そうすれば、あとは私の力で猫語を自動翻訳できるようにしておくから。」

そんなものまであるのか。神のチートパワーとやらは本当にとんでもない力ばかりだ・・・。人間の叡智がちゃっちく思えてしまう程に。

「つくづく何でもアリだな、お前。」

「一応、私も神様の端くれだから。」

「・・・それを言われちゃあ、もう全部説明がついちまうよな。じゃ、よろしく。」

「分かったわ。『もにょもにょもにょもにょもにょもにょ・・・(聞き取り不能)』フシャーーーッ!!!」

そして、猫菜は俺の左手にお札を貼り付け、呪文のようなものを唱えて一時的に俺が霊視できるようにしてくれた。

「・・・これで、このお札を左手から剥がすまでは霊視ができるようになったはずよ。辺りを見回してみて。さっきまで視えていなかった『霊気を纏った猫』が何匹もいるはずだから。」

俺は周囲を見渡す。・・・確かに、先ほどと比べて猫の数が倍以上に増えていた。そして、その増えた猫・・・いわゆる化け猫達はみんな、周囲にオーラのようなものを纏っていた。これが、おそらく猫菜の言っていた霊気というやつだろう。

「へぇ・・・みんな、霊気のせいで露骨なまでに『THE☆化け猫』って感じだな。」

「ええ。霊気は自身がどのくらい強力な霊であることを示すためのオーラだから。『神』になれば、私のように霊気を隠すこともできるけど・・・。ここにいるみんなは、周囲に望まぬ影響を与えるほどに強力な霊ではないわ。」

「ふーん。・・・って、今、2つほど気になったワードがあったんだが。」

「何かしら?」

「まず1つ目は、周囲に望まぬ影響を及ぼす霊気の事だ。・・・霊気が強力すぎると、やっぱりその霊がいるフィールド全体に及ぼす影響みたいなのってあるのか?」

「ええ。あるわよ。それが良い影響か悪い影響かは霊によって違うけど。」

「やっぱあるんだな・・・。」

心霊番組に出演している霊媒師が言っている、特定のオブジェクトにではなく「場所そのものに霊が憑いている」という話は、そういうことを言っていたのだろうか。その場の何かに憑いていた霊1体の霊気がその場所全体に及んで、その影響が・・・。と考えると、霊の力がいかに末恐ろしいものかということを思い知らされる。

「で、2つ目。猫菜。お前、自分の霊気は隠してるって言ってたけど・・・。隠さないでいると、どんくらいのものなんだ?」

「うーん・・・少なく見積もっても、本気を出せば半径1km圏内は私の霊気による影響を受けることになるわね。」

「い、1キロ!?」

「1キロ。といっても、別に悪い影響は無いから大丈夫よ。私の霊気の効果は、ただの身体能力倍増だから。」

またゲームみたいなことを。まったく、猫菜はどこまでリアルパワーバランスクラッシャーなんだ・・・。本当にこの世界にいていいのか?コイツ。

「・・・。もういろいろケタ違いすぎるから、『神だから仕方ない』で片付けるけど・・・。お前、ホントヤバいな。」

「だから、できる限り周囲に影響を及ぼさないように力を抑えてるの。・・・霊視ができるようになるお札を生成するのも、力の片鱗といったところかしらね。ふふん。」

「もうツッコんでやるものか」

「まあ、これからも何かあったら言ってね。・・・私、来兎君の頼みなら、何でも聞けるから。」

「おう、頼りにしてるぞ、神様。」

もう会ってから半年以上経っているにもかかわらず猫菜の力をまだ知りきれていなかった事に若干の衝撃を受けたが・・・。猫菜はやはり頼もしい存在なのだと、改めて実感させられた。よくよく考えてみれば、友達が神って・・・かなりレアケースだよな。いつもありがとう、猫菜。

〜午後4時30分〜

日が沈んできた。空が赤く染まり、日本は黄昏時を迎える。DI市の中心付近に位置する猫間神社では、今週も猫集会が開かれていた。今回も、猫の神である猫菜を中心として、野良猫4匹・化け猫4匹・地域猫2匹・飼い猫(会議中のみ脱走している)2匹の計12匹の猫が参加していた。

「・・・さあ、そろそろ始めましょうか。『黄昏の猫集会』を。」

うーん。名前が少し中二病臭いが・・・。実際にそうなのだから仕方がない。

「にゃー。にゃー・・・?(オイオイ。あの人間、誰だ?誰かの主人か?)」

「にゃぁぁ・・・。(もしかして、ボク達を攫いに来たんじゃ・・・)」

「にゃ?にゃあ!にゃにゃ〜!(でも、猫菜さまのお連れさんなら心配しなくてもいいと思うわよ!)」

案の定、猫達がザワついている。まあ、猫集会に人間が参加するなんて、本来ならありえないもんな。

「みんな、落ち着いて。・・・紹介するわね。この人は『坂下 来兎』君。私の恩人なの。今回は人間である来兎君の意見を交えながら、いつもとは違う視点で地域の問題に向き合おうと思ったから呼んだのよ。」

しかし、猫菜が俺の事を紹介した瞬間、混乱はすぐに解消した。・・、やはり猫菜は神だけあって、猫からも相当な信頼を得ているようである。

「にゃん!にゃーん?(アンタが噂の『来兎君』か!会えて嬉しいぜ!)」

これは・・・俺のそばに寄ってきた三毛猫の声か。自動翻訳って凄いな・・・。この三毛猫が「にゃーん」と鳴いた瞬間に、脳内に翻訳された言葉が思い浮かんでくる。それも、全く違和感の無い文章で。

「にゃ〜。にゃにゃっ!(つい数年前まで人間嫌いだった猫菜さまが、まさか人間と直接関わるなんて思ってもみなかったけど・・・最近の猫菜さまが生き生きしていて何よりよ。)」

・・・ここで、気になる情報が耳に入った。数年前まで人間を嫌っていたって・・・どういう事だ?

「みゃん。にゃ、にゃん。(それに・・・あの猫菜さまが苦手どころか、会う度に『来兎君、来兎君』って話し始めるくらい懐いちゃう人間がこの世界にいたなんてねぇ。)」

え・・・?

「ちょ、ちょっと!それは言わない約束よ!?」

「にゃにゃ〜ん!(もう、照れちゃってぇ!)」

「っ〜!は、早く始めるわよ!」

猫菜の顔が火照っている。いつも大人びた印象の猫菜が照れるなんて珍しいが・・・人間に懐いている事がそんなに恥ずかしかったのだろうか?そこも含めて、後程、俺と出会う前は人間に対してどんな印象を抱いていたのか聞いてみるとしよう。それにしても、照れた時の猫菜が、いつもの落ち着いている猫菜とのギャップのせいですごく可愛く見えてしまう・・・。

日がさらに沈んできた。・・・雑談はこのあたりで締めて、そろそろ本題に入らなければ。猫達もみんな色々なネタを仕入れてきたらしいし、すぐにでも始めないと、日が沈みきってしまいそうだ。(・・・仮にそうなると空気中の霊気が足りなくなって、化け猫達が丑三つ時までロクなコミュニケーションをとることができなくなるため、あえなくその週の集会は中止になってしまうのだとか。)

一体、この色々な意味で多種多様な猫達から、どんな話が飛び出すのだろうか・・・。すごく楽しみだが、その反面、「多種多様」という言葉の重み(友人が神様だったり組長の娘だったり)を知っている俺にとっては、実はすごく不安でもあったのだった。

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