第6話 波乱!はじまりの体育祭! 前編

〜4月28日・午前7時 自宅・玄関〜

あのお泊まり会からもう2週間が経った。学校にも慣れ、眠り続けて過ごした土日がまた終わって今日からまた、眠気との闘技場とも言える学校での生活が再開したのであった。

そんな中、俺達にとって高校生活最初のビッグイベントとも呼べる行事が今週の土曜日に迫っていた。そして、そのビッグイベントとは・・・何を隠そう、体育祭である。そしてまさに今、まさにその出場種目を決めるクジをやっていたところなのだ。一年生の種目は、「リレー(男女混合)・綱引き・障害物競走」だが・・・正直、俺はどれでも良い。別にどの種目でもそれなりにこなせる自信はあるからな。

「来兎!!来兎は何になった?」

隣の席に座っているアナベルが、俺の種目が書いてあるカードに手を伸ばす。

「ああ。見たら分かると思うけど、俺はリレーだった。」

それも、20人中13番目とかいう何ともビミョーな順番で。

「ホント!?私もだよ!来兎!一緒に頑張ろうね!!」

「お、マジか。・・・そうだな。たまには後遺症の事なんか気にせずに、思いっきり疲れてみるのもいいかもしれないな。」

「うん!それが良いよ!」

・・・一般人よりも多くの睡眠を必要とする俺は、それなりに疲れやすくもあるわけなのだ。そこが唯一、運動会で心配な点だったが・・・まあ、どうせ途中に先輩達の出番が入ってくるだろうし、その間に寝ていれば問題無いだろう。

「へぇ。2人とも、リレーなのね。」

猫菜が自分の種目カードを俺の机に置き、これから戦場に向かわんとする軍神のような表情を見せた。

「・・・何だ、猫菜・・・。珍しくテンション高めだけど。」

「猫菜は何の種目になったの?」

「私は障害物競走よ。」

「へぇ!!猫菜ちゃん、スタイル良いからそういうの得意そうだよね!」

「スタイルは関係ないと思うけど・・・。」

むしろ胸と身長のせいで不利そうだが。・・・「身のこなしが綺麗そう」とでも言いたかったのだろうか。それとも・・・皮肉?でも、アナベルってそんな上手い事を言えるくらい頭良かったか・・・?・・・いや、ただ純粋に聞いただけか。

「安心して。来兎君。猫だから障害物を避けて移動する事は大得意なのよ。(テレパシー)」

「あー。(テレパシー)」

確かに、いつも障害物だらけの世界を動き回っている猫にとって、競技用として意図的に用意された障害物を乗り越える程度の事は造作も無いだろう。

「・・・ま、お互い、頑張ろうぜー。」

「そうね。」

「うん!!」

こうしてあっという間に時は過ぎ、気がつけば、体育祭当日になっていた。



・・・ちなみにその後の休み時間に桃矢と遭遇した際に、桃矢の種目が俺やアナベルと同じリレーで、それも、俺と同じ13番目という事を聞かされた。・・・アイツ、スポーツ万能だから戦いたくないんだけど・・・。まあいいや。

〜5月3日・午前8時 皆光学園・グラウンド〜

「(略)それでは!これより皆光学園体育祭を開催致します!」

こうして、張り切った校長の長い挨拶と共に高校生活最初の体育祭がスタートした。

さすがに土曜日だからか、我が子の勇姿を見に来る保護者も多いみたいだ。もちろん、茉莉と華も来ていた。保護者じゃないけど。

と、元気よく始めてもらったは良いが・・・。しばらく、俺達の出番は無いんだよなぁ。最初の競技は、確かに高校一年生なのだが・・・綱引きだからなぁ。残念ながら、俺とアナベルも猫菜も出番では無いのだ。というわけで、俺達は一年D組俺達のクラスに振り分けられたブルーシートで待機する事にした。俺はこの隙にあわよくば寝ようとしていたが・・・当然、そんな事は状況が許してくれない訳で。茉莉と華は、その後すぐに俺達の座っているクラスのブルーシートまでやってきた。

「兄さん!来ちゃった。」

「おっす、センパイとそのご友人方〜。」

「やあ、来兎クン。今日の戦いのご挨拶に来たよ。」

茉莉と華、そして桃矢がブルーシートに来て、アナベルや猫菜と話し始めたのだ。当然、俺はその横で寝れる訳がなく、どうせならと、俺も会話に参加した。

「今日は兄さんのためにお昼ご飯も作ってきたんですけど・・・。ちょっと作りすぎちゃったので、みなさんも良かったら食べてくださいね!」

「おお、持ってきてくれたのか。」

「ま、茉莉たんのごごご、ゴハン・・・。ぐほぁ」

「ふふっ。楽しみね。・・・じー。」

終了時間がギリギリ昼飯をわざわざ昼休みに食わなくても良いくらいの時間だったし、飯は家に帰ってからゆっくり食べようと思ったし、特に用意していなかったのだが・・・。まさか、茉莉が持ってくるとは。まあ、外で食べる飯も悪くないかもしれないな。茉莉の飯はいつどこで食っても美味い事には変わらないし。まあ・・・1名、平静を保てていない奴がいるが。そしてその桃矢を猫菜がめちゃくちゃ蔑むような目で見ているのがまたジワジワくるんだよな・・・(笑)。

と、そうこうしているうちに猫菜はどこかへいなくなり、高一の障害物競走が始まってしまった。あ、そういや猫菜は障害物競走に出るんだったっけ。猫菜がいつの間にかいなくなっていたのも、そういう理由だったのか。

猫菜は俺達の座っているブルーシートに向かって手を振っている。どうやら出番がもうすぐらしい。

「猫菜!頑張れよ!!(テレパシー)」

「ええ!期待して頂戴。(テレパシー)」

俺はテレパシーで、猫菜にちょっとした応援の言葉を送った。これなら他の生徒に、「お?女子の応援か?お前、あいつに気でもあんのかよヒューヒュー」とか言われずに済むし、テレパシーは本当に楽だな。

「兄さん?起きて。もうすぐ猫菜さんの出番だよ。」

茉莉が俺の肩を揺すってきた。・・・テレパシー中だったんだけどな・・・。

テレパシーは若干の集中が必要なため、テレパシー中の俺は、他人から見るとボーッとしているか、もしくは寝ているかのように見えてしまっているらしい。いくら妹とはいえ、「バラす事」を許可されていない人に猫菜の事を話すわけにもいかないし、寝ていたという事にするが。

「ふぁぁ・・・眠っ・・・(大嘘)。お、猫菜、次の次じゃんか(知ってる)。」

「猫菜さん、勝てると良いね。」

「ああ。」

・・・ここまでは普通の体育祭だった。普通の会話、普通の待ち時間、普通の競技。全て普通だ。俺のテレパシー以外は。しかし・・・そんな普通の日常も、ここまでだった。今の俺は、これからコメディものの洗礼を食らう事など、知る由も無かったのである。

「あのー、来兎センパイ、茉莉。イチャついてるとこ悪いんスけど、この「ブーさん」、何とかしてくれないっスか?」

「ブー?」

「そんな人いましたっけ・・・?」

「華ちゃんがつけた桃矢のあだ名ニックネームだよ!いっつも茉莉ちゃんの事見て鼻血出してるから『ブーさん』。可愛い名前でしょ。」

実際はイケメンの皮を被った変態だけどな。

「このヒト、茉莉の料理って聞いた瞬間に鼻血をポンプ車のごとく大噴射したじゃないスか。」

「それでね、さっき桃矢の姿を見たら・・・気絶してたの。すっごく幸せそうな顔をして。」

はぁ。いつまでも懲りずに鼻血出しやがって。全く・・・。

「起きろオラァァァンッ!!猫菜の出番だぞっ!!」

「ごへぁ!」

俺は寝ている桃矢をボディプレスで無理矢理起こした。・・・本当はもっと平和的に起こしたいものだが、こうなってしまった桃矢は、ちょっとやそっと揺すったくらいでは起きないのだ。

「ゲホッゲホォ!ふぅ・・・相変わらず来兎クンは手荒だねぇ。」

「お前が揺すっても起きないからだろ」

「ドンマイっス、桃矢センパイ。」

「桃矢さんが貧血にならないか、つくづく心配です・・・。」

そう言ってるけど、原因の一部は残念ながら茉莉なんだよなぁ。別に茉莉はは何も悪い事してないけど。これが本当の「罪な可愛さ」というやつなのだろう。

「大丈夫だよ茉莉たん、貧血なら慣れてるから」

「慣れていいのか、ソレ・・・。」

「さあ、私の出番ね。改めて、応援よろしく。(テレパシー)」

分かってるっての。どんだけ応援して欲しいんだよ、猫菜の奴。・・・猫ってもっとツンデレじゃなかった?

「頼むぜー!!猫菜ー!(白目)」

・・・なんか癪に障ったから白目で応援する事にした。俺は友人の出番すら覚えられないニワトリ頭だとでも思われてるのか・・・?催促なんざしなければ良かったものを。帰った後のご褒美ネコカンはワンランク上のものにしてやろうと思っていたが・・・やーめた。

「ちゃんと黒目でこっちを見にゃしゃいっ!!(テレパシー)」

わかった。わかったから。喋るならちゃんと日本語で喋ってください。猫語を織り交ぜるんじゃない。

「はいはい、見るから。早くスタート位置についてやれ。(テレパシー)」

みんな迷惑そうな顔でガン見してるだろ。察せ。

「ふぅ・・・心配ね。(テレパシー)」

「お前がな。(テレパシー)」

「私の圧倒的な実力d(テレパシー)」

「それでは用意!ドン!」

そして空気を読まないスターターピストル。猫菜氏、本当にお疲れ様です。

さて、早速猫菜の番がスタートしたわけだが・・・身のこなしが他の生徒とは雲泥の差だ。緑色のネットを這って潜り抜けるギミックや平均台、ハードルだって、臆する事無くスムーズに走り抜けていき、そのまま、あっという間に1着でゴールしてしまった。

「ふぅ。どうだったかしら?(テレパシー)」

「人間業じゃなかった。ナイス。(テレパシー)」

恐るべし、猫の運動神経。

猫菜がこちらに向けて手を振っている。・・・やっぱり本当は人間大好きなんだな、猫菜は。クソガキに襲われてた時はちょっとビクビクしていたが・・・。猫菜のトラウマが消えてきたようで、俺としては障害物競走の結果よりも、そっちの方が嬉しかった。

そして数分後、障害物競走の結果発表が終わり、猫菜がブルーシートに戻ってきた。ちなみに順位はどうなったかというと、猫菜がぶっちぎりのスピードでゴールしたことにより、みんなの士気が上がりまくったおかげなのかほぼ全員が1着か2着でゴールして、見事、1位という結果を残すことができたようだ。

「猫菜クン、さすがだね。」

「まあ、自身が無かったと言えば嘘になるわね。昔(神様じゃなくてただの猫だった頃)からああいうのやってるから、得意なのよ。」

会話はかみ合っているのに「昔」という言葉の規模が違いすぎる。・・・こういう話を聞くと、やっぱり猫菜は神様なんだなと、再確認してしまうものだ。・・・まあ、相手が神様だろうとツッコむところはツッコむけど。

「猫菜さん、お疲れ様です!あ、そうだ。スポーツドリンク多めに持ってきたんですけど、要りますか?」

「頂くわ。ありがとう、茉莉ちゃん。」

相変わらず茉莉は気配り上手だな。きっと将来は良いお嫁さんになるだろう。兄の俺が思っているんだからきっとそうだ。・・・ちなみに、ついさっき俺は猫菜とテレパシーで会話している最中にスターターピストルが鳴った際に「お疲れ様です」と煽ったが、茉莉の言っている「お疲れ様です」は、きちんと本当の意味での労いの言葉だから、勘違いしないように。

「よーっし!これであたし達の勝利に一歩近づいたねっ!!」

「だな。・・・ま、他学年がしくじったらパーになるけど。」

どうせ、他学年に猫菜クラスのチートキャラはいないだろうし。

「ねえ、来兎君。(テレパシー)」

「ん?どした?(テレパシー)」

「私の力で各学年のD組連中に1.1倍の身体能力補正をかけたいと思うんだけど、良いかしら?(テレパシー)」

「・・・猫菜、スポーツマンシップって知ってるか?(テレパシー)」

しかも、1.1倍とかいうギリギリバレなさそうな程度に力を抑えようとしているあたりがまた巧妙だ。

「私の持っている力を正当に生かすだけよ?(テレパシー)」

「言葉の綾をとるドクズ猫(テレパシー)」

「・・・ダメなのね。分かったわ。(テレパシー)」

「そりゃあな。人が持てるレベルの力じゃないし。あの運動神経はまだ許容範囲だとしても、さすがに神様特有のチートパワーは使用禁止だろ。(テレパシー)」

「そうね。来兎君がそう言うならやめとくわ。(テレパシー)」

その後、俺達はまたしばらくお暇タイムに入った。高一のリレーは昼飯の後だし・・・。しばらく寝・・・

「来兎君。起きて。」

「来兎センパーイ。寝ちゃダメっスよ〜?」

「またしばらくあたし達のおしゃべりに付き合ってもらうからねっ!」

「兄さん・・・ドンマイ。」

れませんよねー。ふぁぁ・・・眠い。

昼まで暇だな。知らん奴らとか先輩達とかの競技なんか見てても面白くないし・・・。

ああ、暇だ・・・。


後編に続く

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