第4話 とある休日

〜4月12日・午前9時 自宅・リビング〜

今日は土曜日。できればずっと寝ていたいところだが・・・今日は、中一からの付き合い、記憶喪失直後も、アナベルと一緒に俺の記憶を取り戻そうとしてくれた親友である「葛飾かつしか 桃矢とうや」と、へ出かける事になっているのだ。桃矢曰く、テキトーに遊びたいのだと。

〜午前9時30分時 DI駅西口前・口のオブジェ〜

という訳で、俺はいつものように茉莉が作ってくれた朝食を食べ、服を着替えて駅前へ向かった。そういえば、茉莉も街へ出かけると言っていたが・・・男か?男なのか?・・・少々気になるが・・・。そこについては考えない事にした。そして俺はDI駅付近にある口に似たオブジェの前で、桃矢と合流した。

「やあ。来兎クン。僕はA組だったから、あんまり話す機会が無かったけど・・・久しぶりにこうやって話せて嬉しいよ。」

この、「イケメン」という言葉を具現化したら出てくるような美少年が、俺の親友である「桃矢」である。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、そして優しい。・・・本当に、「イケメン」そのものだ。さえ無ければ。

ちなみに、「桃矢」という名前の由来は、「人の頭の上に乗せられた桃を弓で射抜いた人物ように、物事を的確に判断できる人になってほしい」という想いが込められているそうだ。

・・・桃じゃなくて、それは林檎だと思うが・・・。そこはツッコまないでおいてやろう。自分の名前が、自分の親の無知を晒すようなものだと知ったらショックを受けるかもしれないしな。

「桃矢も相変わらず元気そうじゃねえか。D組にはアナベルもいるし、たまには遊びに来ても良いんだぜ?」

「ああ。もうちょっと時間が経って、みんなが学校に慣れて雰囲気がユルくなってきたら、ぜひ遊びに行かせてもらうよ。新年度に入って早々、他のクラスの奴が来たらみんな驚くだろう?」

「それもそうだな。じゃ、とりあえず・・・」

「「ゲーセン行こうか。」」

〜午前9時40分 ゲーセン〜

俺と桃矢はゲーセンへ行き、「1時間UFOキャッチャーをプレイして、どちらが多くの景品をゲットできるか」という戦いを始めた。そして、1時間後・・・。

〜午前10時40分〜

「・・・さあ桃矢。戦利品手に入れたものを見せてもらおうか。」

「そうだね。来兎クン・・・。いくよ。」

「「はいっ!」」

「俺は『ひよこのクッション』・『魔法少女ハルのフィギュア』・『ハリネズミのぬいぐるみ』だ!」

「僕は『焔のおとこのフィギュア』・『7のキーホルダー』・『輸血パックくんのぬいぐるみ』さ!」

「「ぐぬぬぬぬぬぬ・・・」」

何だこの不毛な戦い・・・。っていうか誰だよ、「輸血パックくん」って・・・。

「さあ、続けていくよ!!」

「オーケー!あと1時間追加だな!!」

「「うおおおおおおお!!」」

〜午前11時40分〜

「ぜぇ・・・はぁ・・・」

「はぁ・・・おrrrrrrr」

さすがに頑張りすぎたか・・・。UFOキャッチャーに魂を注ぐなんて・・・久々にやった気がする。

「どぅはー」

「ぐえー」

クッソ疲れた。ただ、すごく疲れた。

「以外と、UFOキャッチャーって集中力使うんだよなぁ・・・。」

「ああ・・・さすがに頑張りすぎたねぇ・・・。」

「・・・じゃあ早速、追加した1時間で手に入れたものの結果発表だ!」

「望むところだよ。今回こそ僕の方が上手い事を証明してみせよう!!」

「「これが 俺/僕 の戦利品景品だっ!!」

俺がこの1時間で手に入れたものは、「すごくつよそうなゆうしゃのふぃぎゅあ」(←平仮名表記だからすごく読みにくい)と、「麩菓子1m」だ。片方は、俺が何気に好きで録画しているミニアニメ、「すごくつよいゆうしゃのすごくつよいひび」に登場する主人公のフィギュアだ。そして、麩菓子1mの方は・・・何で取ろうとしていたのか分からない。というか、よくもまあこの大きさでUFOキャッチャーの排出口に収まったな・・・いつ詰まってもおかしくねーだろ、この大きさなら。・・・さて、俺はこの麩菓子を賞味期限内で食べきれるのだろうか。

対して、桃矢が取ったものは、「偉大なる猫グレイトフル・キャットのぬいぐるみ」と、「ーBeーme30本入り」である。偉大なる猫・・・?聞いた事も無い。どこかで流行っているのだろうか。そして、頭の悪そうな名前の30本入りお菓子はというと・・・「Beme」という愛称で呼ばれている、1本20円の駄菓子で、かなりのロングセラーぶりで、駄菓子界の王者として君臨しているらしい。近くのコンビニでもよく見かける。

「・・・今回は引き分けみたいだね・・・。」

「だな・・・。」

結果は、取った物の数が一緒だったため、引き分けとなった。・・・別に何か賭けていたわけではないが、ちょっと悔しい。

集中力を使いすぎて疲れた俺達はゲーセンを出て、景品の詰まった大きなポリ袋を持ちながら、近くのラーメン屋である「らーめんおきな」へと入店し、そこでちょっと早い昼ご飯を食べた。・・・ちなみに、2人とも醤油ラーメンを食べたのだが・・・。その際、桃矢は何の見栄か、ラー油と唐辛子をラーメンにブッ込んで食べていたが・・・その時の表情がもう見るに耐えなかった。何してんだ、コイツ。

〜午後12時〜

「あー!美味かった!」

「かぺぺぺぺぺぺぺぺ・・・」

見ているだけで哀れである。何というか・・・お疲れさんです。

その後、俺達はカラオケで3時間ほどダラダラと過ごし、その後、近くをブラブラと歩く事にした。

〜午後3時30分・駅前アーケード街〜

「なぁ。」

「ん?」

「・・・お前もよな?」

「・・・もちろん。」

カラオケを出てすぐの辺りから、何かの気配を感じる。こんな街中だし、偶然同じ道を歩いている人の事を、「つけてきている人」だと勘違いしているだけかもしれないが・・・。

「「・・・」」

「しししっ」

笑い声?・・・何者だ?俺達をつけ回すなんて・・・。目的も何も分からないが、怪しいな。・・・後ろをチラッと見たい気もするが、「後ろを見る」という事は、「後ろにいる何者かに自分の顔を見られる可能性もある」という事だ。こちらがもし、つけてきている人物を視認できたところで、その際に顔を晒してしまったら、それはそれで面倒そうだ・・・。

〜午後3時40分 ひっそりとした呑み屋街〜

間違いない。この辺りは駅前でも、かなり人が少ない、ひっそりとした呑み屋街だ。それに、時間はまだ夕方に差し掛かっているかどうか・・・。こんな時間に空いている店など無い。

小さな足音が聞こえる。俺達以外に2人。忍足のつもりだろうが、「サクッ、サクッ」という足音が聞こえている。・・・子供か?いや、そんじょそこらの子供がこんなところまで俺達を尾行してくるわけが無い。なら誰だ?俺達に恨みがある連中?俺達のどちらか及び両方を恨むような2人組なんて知らないぞ・・・?

・・・ええい、もういい。ここまできたら腹を括ってその顔を見てやろう。ここは細長い一直線の道・・・途中には曲がり角も、隠れる事ができそうな場所も無い。そして、足音はすぐ後ろ・・・10m以内ぐらいの距離から聞こえる。チャンスは今しか無い!!」

「桃矢。3、2、1・・・で振り返るぞ。」

「わかったよ、来兎クン。」

「3、2、1・・・」

「「誰だッ!!」」

「ぶぱっ(後ほど説明しよう)」

俺と桃矢は、2人で後ろを振り返り、つけてきていた人物を視認した。

・・・そこにいた2人の顔は・・・とても見覚えのあるものだった。

「茉莉・・・」

「ぶはっぶふっ・・・。それに、キミは確か・・・来兎クンの後輩の・・・華ちゃん?だっけ?」

茉莉と華。俺達を30分以上もつけ回していたのは、茉莉と華だったようなのだ。

「えーと・・・何してんだ、お前ら。」

「途中で兄さんと桃矢さんを見つけたんですが・・・」

「せっかくなんで、尾行して、何分だったら気付かれるかって遊びをしてたんスよ〜。」

「迷惑すぎんだろ!!こちとら気が気じゃなかったっつーの!」

「ハハハ・・・」

さすがのイケメンも苦笑い。しかし、それよりも・・・ここでぜひとも紹介しておかなければならない、「アレ」の話をしようと思う。

「なあ。桃矢。」

「ん?」

「何でさっきから茉莉を視界に入れたがらない?」

「えっえっえっ、ソンナコトナイ、ソンナコトナイヨォ」

後半あたりの言葉が全部カタカナになっている時点でそんな事ない訳無いだろ。

「あと、鼻血。お前、とんでもない鼻血だけど・・・気づいてたか?」

「エッ?鼻血?・・・うおぁぁぁっ!?」

「やっぱり気づいてなかったのか」

「お?お?何スか?何かスケベなものでも見たんスか〜?ハッ・・・もしかしてアタシらのパンt・・・」

「大丈夫だ。コイツはもっとレベル高いから」

「レベル?何スかそれ?」

「あの・・・大丈夫ですか?桃矢さん?」

茉莉が桃矢の左手を握ろうと、右手を差し出した。

「ゴパァーッ」

「きゃっ!?ま、また鼻血が・・・」

「うん、今のは多分お前のせいだぞ、茉莉。」

「へ?兄さん?私、何か変な事したかな・・・?」

「茉莉・・・ちゃ・・・えへへ・・・」

こういう事だ。お察しの通り、桃矢は茉莉に気があるのだ。茉莉の方は気づいていないようだが。しかし・・・桃矢はその緊張と溢れ出る想いのあまり、姿や声などで、自身の周辺に茉莉がいる事を認識してしまうと、鼻血を出してしまうという謎スキルを持っているのだ。

「はぁ・・・とりまティッシュやるから、鼻に詰めとけ。ふぁぁ・・・何か眠くなってきたな。」

「桃矢さんは大丈夫なんですか・・・?」

「ダメージめちゃくちゃ入ってそうっスけど〜?」

「知らん。でも多分大丈夫だと思う。」

これ、シリアスな小説じゃないし。

「・・・。」

「さて、どうしようか。桃矢は鼻血ブーだし。茉莉、華・・・桃矢コイツ、どうする?」

「さすがに血ィ吹きすぎじゃないっスかぁ?」

「どうしましょう・・・?」

「病院にでも連れて行こうか?」

「「「どうしよう・・・」」」

「でええええええええーい!!大復活っ!!僕は大丈夫さっ!この程度の鼻血、屁でもない!」

「「「あ、戻った。」」」

「そりゃあ戻るよ!僕はこの程度で死んだりしないさ。(キリッ)」

「キメてるとこ悪いけど、現在も絶賛鼻血ブー中だぞ、お前。」

「それを言わないで欲しかったな」

「あー、なるほど、中三で初めて茉莉を見た瞬間に鼻血ブッ放して以降、ことあるごとに出してるからもう慣れてるんスねー。」

「慣れとか、そういうものは無いと思うけど」

「あのー・・・」

「ん?どうしたのかな?茉莉たん」

「「茉莉『たん』』!?うわキッツ!!」」

・・・さすがに桃矢ほどのイケメンでも、ここまで変態チックだと・・・。正直、若干引く。

「鼻血・・・大丈夫ですか?これ、詰めてください。」

あっ・・・茉莉が・・・茉莉が桃矢の手に、細長くしたティッシュを渡そうとしている・・・。これは・・・嫌な予感しかしない。

「茉莉!!離れろ!」

「え・・・」

茉莉に鼻血がかかってしまう・・・!こうなったら・・・

俺はゲーセンで取った景品の入った大きなポリ袋からこれまた大きな麩菓子を取り出して包装袋を破き、そのまま桃矢の顔面めがけて投げつけた。

「行けっ!1mの麩菓子ッ!!桃矢の鼻を塞げぇーーッ!!」

「ブプァぐぎゃんっ!?」

俺の投げた麩菓子は、ほぼ完璧なコントロールで桃矢の鼻に激突し、桃矢はそのまま驚いて少しだけ後ろに仰け反った。麩菓子はしっかりと桃矢の血を受け止め、その結果、茉莉には一滴たりとも血がかからずに済んだ。

「ふぅ・・・」

「うおー。センパイ、こりゃまたスゴいっスね〜。ナイススローっス〜。」

「キャーッ!桃矢さんの鼻血がぁっ!」

「けぺぺぺぺぺぺぺぺ・・・」

「・・・お疲れ。」

「乙っス。」

「あの・・・桃矢さんはどうすれば良いんだろう・・・?」

「放っとけ。少なくともお前は。・・・桃矢はお前が触るといろいろもおかしくなるから。」

「えっ!?私・・・?」

「いや、むしろ桃矢センパイの方がおかしいんスよ・・・」

「???」

「「世の中には知らない方が良い事もある」」

「は、はあ・・・。兄さんと華先輩がそう言うなら・・・。(きっと病気か何かなんでしょうね・・・。)」

心配そうにしているところ悪いが、残念ながら桃矢はただの変態なんだよなぁ・・・。まあ.この場で原因を言ってしまったら、桃矢の抱いている恋心を俺がゲロってしまう事になるから言えないけど。

「さあ、桃矢。そろそろお目覚めの時間だっ!!起きろオラァァァァッ!!」

「兄さん!?」

「へぶし!」

俺は桃矢の目元を思い切り引っ叩き、何とか目を覚まさせた。

「ハッ!!」

「大丈夫か、桃矢・・・(笑)」

「ぷぷぷ・・・と、桃矢センパイ・・・ぷぷ・・・ブハハハハハハハハハハハ!!!あー!もーダメっス〜!!こいつぁケッサクっスね〜!!アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」

女子とは思えないような笑い方・・・ダルそうな喋り方かと思えば、汚ねえ笑い方するんだもんなぁ・・・結構良い声なのに・・・。

「ふぅ・・・でもこれで一安心ですね。」

「茉莉た〜ん・・・キミだけだよ、僕をからかわないでいてくれるのは・・・大丈夫だ、僕はもうキミのお陰で元気さ。ありがとうね、茉莉たん。」

茉莉・・・ねぇ。鳥肌が立つな。・・・ただただキツい。

「そう・・・ですか?良かったです。これからも、兄さんと仲良くしてあげてください、桃矢さん。」

ああ・・・こうして考えると、そんな桃矢にも優しく接する茉莉は、本当に優しいんだなって痛感する・・・。頑張れ、茉莉・・・。

「もちろんさ!僕と来兎は親友だからね。それに・・・いずれは僕の義兄にいさんになる人かもしれないんだからね。」

「・・・?兄さんは私の兄さんですけど・・・ゆくゆくは桃矢さんのお兄さんにもなる?ん・・・?特にうちは複雑な家庭では無いですし・・・?」

「まあ、そういう事さ。茉莉たん。その時に、キミと僕はきっと・・・ぐへへ」

「だからキモいっつーの」

「桃矢センパイ・・・いくらイケメンでも、その発言はちょっと無いっスよ・・・。」

その茉莉の兄貴が目の前にいるってのに、よくもまあここまでデレデレできるものだ・・・。

「じゃ、桃矢。今日は早いけど、そろそろ解散としようぜ。お前、血ぃ出し過ぎだ。今晩はほうれん草とレバーでもたんまり食って、鉄分を補給しろ。あ、デザートはドライプルーン6つ以上な。」

「エッ、生憎、僕の家にそんなもの無いんだけど?」

「じゃあフライパンでも齧っとけ」

「そんな無茶な」

「ま、貧血にだけは気をつけろよ。じゃ。」

「ああ。じゃあね、来兎クン。」

俺は桃矢と別れた後、茉莉と華を連れて少し街を歩き回り、家へ帰った。・・・へ?何で華まで連れて帰ったかって?

・・・どうやら、今日は組のチンピラが軽ーくドンパチやるかもしれないから、俺ん家に泊めて欲しいのだと、幹部のオッサンから連絡があったのだ。後で食費や、一般的なホテル並みの宿泊費などの経費は出るそうだが・・・。まあ、ここはただの「お泊まり会」という事で、経費はお断りしておこう。

〜午後5時30分 自宅・リビング〜

さあ、中三の秋以来、久しぶりのお泊まり会が始まったわけだが・・・

「来兎君。神社でのねこ集会も終わった事だし、遊びに来てみたのだけれど・・・何やら楽しそうね。何かパーティーでもするのかしら?」

まさか猫菜が来ていたとは。しかも人間の姿で。・・・猫菜はリビングの窓を叩いて、俺を呼びかけた。

「ああ。これからお泊まり会をしようと思ってな。後輩の部下がちょっとドンパチやるみたいだから」

「随分やんちゃな後輩なのね・・・。ん?ああ、その後輩って・・・華ちゃんの事かしら?」

「そうそう。今、茉莉と一緒に台所で飯作ってんぞ。」

「へぇ。そのお泊まり会・・・私も参加して良い?」

「もちろん。今、玄関の鍵開けるから、入ってきな。」

「ありがとう、来兎君。お邪魔するわね。」

さすがに予想外の参加者だが・・・まあ、1人(1匹?)増えたところで、大した問題は起こらないだろう。

・・・せっかくみんな来たんだし、アナベルも誘おうと思っていたが・・・そういえば、旅行に行くとか何とか言ってたな・・・。

俺はその後、自室へと向かった。俺が寝るという事は、茉莉にメールで送っておけば良いだろう。・・・直接言いに行くと、また一通りの会話が始まってしまい、夕寝を妨害される恐れがあるから、家の中でもこういう時はメールでやりとりをしているのだ。さ、寝よう寝よう。俺はスマホを取り出し、茉莉に「ちょっと寝る。晩飯になったら起こして」と書いたメールを送って、そのまま自室の布団に倒れこんだ。

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