第2話 1日遅れの高校一年生

〜4月8日・午前7時 自宅・自室〜

「オラァ!!今日こそは起きたったでぇオオンッ!!」

朝っぱらからやかましい奴だ(自分の事ながら)。まあ時間通りに起きる事ができたとはいえ、眠いことには変わらないから・・・。起きても常時深夜テンションのようなものだが。

「おはよう、兄さん。父さんはもう仕事に行っちゃったよ。・・・それにしても、今日はちゃんと起きられたんだね!良かった!」

「ふぁぁ・・・まあな・・・。」

俺は目をこすりながらリビングに向かい、制服に着替えた。

「はい!朝ごはん。でも、兄さんはもうすぐ行かなきゃいけないでしょ?だから、朝ごはんは焼きそばパンにしました!」

「おお!ありがとう、茉莉!」

すると、茉莉が台所から焼きそばパンを持ってきてくれた。うん、温かい。きっと朝早く起きて、コッペパンの中に特製ソースをかけた焼きそばを挟んで作ってくれたのだろう。すごく美味そうだ。

「登校しながら食べたら、運命の出会いとかあるかもね。」

「何で食パンじゃなくてコッペパンを咥えたかなー。」

「うーん・・・食パンじゃなくても、パンなら何でも良いんじゃないかな・・・?」

「コッペパン咥えた男子高校生が同じ学校の美少女にぶつかってキュンとくるシチュエーションとか聞いた事ねえよ」

そんなものがあったら、今日こんにちの夢見るJK女子高生達は間違いなくコッペパンを咥えながらその辺の道を走っていると思う。・・・何の恥も外聞もなく。

「あらら・・・。・・・でも大丈夫。もし兄さんが運命の人に出会えなかったら、その時は私が運命の人って事だから。」

「おまえは何を言っているんだ・・・。あとついでに言えば、お前の料理を、いるかどうかもわからないような運命の相手と衝突するための犠牲に使いたくない。もし誰かとぶつかったら、当然、その衝撃でお前が作ってくれた焼きそばパンは落ちたり吹っ飛んだりするわけだろ。・・・何かそういうの、嫌なんだよな。勿体無いっつーか、作ってくれた人の気持ちを踏みにじるっつーか・・・。」

「えへへ・・・。私、兄さんの・・・そうやって、自分のために作られたものを、最後まで自分で大切にするところ、とっても素敵だと思うよ。」

「そうか?そう思ってくれてるなら嬉しいな。ありがとう、茉莉。」

・・・話がドンドンズレていっている気がするが・・・。とりあえず、もう時間もあまり無いし、そろそろ家を出なければ。茉莉とイチャイチャしている場合じゃなかった。

「じゃ、そろそろ行ってくる!!茉莉も始業式、頑張れよ!」

「うん。行ってらっしゃい!兄さん!」

こうして俺は、今日から通う高校・・・「皆光みなひかり学園高等学校」へと向かった。入学式を寝過ごした男の初登校・・・元々同じ中学にいた友達以外のクラスメート達は、「あれ、こんな奴いたっけ」程度にしか思わないだろうが・・・。まあ、その時は別に、十数人くらいこの学校に来ている中学時代の同級生とつるめば問題無いとは思うが。それに・・・俺のプリントを貰って来たという事は、アナベルも同じ高校という事だしな。クラスはまだ聞かされていないが。・・・クラス編成表は貰って来ていなかったのだろうか・・・。

〜午前8時10分 皆光学園・校門前〜

俺は電車で5駅移動し、皆光学園へと向かった。途中で同じ中学校だった友人とも会ったが・・・まあ別に面白いやり取りも無かったし、こうしてカットさせて頂く事にしよう。

そして俺は昇降口へと向かい、今日から学校に来る上級生のために貼ってあるクラス編成表の隣に貼ってある高一のクラス編成表を見た。どうやら俺はA〜G組まであるうちのD組らしい。そして、同じクラスの中には「長月 アナベル」という名前もあった。・・・俺のプリントを持ってきた時点で薄々勘付いてはいたが・・・やはり同じクラスか。この時関係の深い知り合いが同じクラスにいるというのは頼もしいものだと、改めて実感した(中学進学時の記憶が無いから、「恐らく」だが)。

〜皆光学園・1年D組〜

俺は教室の前方と後方に2つある扉のうち、前方の扉を開いて教室に入り、教卓に置いてあった座席表を見て、自分の席に座った。

俺は窓側の最後列にある席だった。上から見下ろすと、ザ・左下の位置だ。・・・よくあるボッチ席である。

「やあ!来兎!あたし達、学校の席でもお隣さんだねー!」

しかし早速、その席はボッチ席としての意味をなさなくなった。・・・右隣の席にアナベルが座っているからだ。・・・んん?この並び・・・まさか仕組まれてないよな?

「まあお隣さんと言っても、あたしが隣にしてって言ったんだけどね!先生も、光輝の後遺症の事知ってたから、快くオッケーしてくれたし!」

「やはり仕組まれていたか畜生め」

確かに、隣に記憶喪失前の俺を知っている人が居たら頼もしいけど・・・。さすがに過保護ではないかと思う。俺がまだ小さい頃に親父と離婚して家を出て行ったらしい母さんもこんな感じだったんだろうか・・・。

「まー、とりあえず今年度もよろしくな。アナベル。」

「うん!よろしくね!」

・・・などと、入学式を休んでおきながら、初日の時点で人気があった女子とつるんでいると・・・。

「オイッスゥ。お前、昨日休んでたよなぁ〜。」

「で、早速カワイコちゃん見つけちゃったって感じかよぉ〜?」

「いいご身分じゃねえかぁ〜。おねむ太郎のクセによぉ〜。」

ハイ出ました古典的なヤンキー(ヤンキーかすらも怪しい)。・・・こんな具合に敵とエンカウントしてしまうのだ。あーメンドクセー。

「なあアナベル。コイツら、知り合い?」

「ぜーんぜん!こんなやかましいのと友達になった覚えは全く・・・。」

「そっか。だよなーアッハッハ」

「「「無視してんじゃあねえっ!」」」

「「え?まだいたの?」」

「「「ーーー!!」」」

・・・正直なところ、俺とアナベルのコンビ挑発を受けてムカつかない奴はいないと思う。古典的な3人組も、歯を食いしばってイライラをこらえている。あゝ、滑稽なり。

「テメエら・・・調子乗ってんのかァ!?」

もう発言が古典的すぎてどうツッコめば良いのか・・・。調子に乗っているのはどっちだよ。

「やめなさい。男が寄ってたかってギャーギャー騒ぐものじゃ無いわ。・・・おはよう、来兎君。」

教室の後方扉が開き、もう1人、誰かが入って来た。・・・!!?・・・大人びた顔立ち、細身体型なのにG(カップ)はあるであろう巨乳・・・。こ、コイツ・・・。何でコイツが学校にいるんだ・・・!?「目黒めぐろ猫菜にいな」!!・・・実はクラス編成表と座席表を見ている時に、実はもう1つ・・・気になる名前があった。それが、たった今、俺の前の席に座った女子・・・。「目黒めぐろ 猫菜にいな」だ。まさかとは思っていたけど。・・・猫菜とは去年からの付き合いなのだ・・・。なぜコイツが学校にいるのか不思議でならない。何しろ、猫菜は・・・猫だからだ。

何を言っているか分からないとは思うが、本当に猫なのだ。と言っても、ただの猫が学校に来れるはずがない。では、なぜ名前が書かれているのか。それは、猫菜が化け猫だからである。化け猫と言っても、猫又とよく勘違いされる妖怪ではなく、一応、神様らしいが。・・・この学校にだって多分、神様特有のチートパワーでマインドコントロールでもして入学したのだろうと思う。

去年の秋。俺は近所の「猫間神社ねこまじんじゃ」付近を通りかかった際に、神社の境内で小学生クソガキ達に虐められていたとある猫を助けたという事があった。

その3日後の夜・・・。突然、家に細身で巨乳なお姉さんがやって来た。・・・第一印象の抱き方が最低な気がするが、実際そうだったから仕方ない。・・・そしてそのお姉さんは俺に抱きつくと、「ありがとう」と言って、俺の左手に、「明日、猫間神社にまた来てください」と書いてある手紙を握らせて帰っていった。・・・この短い時間に起きた事を整理できなかった俺は、眠気に襲われながらも何とか自分なりにあのお姉さんや手紙について色々考えて、翌日の夕方、再び猫間神社へと向かった。

案の定、境内で待っていた例のお姉さんから聞かされた言葉は・・・

「あなたに恩返しがしたいの。」

であった。・・・某、浦の島の太郎みたいだが・・・。本当にそんな事を言われたのだ。そこで、このお姉さんがあの猫だという事や、自身がここの神社に祀られている神だという事も明かされた。俺はしばらく混乱していたが・・・本人がそう言うならきっとそうなのだろうと、途中で考える事を放棄した。まあ、そうでもしないと説明がつかないしな。もうそういう事でいいや、という具合に。そしてそれからは、ちょくちょく家に遊びに来るようになっていた。人間の姿の時もあるし、猫の姿で来る時もあった。・・・俺の部屋にこっそり猫の姿で上がり込んでくる事もしばしばである。・・・しかし、まさか生徒のフリをして学校にまでついてくるとは。これはいくら何でも予想外すぎる。

「うおおおおおおおっ!!」

「ね、猫菜ちゃん!!?」

「何でクラスの二大マドンナがこんな奴のところに・・・!」

猫菜も、ハーフのアナベルとはベクトルが違うが、かなりの和風美人である。・・・それにしても、俺を「こんな奴」呼ばわりとは失礼な。

「なあ猫菜ちゃん。俺らの席来いよぉ!」

「お菓子もあるぜ〜?」

「俺オススメのスマホゲー、紹介してやるよ!」

釣り方が完全に小学生の誘拐と同じ手口なんだけど・・・。頭悪いのか、こいつら。

「ごめんなさい。私、スマホどころかガラケーも持ってないの(テレパシーで連絡は取れるから)。あと、お菓子もあまり食べないわ(大嘘。猫用人間用問わずお菓子大好きだろオメー。)。それに、あなた達のような野蛮人と一緒に学校生活を送るなんて、考えただけでも反吐が出そうよ。私に優しくしてくれる気があるなら、早急に退学してシベリアにでも飛んで行ってくれないかしら。」

「「「ぐはぁ(玉砕)」」」

そして、気に入らない奴の事はとことんディスり倒す。つくづく神様って怖いなーと思う・・・。それにしても、なぜにシベリア?

悲しそうに自分達の席へと帰っていく古典的な3人組の哀愁漂う背中を横目に、猫菜はアナベルに自己紹介をした。そういえばアナベルって・・・、俺の家に来る猫猫形態の猫菜の事は知ってるけど、その猫が人に化けた姿人間形態の猫菜とは面識が無いんだっけ。

「初めまして。私は目黒 猫菜。来兎君とは去年から仲良くさせてもらっているわ。よろしくね、アナベルさん。」

「ああ、あたしの事は『アナベル』で良いよ!よろしく。猫菜!」

さあ、美女(?)2人の自己紹介も終わった事だし・・・。

「・・・寝るか。」

「寝るなっ!!」

「猫に起こされてどうするのよ・・・(テレパシー)」

「ハッ・・・!!」

こいつ、直接脳内に・・・。

「ふぁぁ・・・。眠っ・・・。」

しかし、相変わらず俺の眠気は飛ばない。はぁ・・・授業中に寝てしまわなようにしないとな・・・。こんな体質だが、俺は今のところ、授業中に1度も寝落ちした事が無いのだ。そのせいで、休み時間は睡眠に持っていかれているが。

〜午後0時30分(昼休み)・教室〜

「ふぁぁ・・・やっと昼休みか・・・。」

「あー!お腹減った!!来兎ー!一緒にお昼ご飯食べよ!」

「来兎君。アナベル。私もご一緒して良いかしら?」

「もちろん!いいよね、来兎!」

「おう、ええで(適当)。ふぁぁ・・・。」

「ありがとう。・・・来兎君、そのお弁当、手作り?」

「茉莉が作ってくれたんだ。めちゃくちゃ美味いぞ」

「いいなー!茉莉ちゃんの料理、一流シェフレベルに美味しいもんね!」

「へぇ。今度、私のも頼めるかしら?」

「うーん・・・茉莉も忙しいだろうけど・・・頼んでみるか。まだ同じクラスだとは言ってないけど、『ちょこちょこ家に来る巨乳のねーちゃん』って言っとけば大丈夫だろ。・・・ダメだったら(テレパシーで)連絡するから。」

ちなみにこの場合におけるテレパシーとは、「猫菜がテレパシーを許可している存在は、お互いに意識がある状態なら猫菜といつでも会話ができる」という、猫菜が使える神としての特殊能力の事を指す。ちなみにそれを許可されているのは俺だけらしい。

こうして俺とアナベル、そして猫菜の3人で昼食を食べた後、俺は机に突っ伏して昼寝を始めた。理解の無い奴らは俺に話しかけようとしてくるが・・・今は勘弁してほしい。というわけで常時ガン無視スタイルを貫き、そのまま授業再開までずっと寝ていた。

〜午後3時20分・皆光学園前〜

俺達は帰りのホームルーム終了後、3人で途中まで一緒に帰る事にした(猫菜は家バレしても大丈夫なのかと思うかもしれないが、神主さんの親戚とかいう設定で何とか誤魔化すつもりだ。まあ、いざとなったらマインドコントロールでゴリ押しするように言ってあるし、多分大丈夫っしょ)。そして俺達は途中まで他愛の無い話をしながら、猫菜とは猫間神社で、アナベルとは自宅の前で別れて、そのまま俺は自室へと向かった。茉莉はまだ「調理部」の活動中だろうか(茉莉は調理部所属)。家にはいなかった。・・・どうせ話し相手もいないし、しばらく寝るとしよう。そういえば、俺も去年の夏休みまで調理部で、茉莉から料理を教えてもらっていたが・・・(当時、俺は中三で茉莉は中一)。去年、茉莉や俺と、よく一緒に料理をしていた、当時中二の「アイツ」は、ちゃんと最上級生らしく振舞えているのだろうか。うーん・・・。いっつも気怠げかと思えば、時々俺をからかってくるし、いろいろと不安だったが・・・今晩にでも、茉莉に聞いてみるとしよう。

そして俺は布団に身を投げ、そのまま、自身を泥沼に浸すかのように眠った。

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