第 四 章 6
サーキットでの死亡事故は、原因不明であることが多い。
転倒により致命傷を負った、とはすぐにわかる。しかし
なぜなら、サーキットが広大だからだ。広大なコースを、点のようなバイクが走り回る。マーシャルがすべてのバイクを見守ることなどできない。
そうなると誰も見ていないところで転倒する、ということが起こり、転倒の原因がわからなくなる。目撃されていれば、原因が判明することもある。損傷したバイクから転倒原因を検証することもできる。
森屋のクラッシュ、原因の特定につながるような目撃証言は得られていない。バイクは検証が不可能なほど大破している。
「この写真、もらっていい?」
「もちろん。そのつもりで持ってき――」
その時、空が白化した。
自然と、あたしも晶も雷鳴を待つ。
「遠いな、これならレースできるな」
そう言って晶は、あたしに顔を向ける。
「それでさ、今度、
SUGOとは、全日本ロードレース選手権の開催地のひとつである、スポーツランドSUGOのことだ。晶は全日本レーサーだから当然参戦する。
「その帰りに、森屋の実家に寄ってみようと思う」
SUGOは宮城県にある。もう少し北に足を伸ばせば秋田県がある。
「それで……海も一緒に行かないか。俺のトランポに乗せてくからさ。ついでに俺のレースも手伝ってくれよ」
最後は歯を見せて言った。
「……でも、SUGOに入りするの木曜日でしょ?」
レースは公式練習走行が金曜、予選が土曜、決勝レースが日曜に行われるが、全日本レベルになると設営やバイクの準備のために木曜日から現地入りする。
「仕事あるし、日曜も空いてないから……」
「そっか。一応訊いただけだから。それじゃ俺、そろそろ戻るわ」
「晶」背を向けた晶を、あたしは呼び止める「いろいろ、ありがと」
晶は笑みを見せて、手を軽く持ち上げてから戻って行った。
――ごめん、晶。
さすがに木曜日からは無理だけど、日曜日なら行こうと思えば行けた。
行けば、森屋に会うことになる。あたしは
秋田県なんて遠すぎておいそれと行けない。それが会いに行かない口実になっていた。口実がなくなって、あたしは
そう晶に言えばいいのに。晶はきっと受け入れてくれるのに、言えなかった。
あたしは自分の頬を叩く。周囲にいた人が思わずあしたを見る、それくらい強く。
もうすぐ悠真と久真のレースが始まる。切り替えなくちゃ。
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