第493話―夏の終盤には線香花火を2―

冬雅はエコバッグの持ち手を片方を持って俺と帰宅することに強く

こだわっている。

花火セットに打ち上げ花火など避けて音の小さい花火を大量に購入した。

他にも食料、嗜好品などを後先と考えずに購入してもう片方にもエコバッグを持って帰宅に向かっている。

赤と黄色が混ぜったような空になって少しは昼前後よりも涼しくなっているとはいえ暑い。

それに歩きっぱなしで体力は限界にまで到達寸前ほどインドアタイプであるので疲れている。


「ふふーん、ふーん。あっ!もう家に着きそう…お兄ちゃんこのまま終わるのも惜しいので引き戻してデート延長しましょう!」


体力のあるオタク系の美少女である冬雅さんは隣に立つ俺に向かいキラキラとした顔で言った。

素直になれて心をときめくなんて若いと思ったが、ここまで顔に出て積極的にどんどん採用するのが冬雅だったと今更に気づいた。


「その前に俺が体力が尽きて道端で倒れてしまうので却下させてもらう」


「えぇー…あっ!そうですねぇ。

じゃあ早く帰って一緒にお風呂を入りましょうよ」


「気持ちは大変に嬉しいけど今日は一人で浸かりたい気分なんだ」


さすがに一緒に入浴というのは倫理的によろしくないと思うのだ。

こんなアプローチを続けている彼女は繊細で傷つきやすい性質をさている。

なので断りもやんわりとした言葉を使って拒否している。

昨今と比べて誘うワードが危険度が上がっており拒否をしている内に俺は顔を変えない仏像のように表面上に現れずに断れるようになった。


「ひ、ひどいです。

昨日もその前…いえ今年の夏には一緒に入ってくれません。

去年あれだけ…わたしを求めてくれたのにです!」


すると冬雅は門扉の前で足を止めると、大きな声で叫んで反論をしてきた。アンラッキーなことに通りすがりの人が耳に入り俺の向ける目は冷ややかで罪人を見るようなものだった。

そして弁明しよう。俺は一度たりとも入浴を求めたことなんて無いのだ。


「冬雅ストップ。ストップぅぅ!

どれだけ去年の記憶を改竄かいざんしているの!?しつこく迫られて俺が折れたと思うのだけど」


「…うん。その今のは妄想と現実が混同してしまって…えっへへ。

でもたまには、お兄ちゃんの口からわたしと入りたいと聞きたいですよ」


去年そんなことを口走ったら牢屋生活していたと思うのだけど。

そんな危ない発言をする人と付き合いたいと思わないと推測して冬雅の先程の発言は冗談として受け取ることにしよう。

それよりも一緒に入浴と騒いでいると冬雅の家にまで届いてもおかしくないよ。すぐ近くにあるんだから。


「そろそろ家に入ろうか。

真奈が待っているだろうし」


「ですねぇ。ち、痴話喧嘩の続きは家の中でしましょう」


今のは痴話喧嘩レベルというより寸劇ではないか。ともあれ鍵を取り出して解錠してドアを開けて中へと入る。

靴を脱いで急いで玄関に向かう足音。真奈がリビングから出ると俺と冬雅は、ただいまと告げる。エプロン姿の真奈は調理中だったのかお玉レードルを右手に装備している。

真奈と簡単な話をしてから洗面所に入り手洗いを済ませてリビングに。

ダイニングテーブルの上にはミネストローネスープと副菜にご飯が置かれていた。湯気が出ており帰宅するのが分かったような速さだった。

皿洗いなど済ませてから花火セットと万が一に備えて水を入れたバケツを持って外に出た。

花火を行うのは人気ひとけが少ない河川敷でやることに3人で決めた。


(冬雅には静かな花火にしようと言ったけど。せっかくの大学生活が自粛でオンラインで思い出とか少ないだろう。せめてと打ち上げ花火を買ってしまったけど…正解だったかな)


未だにワクチン接種開始して日が経つとはいえ普段の生活にまだ自粛という我慢を要求されている。

こうした中で打ち上げ花火で楽しむのは不謹慎だと心のどこかでそう感じていた。でもたまには夏らしく

打ち上げ花火で二人に思い出というアルバムを収めてほしいと思っている。

周りに人が通らないだろう場所まで来ると花火セットと冬雅には知らず購入しておいた打ち上げ花火を地面の上に置く。


「よし、去年は出来なかった晩夏の打ち上げ花火をやりますか」


「えっ?お兄ちゃん打ち上げ花火って確か迷惑になるからって買わなかったじゃあ?」


そういう意図で言ったことを覚えている冬雅は方針の変化の速さに疑問を抱いて訊くことは予想していた。

予想はしていたけど得心のいく言葉で返す用意はしていなかった。


「あのとき…店を出てすぐ買い忘れたと告げて戻ったあのときに購入したんだよ。

…冬雅の笑顔を見ていたら最高な思い出にしないと……思って」


理論的な弁を振るうのが苦手な俺は心に揺れ動く感情を言葉に変換してそのまま伝えて応える。

やや迂遠的な説明をしたが要するに、

理路整然が苦手だから素直に応えた。


「お兄ちゃん…わたし大好きになった人がお兄ちゃんで幸せだって今夜もそう思えました」


冬雅は両手を祈るように重ねて満面な笑顔で告白ようなことを口にした。

たぶん当時の俺ならこんなお青臭いセリフを使うようになったのは冬雅の

影響を多くを受けていたのかもしれない。もう体裁ていさいを装うことを望んでいない彼女たちに自然とそうなったのではないかとつくづく思う。

提案に採用されて先に打ち上げ花火から行うことになった。

俺は導火線にライターの火で付けるとそこから離れて振り返る。

地面から夜空に向かって放つ光の一条。そして夜空の中を花が咲くように火の鮮やかな形となって自然と消えてゆく。


「わぁー!久しぶりに実物の花火を見れたよお兄さん」


先月19歳になったばかりの真奈は指を空に指したままジャンプして無邪気な笑顔で言う。


「はは、そうだね。真奈が喜んでくれて良かったよ」


「フフッ、ありがとう。

でもワタシの前ではもっと童心に返ってもいいんだよ、お兄さん」


童心に返ってもいいと勧められても容易に戻れるものではないと思いながらも俺は苦笑しながら頷いて答えるのであった。

打ち上げ花火は終わると次は手持ち花火セットで使う。まずは興味深いものを取って火を付ける。

種類はたしかラベルの方にススキと表示されている。


「うわぁーっ!?なんか恐い。思っよりもこわい」


「で、ですねぇ。お兄さんの反応を楽しむ余裕ワタシありませんよ」


真奈もススキを手にしており俺と似たような反応をしていた。

細長い筒状の先に、猫じゃらしのような形で吹き出している。

映画や青春群像劇の作品でよく海辺とかで花火シーンで見るけど実際に遊ぶと恐いと感じてしまう。


「そうですか?すごく楽しいですよ。

そうだ!

お兄ちゃん今からダンスするので見てください」


冬雅はススキを2つを手にすると火をつけて俺と真奈から距離を取って

ススキを使った舞い始める。

吹き出しの火が上手い具合にコントラストとなって軽やかで美しいかった。

冬雅がススキが無くなるまで踊ろ続けた。そして次はスパーク。


「これならワタシも恐くないのでお兄さんと普通に楽しめられます」


屈んでスパークを眺める真奈。


「お兄ちゃん次はスパークダンスを披露しますよ」


ススキと同様にスパークを2つを手にして舞おうとする冬雅。

そして最後に線香花火が残る。

なぜか高い確率で後半には残るものが線香花火。ソースは過去の自分。


「お兄ちゃんさっそく線香花火の舞いをお見せしたいと思います」


「そ、それは楽しみだけど今はゆっくりと屈んで眺めて楽しまない冬雅」


「むぅー、飽きてしまったようですねぇ。仕方ありません。おとなしく、お兄ちゃんの隣で楽しむとしまょう」


マスクつけたまま激しいダンスを延々と踊り続けたら無茶して熱中症などで倒れたら良くないのでさすがに止めることにした。


「お兄さん短い火花を眺めていると心が落ち着きますよねぇ」


「ああ、はしゃいでいたのが嘘みたいに静寂になるところが」


先程は騒いで盛り上がっていた二人も今は静かに線香花火を見ていた。

というよりも眺めているのが適切な

気がする。最後の線香花火が尽きるまで眺めながら話の花を咲かす。

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